これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第101回 “THE LAST OF US”
今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系、ケーブル系各社に[…]
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi
第101回“THE LAST OF US”
今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
早くも今年度のベストワン確定! 戦慄と感動のディストピア・ドラマ!!
本作は、2人の疫病専門家によるテレビ討論で始まる。3分ほどのシーンだが、そのうちの一人、ニューマン博士の寄生菌についてのコメントに思わず凍りつく。
“The Last of Us”はU-NEXTほかが配信するHBOオリジナル。同名の名作ビデオゲーム(いわゆる『ラスアス』)が原作の超話題作だ。看板に偽りなし、今年度のベストワン、必見中の必見、ドラマの殿堂入り確実、喪失と希望が交錯する、戦慄と感動のディストピア(反ユートピア)・ドラマなのだ!
“When you’re lost in the darkness…”
—2003年9月26日、テキサス州オースティン
ジョエル・ミラー(ペドロ・パスカル)はこの日36歳になったシングルファーザー。14歳の娘サラ、元軍人の弟トミーと、郊外で3人暮らしだ。
この日、いつものようにサラは学校へ、ジョエルとトミーは建設の仕事に出かけた。
パンデミックは突然市内で始まり、夜には郊外にも広まった。いたるところで寄生菌の感染者たちが、人に襲いかかっている。その感染力、狂暴性、スピードはゾンビの比ではない。誰もがパニックになっていた。
警察と軍隊が都市を封鎖する。彼らは素性不明の市民に対して、発砲命令を受けていた。
感染を逃れたジョエル、サラ、トミーは、車で州外へ脱出を図ったが…。
—2023年、マサチューセッツ州ボストンの隔離地域
米国の主要都市が廃墟と化して久しい。今もうごめく無数の感染者と、私兵・無法者の世界だ。軍が統制する隔離地域では、生き延びた人々が細々と暮らす。脱走者は死刑になる。
ジョエルは日雇いの仕事をする一方で、パートナーのテス(アナ・トーヴ)と薬物等の密輸をしている。
ある晩ジョエルとテスは、反政府組織「ファイアフライ」の支部長マーリーンと鉢合わせた。彼女は2人に仕事を依頼する。軍の攻撃で負傷した自分に代わって、エリーという14歳の孤児(ベラ・ラムジー)を、隔離地域外の仲間のもとに届けて欲しいというのだ。
(一体この好戦的なティーンエージャーのどこが特別なんだ?)
ジョエルとテスは疑問を覚えつつも、軍用車・武器と引き換えにエリーの「運び屋」を引き受ける。危険だが、単純で実入りがいい仕事のはずだった。
だが、それが人類の存続をかけた、想像を絶する苦難の旅になることを知る由もない…。
“I’m scared of ending up alone”
ジョエル役のペドロ・パスカルは、“Game of Thrones”と“Narcos”で注目された。タイトルロールを演じたスター・ウォーズ・ドラマ“The Mandalorian”(本ブログ第65回参照)は大成功したが、彼の顔はヘルメットでほとんど隠れていた。本作でパスカルは、生まれながらのサバイバーであるジョエルを圧巻の存在感で体現する。
ベラ・ラムジーは英国出身の19歳。“Game of Thrones”でリアナ・モーモントを3シーズン演じて、強烈な印象を残した。シリアスドラマ、歴史もの、コメディ、声優、と何でもこなす憎らしいほど上手いアクターだ。今回の凄絶な演技はまた別格で、悲痛の叫びをこらえ気丈に振る舞うエリーに魂を吹き込んだ。
パスカルとラムジーの間に働く強烈なケミストリーが、無口なジョエルと皮肉屋エリーの深いキャラクターアーク(人物の成長や変化の軌跡)に圧倒的な説得力を与えた。
テス役のアナ・トーヴは、主演したSci-fiスリラーの傑作“Fringe”が代表作。ジョエルが頼るタフなパートナーを貫禄で演じている。
可憐なサラ役のニコ・パーカーと理想家トミー役のガブリエル・ルナに加えて、多彩な脇役が熱い演技で競演する。レジスタンスの非情な指導者キャスリン役のメラニー・リンスキー、ジョエルとアライアンスを組む聡明な若者ヘンリー役のラマー・ジョンソン、そして極めつけが、醜悪なカルトリーダーの牧師デビッドを怪演するスコット・シェパードだ。
“Look for the light”
ショーランナー(兼共同監督兼共同脚本)はクレイグ・メイジンとニール・ドラックマン。メイジンはHBOの傑作“Chernobyl”(『チェルノブイリ』、本ブログ第69回参照)が代表作。ドラックマンは『ラスアス』のクリエーターだ。
プレー時間の長さを考えれば、ビデオゲームは映画より遥かにテレビドラマとの親和性が高い(『ラスアス』の映画化は2016年に中止)。メイジンとドラックマンは原作の世界観とストーリーをそのままに、ホラーの枠を遥かに超えた渾身のヒューマンドラマを作り上げた。
よく練られた脚本、繊細で無駄のない会話、選り抜きのBGMが時間を忘れさせる。醜くも美しい映像は鮮烈で容赦ない。絶え間ない緊迫感の中で、シーンのひとつひとつが濃密で忘れ難く、各話の完成度の高さは他に類を見ない。「このエピソードが永遠に続けばいいのに…」と思え、まるで珠玉の短編集を読んでいるように感じる。
その中でも第3話は番外編的な、胸の張り裂けそうなラブストーリーとなっている。
要塞化した自宅で暮らす陰謀論者のビルと、彼の仕掛けた罠にかかった善良な男フランク。この奇妙な出会いは、孤独な2人の人生を劇的に変える。2人を演じるニック・オファーマンとマレー・バートレットの演技が絶品で、ラストシーンに流れるリンダ・ロンシュタットの“Long Long Time”が深い余韻を残す(<今月のおまけ-2>参照)。
傷心の父親と、親の顔を知らない孤児は、本能的に互いを拒絶する。ジョエルの目に映るのは、実の娘サラとは正反対の、粗野で狡賢い不良少女。エリーの前にいる男は、想像上の父親とはかけ離れた、強面で非情な密輸業者。だが極限の状況は彼らに選択の余地を与えない。
—信頼し合うしか、生き延びるすべはない。
ジョエルとエリーはかすかな希望に賭けて、今日1日を生き抜く。暴力は避けて通れない。だからこそ、2人が初めて一緒に笑うシーンが胸に突き刺さる。
このドラマが怖いのは、ゾンビまがいのモンスターが押し寄せるからではない。ジョエルとエリーの脳裏をよぎる「お互いを失う恐怖」が、観る者に伝染するからなのだ。
自慢のクオリティに娯楽性がマッチしたときのHBOは最強で、本作はまさに「ドラマ界のレクサス」の面目躍如。
『ラスアス』ファンである必要は全くない。シーズン2の制作も決まった。
“The Last of Us”は今年度のベストワン間違いなし、9月にはエミー賞を席巻しているはず。看板に偽りなし、必見中の必見、殿堂入り確実、喪失と希望が交錯する、戦慄と感動のディストピア・ドラマなのだ!
原題:The Last of Us
配信:U-NEXTほか
配信日:2023年1月16日~
話数:(1話 43-80分)
<今月のおまけ-1> “THE LAST OF US x MARIO KART”
SNL(“Saturday Night Live”)による、“Mario Kart”の“The Last of Us”風パロディ。実はペドロ・パスカルの素顔は、「おもろいフツーの親父」だった!
<今月のおまけ-2> “Long Long Time” by Linda Ronstadt
曲もエピソードも、“heartwarming”で“heartbreaking”だ。
Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。
※※特報
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