これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第106回 “WILL TRENT”
今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系、ケーブル系各社に[…]
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi
第106回“WILL TRENT”
今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
予告編:『GBI特別捜査官ウィル・トレント』 本予告
「現代ミステリーの女王」の人気シリーズがドラマ化!
カリン・スローターは、今や「現代ミステリーの女王」として君臨する世界的ベストセラー作家。本作の原作となった「特別捜査官ウィル・トレント・シリーズ」(全14作)は、筆者も大ファンだ。
“Will Trent”はDisney傘下のABCが制作、スローター自らが製作総指揮を務める待望の一作。知的な推理ドラマ、爽快な刑事ドラマ、ハートフルな人間ドラマが混然一体となった、スーパー・クライムドラマなのだ!
“See crime through his eyes”
—ジョージア州アトランタ
ウィル・トレント(ラモン・ロドリゲス)は、ジョージア州捜査局(GBI)の特別捜査官だ。常に三つ揃いのスーツにネクタイ、スマホではなくケータイを好み、局内では変人と思われている。だが彼にはズバ抜けた観察力と分析力があり、断トツの検挙率を誇る。
ウィルの愛車は変な色の‘73年型ポルシェ、愛犬はチワワの保護犬ベティだ。
アンジー・ポラスキー(エリカ・クリステンセン)はアトランタ市警(APD)殺人課の刑事。おとり捜査官時代に薬物依存症になり、リハビリをしながら勤務する。
共に孤児だったウィルとアンジーは、同じ養護施設で育った。劣悪な環境で、里親による搾取と性的虐待が横行していた。ウィルは難読症のために仲間からイジメにあい、「ゴミ箱」(“Trashcan”)と呼ばれた。ウィルとアンジーは助け合い、憎み合い、その腐れ縁は今も続いている。
フェイス・ミッチェル(イアンサ・リチャードソン)は、APDからGBIへ移籍してきた若く優秀な刑事だ。フェイスはウィルの相棒となるが、ベテラン警官だった母親がウィルによってAPDを追放された因縁がある。
15歳のときに出産した息子は、現在は大学1年生だ。
アンジーとパートナーを組むマイケル・オームウッド(ジェイク・マクラフリン)は、有能だがPTSD(心的外傷後ストレス障害)に悩まされている。マイケルは家族持ちだが、酔った勢いで一度だけアンジーと浮気をしたことがある。
アマンダ・ワグナー(ソーニャ・ソーン)は野心家できつい性格だが、フェアで頼りがいのあるGBI副長官。ウィルの特異な能力とフェイスの高い潜在能力を見抜き、2人を引き抜いた。
郊外の高級住宅地でティーンエイジャーの娘エマが殺された。帰宅した母親はナイフを持った少年と鉢合わせ、格闘の末殺してしまう。だが殺された少女は実はエマの親友で、ナイフの少年も被害者だったことが判明する。エマは誘拐されたのだ。
アマンダはウィルとフェイス、アンジーとマイケルに合同捜査を命じた!
魅せるエリカ・クリステンセン!
ウィル・トレント役のラモン・ロドリゲスはプエルトリコ出身。HBOの傑作刑事ドラマ“The Wire”、『トランスフォーマー/リベンジ』(2009)で見た顔だ。今回はチャラ男のイメージを脱して、堅物で優しい変人捜査官を奥行きのある演技で演じる。
本作のハートはエリカ・クリステンセンだ。代表作は大ヒットコメディ“Parenthood”だが、筆者にとっては、『プール』(2002)で演じたサイコパスのティーンエイジャーのイメージが強い。本作では、奔放で正義感の強いアンジーを圧倒的な存在感と説得力で演じてみせた。
クリステンセンとロドリゲスとの間には、磁力のようなケミストリーが働く。
さらに、いつも不機嫌なアマンダ役のソーニャ・ソーン(“The Wire”の刑事キーマ)、承認欲求の強いフェイス役のイアンサ・リチャードソン、タフな仮面に素顔を隠すマイケル役のジェイク・マクラフリンの3人が、無双のアンサンブルキャストを形成する。
彼は彼女の良心、彼女は彼の守護天使だった…
ショーランナー(兼共同脚本)は、スポーツドラマの傑作“Friday Night Lights”を手掛けたリズ・ヘルデンスと、大ヒット・ファンタジー“Once Upon A Time”のダニエル・T・トムセン。
カリン・スローターは、あえて凶悪で残虐な犯行描写を前面に出して、被害にあった女性とその家族の心の闇を描いてきた。だがABCは民放ドラマなので、過激な表現は御法度だ。ヘルデンスとトムセンは、原作の骨太の骨格はそのままに、猟奇的で残酷な描写はトリミングした。(スローターのコアなファンは「ヌルい」と言うだろう。)
また、暗くて憂鬱なウィル・トレントのキャラも、深みと温厚さを残してリファインされている。
全13話のうち最初と最後のストーリーは2話完結で、それぞれ原作シリーズ第2作の『砕かれた少女』、第6作の『罪人のカルマ』がベースで見応え十分。残りの9話は1話完結で、ウィルとフェイス、アンジーとマイケルが別々の事件に挑む。
犯罪捜査を通してフラッシュバックで描かれる登場人物たちの内面と過去が実にヴィヴィッドで、他のクライムドラマとは一線を画する。
本作最大の魅力は、ウィルとアンジーとの危なっかしくも強い絆だ。養護施設での出会いから25年間、寛容なウィルはアンジーの良心、強靭なアンジーはウィルの守護天使だった。お互いがこの世界で唯一自分の理解者で、心の拠りどころなのだ。
ウィルとフェイス、アンジーとマイケルとの信頼関係の構築プロセスも見どころで、丁寧にときにユーモアを交えて語られる。もちろんウィルの名探偵ぶりと、ときどき見せる迷探偵ぶりも楽しい。
エピソードが進むに連れて欠点だらけの各キャラがいとおしくなり、イッキ観状態に陥る。怒涛のシーズンフィナーレで明かされるウィルの出生の秘密に驚愕し、胸を打たれる。
“Will Trent”は、知的な推理ドラマ、爽快な刑事ドラマ、ハートフルな人間ドラマが混然一体となった、スーパー・クライムドラマなのだ!
シーズン2の制作も決まっている。
尚、Netflixのリミテッドシリーズ“Pieces of Her”(『彼女のかけら』)もスローターの原作だが、こちらはお勧めしない。
原題:Will Trent
配信:Disney+
配信開始日:2023年7月5日
話数:13(1話 43-46分)
<今月のおまけ> 「My Favorite Movie Songs」 #79
Title: “Somebody Up There Likes Me”
Artist: Perry Como
Movie: “Somebody Up There Likes Me” (1956)
ポール・ニューマン主演の『傷だらけの栄光』より。
タイトルはニューマンのセリフになっていて、これに恋人役のピア・アンジェリが“Somebody down here, too”と応える。粋なのだ。
Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。
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