これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第108回 “THE NEWSROOM”に学ぶ「ジャーナリズム」
今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系、ケーブル系各社に[…]
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi
第108回“THE NEWSROOM”に学ぶ「ジャーナリズム」
今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
予告編:『ニュースルーム』 本予告
「名作探訪シリーズ」第3弾!!!
新作ドラマもいいが、U-NEXTのラインナップに本作を見つけた。
2012-2014年にHBOで放映された“The Newsroom”は、ジャーナリストの資質と矜持を問う必見の社会派ドラマ。10年以上たった今でもまったく色褪せず、新鮮でスリリングだ。
そこで今回は、「“Law & Order”に学ぶ『正義』」(本ブログ第30回参照)、「“The West Wing”に学ぶ『危機管理』」(同第33回参照)に続く第3弾として、この名作を取り上げる。
ジェフ・ダニエルズによる伝説のスピーチを含む第1話をテキストに、米国ジャーナリズムの世界を覗いてみよう!
シーズン1 パイロット・エピソード:“We Just Decided To”(72分)
(本エピソードは2012年6月24日に全米で放映された。)
—イリノイ州の名門ノースウェスタン大学のフォーラムにて
壇上では、学生代表の質問に対して、リベラルの女性と保守の男性が熱い議論を交わしている。だがもう一人の論客ウィル・マカヴォイ(ジェフ・ダニエルズ)は終始無言だ。司会者に振られても、ドライなジョークで観客を困惑させている。
キュートな女子大生によるその日最後の質問は、「アメリカが世界一偉大なのはなぜでしょう?」だった。
リベラルと保守のゲストは、それぞれ「多様性と機会」、「自由と自由」と即答した。
のらりくらりと質問をかわすウィルに業を煮やした司会者は、執拗に食い下がる。
遂に折れたウィルは、堰を切ったように話し始めた。
「アメリカは世界一じゃない。…世界一の根拠は何もない。読み書きは世界7位、数学27位、科学22位、平均寿命49位、乳児死亡率178位…。世界一は3つだけ。人口に対する囚人の割合、天使を信じる大人の数、それと断トツの国防費だ」
館内は静まり返った。
ウィルは続ける。
「昔は世界一だった。正義のために戦い、自分を犠牲にし、隣人を気にかけ、有言実行で自慢しなかった…。飛躍的な技術進歩を遂げ、宇宙を探検し、病気を治し、世界一の芸術家や経済を育てた。…支持政党で自分を分類せず、たやすく動じなかった。…アメリカはもはや世界一偉大な国ではない。—これでいいか?」
—2010年4月20日(3週間後)
ウィル・マカヴォイは、NYのニュース専門局ACN(“Atlantis Cable News Channel”)の看板番組「ニュースナイト」のアンカーだ。元検事のウィルは頭脳明晰で正義感が強く、かつては才気にあふれていた。だが今はエッジを失い、傲慢で気難しくなり、視聴率競争で疲弊している。
チャーリー・スキナー(サム・ウォーターストン)はACNの報道局長でウィルの上司だ。チャーリーはウィルが大学のフォーラムで炎上した後、彼に休暇を取らせ、その間に「ニュースナイト」のスタッフを刷新した。新しいEP(“Executive Producer”)は、マッケンジー(マック)・マクヘール(エミリー・モーティマー)。マックは業界最高のEPで、最近まで従軍記者としてアフガニスタン、イラク、パキスタンを飛び回っていた。
だが復帰したウィルは激怒し、彼女を拒否する。マックはウィルの元カノで、3年前に手ひどくウィルを裏切ったのだ。
そこへ緊急速報が飛び込んできた。ルイジアナ州沖80キロの海底で、BP社の油田が爆発した。水深5500メートルで掘削中だったリグから、桁外れの規模の原油が流出している。
ACNのスタッフは活気づく。チャーリーは、その日の「ニュースナイト」の持ち時間すべてを、この史上最悪の環境破壊に費やす決定を下した。
カリスマ的演技で圧倒するジェフ・ダニエルズ!
ウィル役のジェフ・ダニエルズと言えば、メガヒットしたカルト的コメディ『ジム・キャリーはMr.ダマー』(1994)で演じた、’おバカなハリー’役しか思い浮かばなかった。だが本作でそのイメージは一新された。ダニエルズはこの難役をカリスマ的演技でこなし、エミー賞主演男優賞を受賞した。
マック役のエミリー・モーティマーは英国出身。心温まるラブストーリー『Dearフランキー』(2004)の、優しいシングルマザー役が記憶に残る。従軍記者として事実を伝え、EPとして理想を追い、かつて裏切ったウィルを想い続けるタフで優しいマックは、忘れえぬキャラクターとなった。
チャーリー役のサム・ウォーターストンは、リーガルドラマの最高峰“Law & Order”で、不屈の次席検事ジャック・マッコイ役を16シーズン務めた。本作では、元海兵隊員で気骨ある報道局長を颯爽と演じる。
鋭敏だが落ち着きのないマックの部下マギーを演じたアリソン・ピルは、カナダ出身。最近では、“Star Trek: Picard”で演じた、人工生命の専門家ジュラティ博士が記憶に新しい。実に達者なアクターだ。
マックの右腕ジム役のジョン・ギャラガー・Jrはミュージシャンで、トニー賞に輝くミュージカル・アクターでもある才人。本作では、密かにマギーに想いを寄せる繊細なジャーナリストを好演した。
さらに、ACNの親会社の強面CEOレオナを演じたジェーン・フォンダが、作品に風格を与えている。
「かつてジャーナリズムは『使命』だった」
ショーランナー(兼共同脚本)のアーロン・ソーキンは、政治ドラマの金字塔“The West Wing”、 アカデミー脚色賞を受賞した『ソーシャル・ネットワーク』(2010)が代表作。鋭い政治感覚と強烈なマシンガントークが売りの「ソーキン節」は、本作でも炸裂する。
ソーキンはACNという架空のテレビ局を舞台に、「BP流出事故」以外にも、「エジプト革命」「福島原発事故」「ビンラディンの殺害」「ボストンマラソン爆弾テロ事件」など、現実の時事問題をタイムリーに扱う。実際のニュース映像を駆使して徹底的にリアリティーを追求する。中立性を尊ぶ硬派なニュース番組の制作プロセスが、スピード感・緊迫感たっぷりに描かれるのだ。
マックが理想とする「罵り、ゴシップ、覗き見主義と決別した良質な番組作り」が、少しずつ結実していく。「高潔な職業としてのジャーナリストの復活」が、夢物語ではなくなる。
ウィルとマックの長年の絆が試される。バラバラで頼りなかったチームが、高い志と倫理観を持つタフな戦闘集団に生まれ変わる。彼らの喜び、怒り、葛藤、恋愛、失敗、成長を通して骨太な全25のエピソードには血が通い、深い余韻が残る。
“The Newsroom”は、ジャーナリズムの観点から現代アメリカを俯瞰する。そこに巣食う病巣をえぐり、暴露し、議論を投げかける。観る者の良識と正義感に訴え、ジャーナリストの資質と矜持を問う、必見の社会派ドラマなのだ!
原題:The Newsroom
配信:U-NEXT、Amazon Prime
制作:HBO(2012-2014年)
話数:25(全3シーズン、1話 47-72分)
<今月のおまけ> 「My Favorite Movie Songs」 #80
Title: “Winner Takes It All”
Artist: Sammy Hagar
Movie: “Over the Top” (1987)
アームレスリングの世界を描いた、スタローンの隠れた名作!
Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。