これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第109回 “STAR TREK: STRANGE NEW WORLDS”
今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系、ケーブル系各社に[…]
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi
第109回“STAR TREK: STRANGE NEW WORLDS”
今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
予告編:『スター・トレック:ストレンジ・ニュー・ワールド』 本予告
純粋な驚きと感動、初心に帰った“Star Trek”!
本作は、“Star Trek: The Next Generation”(1987-1994)以降で最良のスター・トレック・ドラマ。
オリジナルシリーズ(1966-1969)の10年前を描く前日譚で、“Star Trek: Discovery”(2017~、本ブログ第40回参照)、“Star Trek: Picard”(2020-2023)を凌ぐ面白さだ。
初心に帰った“Star Trek: Strange New Worlds”は、スター・トレック未経験でも存分に楽しめる健全娯楽作品。改めてSci-Fiドラマの可能性を確信させる、純粋な驚きと感動に満ちたシリーズ最新作なのだ!
(以下タイトル表記上”Star Trek:”部分は省略。)
“It’s five-year mission, to explore strange new worlds…”
—stardate: 1739.12(西暦2251年)
クリストファー・パイク(アンソン・マウント)が、深い雪に覆われたモンタナ州の自宅に引きこもって3カ月。疲労がにじむ髭面で、今日もお気に入りの古典SF映画『地球の静止する日』を観ている。同居しているガールフレンドは、彼の精神状態を憂慮していた。
パイクは、惑星連合下の宇宙艦隊に属するUSSエンタープライズ(USSは“United Space Ship”の略)の船長。同船は現在スペースドックで修理中だ。
最後の任務で、パイクは期せずして自分の未来を見てしまった。いつ、どのように死ぬのかを知ったのだ。このことは彼を悩まし、トラウマとなって任務に復帰する決意を揺るがしている。
そのころエンタープライズの科学士官スポック(イーサン・ペック)は、ヴァルカン人の恋人からのプロポーズを受け入れたところだった。スポックはヴァルカン人の父と地球人の母を持つ。
USSアーチャーが惑星Kiley279でファーストコンタクトの任務中に、3名のクルーが消息を絶った。パイクは即時復帰と、彼らの救出を命じられる。3人の一人ウナ(レベッカ・ローミン)は、エンタープライズの副長(通常“Number One”と呼ばれる)なのだ。
エンタープライズに、スポックを始めとする精鋭のクルーが再集結した。
Kiley279に近づくと、エンタープライズは奇襲攻撃を受けた。使用された武器は、ワープ技術を転用したものだった。地球から2世紀は遅れている星の住人が、こんなテクノロジーを持っているはずがない。
おりしもKiley279では2つの種族が紛争中で、この種の武器が使われれば、かつての地球のように自滅してしまう。パイクには、ウナたちを救出し、さらにこの星を破滅から救う手立てが必要だった。
だが、宇宙艦隊の規約“General Order 1”(後の“Prime Directive”:「艦隊の誓い」)は、異星人の生命や文明の進化に干渉することを一切禁じている。
ジレンマに陥ったパイクは一計を案じる—
The Magnificent Nine of USS Enterprise!
パイク役のアンソン・マウントは、硬派な西部ドラマ“Hell on Wheels”(2011-2016、筆者のお気に入り)で、主役の元南軍兵カレン・ボハナンを演じた。本作では、誠実で勇敢、器の大きい正統派の宇宙艦隊船長を悠然と演じる。ガンマンからスペースシップの船長へ、見事な変貌ぶりだ。
スポック役のイーサン・ペックはグレゴリー・ペックの孫(!)。ヴァルカン人と地球人の対立する感情に苦悩する、若きスポックを好演する。
ウナを演じたレベッカ・ローミンは、『ファム・ファタール』(2002)の悪女、『X-Men』シリーズのミスティークと、セクシーな役柄で日本でも顔なじみだ。本作では、パイクの頼れる副長を貫禄で演じる。
パイク、スポック、ウナはオリジナルシリーズと“Discovery”に登場し、前者ではそれぞれを異なるアクターが演じた(スポックを演じたのは、もちろんレナード・ニモイ)。
さらに、悲惨な過去の記憶に悩む警備主任ラアン(クリスティーナ・チョン)、多言語を操る士官候補生ウフーラ(セリア・ローズ・グッディング)、凄腕の操舵手オルテガス(メリッサ・ナヴィア)、難病の娘を抱える医療主任ムベンガ(バブス・オルサンモクン)、スポックに想いを寄せる看護師チャペル(ジェス・ブッシュ)、盲目の主任機関士ヘマー(ブルース・ホラック)を加えた9人が、エンタープライズの主要クルーだ。
「スター・トレックって、こういうドラマっだったよなあ」
ショーランナー(兼共同監督権共同脚本)の一人アキヴァ・ゴールズマンは、『ビューティフル・マインド』(2001)でアカデミー脚本賞を受賞、また“Discovery”と”Picard”を手掛けたベテランだ。
本作は“Discovery”のスピンオフでもあり時代設定が重なるが、作風はまったくちがう。“Discovery”はシリーズの新たな方向性を追求し、よりパワフルで洗練された複雑系ドラマ。
一方“Strange New Worlds”は、オリジナルシリーズや“The Orville”(本ブログ第54回参照)と同様に、1話完結型のオーソドックスなアプローチだ。彩りに富んだエピソードは、「防御能力を持つ無人の彗星」 「光で感染するウイルス」 「子供の犠牲によって生き延びる種族」など調査・探検ものが中心で、オリジナルシリーズへのリスペクトにあふれている。
また、残虐な原始種族ゴーンや、100年ぶりに姿を現すロミュラン人のエピソードは、戦闘シーン満載で迫力満点。中でも、絶体絶命の危機に陥ったエンタープライズを救うために、若き日のカーク船長(ポール・ウェズレイ)とパイクが共闘するシーンは感動的だ。
加えて、売れっ子ジェフ・ルッソによる雄大なオープニングテーマ、最新鋭の特撮ながらどこかレトロ調な映像、濃密で味わい深い脚本、躍動する個性豊かなキャラクターたちが、初心に帰ったスター・トレックを輝かせる。
本作を観て、「スター・トレックって、こういうドラマっだったよなあ」と、しみじみとした気持ちになった。“Strange New Worlds”は、改めてSci-Fiドラマの可能性を確信させる、純粋な驚きと感動に満ちたシリーズ最新作なのだ!
シーズン3の制作も決まっている。本作は、12月1日から日本で配信開始のParamount+の新作ラインナップの一本だ。
原題:Star Trek: Strange New Worlds
配信:Paramount+(WOWOWオンデマンド、J:COM経由)
配信開始日:2023年12月1日(S1)、2024年1月19日(S2)
話数:20(2シーズン、1話 46-62分)
<今月のおまけ> 「My Favorite Movie Songs」 #82
Title: “The Last Dragon”
Artist: Dwight David
Movie: “The Last Dragon” (1985)
‘80年代青春カンフー映画の隠れた名作!
Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。