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これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第112回 “TOKYO VICE”

これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第112回 “TOKYO VICE”

今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系、ケーブル系各社に[…]

 

“Viewer Discretion Advised!”
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi 

第112回“TOKYO VICE”

 

“Viewer Discretion Advised”は海外の映画・テレビ番組等の冒頭で見かける注意書き。「バイオレンスやセックス等のコンテンツが含まれているため、視聴の可否はご自身で判断して下さい」という意味。

 

今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
 

 

予告編:『TOKYO VICE』 本予告

 

マイケル・マンによる硬派でスタイリッシュなクライムドラマ!

嬉しいことに、HBO Max(現Max)による2022年度作品で、WOWOWが国内独占放送していた本作が、現在Netflix、U-NEXT、hulu Japanでも視聴可能だ。

 

製作総指揮に名を連ねるのは、“Miami Vice”(1984-1989)や『ヒート』(1995)を生んだマイケル・マン。“Tokyo Vice”は、東京のアンダーワールドを舞台に、若きアメリカ人記者とベテラン刑事による執念の捜査を描く、硬派でスタイリッシュなクライムドラマなのだ!

 

闇社会に飲み込まれていく記者と刑事!

—1999年、東京
ジェイク・アデルスティーン(アンセル・エルゴート)は、野心家の若きジャーナリスト。上智大で日本文学を学び、卒業後に最難関の明調新聞社に合格した。ジェイクは同社初めての外国人社員で、新人への慣例により警視庁記者クラブ担当となった。

 

片桐(渡辺謙)は、家庭では良き夫で娘二人の良き父親。職場の警視庁組織犯罪対策部では、強面の敏腕刑事だ。愛車は赤の2代目フェアレディZ。

 

サマンサ・ポーター(レイチェル・ケラー)は、ユタ州出身の元モルモン教の宣教師。現在は歌舞伎町の高級クラブ「オニキス」の売れっ子ホステスだ。

 

佐藤(笠松将)は暴力団千原会の組員。若手のホープだが、非情になり切れない甘さもある。佐藤はサマンサに惹かれている。

 

ジェイク、サマンサ、佐藤は、オニキスで初めて出会う。

 

ジェイクは早くも明調新聞の保守的な社風に直面していた。外国人嫌いの上司からは「ガイジン」と呼ばれ、差別とパワハラに悩まされる毎日だ。
幸いジェイクのスーパーバイザー丸山詠美(菊地凛子)は厳しいがフェアで、彼を理解してくれる。だがこのまま何ら結果を出せなければ、クビになってしまう。ジェイクは焦っていた。

 

北新宿でジョギング中の中年男性が刺殺された。ほどなくして、歌舞伎町で初老の男が焼身自殺を遂げた。ジェイクは、この二人が同じ金融ローン会社から多額の借金を背負っていた事実をつかみ、独自に調査を始める。
一方片桐は、ジョギング男性刺殺事件の不自然な展開に疑問を持っていた。

 

2つの事件が結びつき、ジェイクと片桐の人生が交錯した。
そして東京の闇社会は、二人を翻弄しながら飲み込んでいく—

 

主役級のインパクトがある笠松将!

ジェイク役のアンセル・エルゴートは、ロマコメの佳作『きっと、星のせいじゃない』(2014)、ユニークなカーアクション&ラブストーリー『ベイビー・ドライバー』(2017)でブレーク。歌手でもあり、『ウェスト・サイド・ストーリー』(2021)では主役のトニーを演じた。
エルゴートは本役のために日本語の特訓をしていたが、新型コロナによる7か月間の撮影中断のおかげで格段に上達したという。

 

片桐役の渡辺謙はさすがの貫禄と迫力で、射貫くような眼光はどう見ても鬼刑事にしか見えない。
丸山役の菊地凛子は、高い演技力・英語力のおかげで、今ではハリウッドでも得難い日本人アクターとなった。

 

レイチェル・ケラーは、FX制作のスーパーヒーロー・ドラマ“Legion”が代表作。サマンサが部屋でWinkの『いつまでも好きでいたくて』を聞くシーンは、妙にフィットしていた。
ジェイクとサマンサのキャラにリアリティがあるのは、エルゴートとケラーのしっかりした日本語による演技に負うところが大きい。

 

筆者は邦画・国内ドラマを観ないので、わき役の日本人俳優をほとんど知らない。
その中で、群を抜く存在感で主役級のインパクトがあったのが、のし上がるヤクザ佐藤をクールに演じた笠松将だ。

 

さらに、型破りな刑事宮本役の伊藤英明、昔気質の千原会組長石井を演じた菅田俊、残虐非情の組長戸澤を演じた谷田歩、打算的な戸澤の愛人美咲を演じた伊藤歩らも忘れがたい。

 

日本が舞台の米国映画・ドラマ史上の最高傑作!

ショーランナー(兼共同脚本)のJ・T・ロジャースは、トニー賞受賞作“Oslo”で知られる劇作家。原作はジェイク・アデルスティーンによる同名の回顧録だ。ロジャースとアデルスティーンは長年の友人だという。

 

製作総指揮に加えてパイロット(第1話)の監督を務めたマイケル・マンは、東京の夜景を駆使して作品のトーンを決定づけた。
(蛇足だが、マンは昨年『ヒート』(1995)の続編となる小説“Heat 2”を共著で書きあげ、小説家としてデビューした。極上の犯罪小説で翻訳も出ているので、『ヒート』ファンにはお勧めだ。)

 

オール日本ロケを敢行した映像は美しくスタイリッシュ。日本の仁侠映画とアメリカのハードボイルド小説をブレンドしたような作風は珍しくはないが、違和感なくまとまった。

 

本作で扱われるのは派手な事件ではない。だが、ジェイクの目を通して描かれる東京のアンダーワールドは、新鮮でエキサイティングだ。

ストーリーは、高いテンションと緊迫感が途切れることなく進行する。アクションシーンは少ないが、どっしりと構えた拳と刃物による戦闘は見ごたえ十分。

 

各エピソードは、真相を追求するジェイクと妥協を許さない片桐との友情を縦糸に、ヤクザ間の熾烈な抗争を横糸に展開する。また、各登場人物の矜持、憎悪、悔恨、友情、恋愛などの心理描写が複雑に絡み合うが、緻密な脚本が絶妙にコントロールしている。

 

天性のジャーナリストゆえに危険を吸い寄せるジェイク、苦悩しながらもヤクザという生き方しかできない佐藤、祖国を捨てて日本で人生をやり直すサマンサ、—この3人をめぐるサイドストーリーも大きな見どころだ。

 

“Tokyo Vice”は、『ザ・ヤクザ』(1974)や『ブラック・レイン』(1989)を凌駕する、日本が舞台の米国映画・ドラマ史上の最高傑作。新聞記者、刑事、極道の生きざまを鮮烈に描く、硬派でスタイリッシュなクライムドラマなのだ!

 

米国では、Maxが2月8日からシーズン2を配信中で評判はいい。日本では4月6日からWOWOWで放送予定なので、今のうちに追いついておこう。

 

原題:Tokyo Vice
配信:Netflix、U-NEXT、WOWOWオンデマンド、hulu Japan
放送開始日:2022年4月24日(WOWOW)
話数:8(1話 54-64分)

 

<今月のおまけ> 「My Favorite Movie Songs」 #84
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Movie: “Black Rain” (1989)

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写真Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。