これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第114回 “TWISTED METAL”
今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系、ケーブル系各社に[…]
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi
第114回“TWISTED METAL”
今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
予告編:『ツイステッド・メタル』 本予告
ゲーム感覚の世紀末スーパーアクション・コメディ!
本作はPlayStationの同名シューティング・カーアクション・ゲームが原作、NBC傘下のPeacockが制作、Hulu Japanが配信する、待ちに待った一作だ。
“Twisted Metal”はアドレナリン全開の、まるで『マッドマックス』のコメディ・バージョン。ゲーム感覚で一気観させる、ナンセンスでブッ飛んだ世紀末スーパーアクション・コメディなのだ!
“Twenty years ago, the world fell to shit!”
—近未来のカリフォルニア
20年前、あるバグによって地球上の全コンピューターが破壊された。送電網はダウンし、インターネットも消滅。ポルノにアクセスできない連中が暴徒化し、壮絶な物資の奪い合いが始まった。
各都市が壁を築いて犯罪者を締め出した結果、世界は壁の内側と外側に2分化した。
ジョン・ドウ(※)(アンソニー・マッキー)は、陽気で気のいい腕利きのミルクマン(運び屋)。孤児だったジョンは、親の顔も自分の名前も思い出せない。愛車のエヴリンは、武装改造してオレンジと黒に塗り分けた2002年式スバル・インプレッサ。ジョンはひとたびステアリングを握ると、したたかで超絶テクのスーパードライバーに変身する(ただし彼は縦列駐車が苦手だ)。
ある日、ジョンはニュー・サンフランシスコ市の最高責任者レイヴン(ネーヴ・キャンベル)に招かれ、初めて「内側の世界」を垣間見る。レイヴンはジョンを巧みにもてなし、極秘の仕事を持ちかけた。それは、ニュー・シカゴに行ってある荷物を預かり、戻ってくるというものだった。片道3千マイル以上を走破する過酷な旅で、しかも国内最悪の無法地帯を孤立無援で突破しなければならない。
報酬は正式な市民権。自宅を持ち、飢えることもなく、トイレットペーパーが自由に使える生活が保障されるのだ。ジョンはその任務を引き受けた。
その頃、犯罪者兄妹のラウドとクワイエット(ステファニー・ベアトリス)は、外側世界の警察組織を率いる非情な捜査官ストーン(トーマス・ヘイデン・チャーチ)に追いつめられていた。ラウドは妹を助けるために命を落とした。
ラスベガスに向かう国道で、ジョンは生き残ったクワイエットにカージャックされる。そこへ、重武装した不気味なアイスクリーム・トラックが爆走してきた。サイコパスの殺人ピエロ、スウィート・トゥース(サモア・ジョー&ウィル・アーネット)が現れたのだ。
ジョンは任務を達成できるのか?
タイムリミットは10日間だ。
(※)ジョン・ドウ(“Jhon Doe”):身元不明の死体などに用いる仮名。女性の場合はジェイン・ドウ(“Jane Doe”)。
これがアンソニー・マッキーの代表作!
売れっ子のアンソニー・マッキーは、『アベンジャーズ』のファルコン役で名高い(ファルコンは、今では昇格してキャプテン・アメリカだ)。今回は、マシンガントークを駆使する無邪気だが抜け目ないジョン・ドウを、水を得た魚のように演じている。本作こそがマッキーの代表作だ。
ステファニー・ベアトリスは、爆笑ポリス・コメディ“Brooklyn Nine-Nine”で、タフでオフビートな革ジャン刑事ローザ・ディアスを全8シーズン演じた。アクションもコメディもハイレベルでこなすベアトリスは、あつらえたようにクワイエット役にハマった。
ラスベガスの殺人ピエロ、スウィート・トゥースを演じたのは、プロレスラーのサモア・ジョー。VC(Voice Cast:声優)は大ヒットコメディ・アニメ“BoJack Horseman”でタイトルロールを吹き替えたウィル・アーネット。2人で一役を怪演する。
無双の捜査官ストーン役のトーマス・ヘイデン・チャーチは、『スパイダーマン』シリーズの悪役サンドマンで日本でも顔なじみだ。屈折した強面のストーンを豪快に演じる。
策士の最高責任者レイヴンを演じたネーヴ・キャンベルは、かつてメガヒットホラー『スクリーム』シリーズの主役シドニーで一世を風靡した。最近はNetflixのヒット作“The Lincoln Lawyer”でもいい味を出していて、ようやくイメチェンに成功した感がある。
娯楽度も満足度も120%、究極のエンターテインメント!
ショーランナーは、『ゾンビランド』 『デッドプール』 『ゴーステッド』(Apple TV+)の脚本家コンビ、レット・リースとポール・ワーニック。原作ゲームの世界観が再現され、ユニークの域を通り越したアウトローたちが縦横無尽に画面を駆け巡る。主役のジョンとクワイエットはオリジナルのキャラで、ゲーム版との差別化にも成功している。
実写版で30分の本格的なアクションコメディというスタイルは、今までありそうでなかったのではないか。斬新で軽快、疾走感あふれるアクションとクールで気の利いたギャグを楽しみながらサクサク観られる。
“Rotten Tomatoes”(映画・ドラマの評価サイト)の支持率は、評論家が67%、一般視聴者は94%(本原稿執筆時点)。要するに、本作は理屈抜きで面白いということ。
楽観的で人間味豊かなジョンと、辛辣で人間性を失ったクワイエット。共につらい過去を持つ2人のコントラストが鮮やかだ。また、劇中語られるジョンと愛車エヴリンとの出会いと別れは美しくも哀しい。
反目しあう2人の間には次第に信頼と絆が生まれるが、エヴリンを加えた三角関係には笑わされる。
最終エピソードでは、敵味方4グループが入り乱れて凄絶なカーバトルがさく裂。さらにツイスト&サプライズの連続技がたたみかける。そして最後の最後で明かされる“Twisted Metal”の意味とは?
本作は原作ゲームの経験不問、娯楽度も満足度も120%の、究極のエンターテインメント。
“Twisted Metal”はゲーム感覚で一気観させる、ナンセンスでブッ飛んだ世紀末スーパーアクション・コメディなのだ!
シーズン2の制作も決まっている。さらにパワーアップして面白くなりそうな予感がして、待ちきれない。
原題:Twisted Metal
配信:Hulu Japan
配信開始日:2024年2月22日
話数:10(1話 23-32分)
<今月のおまけ> 「これもお勧め、アメリカン・ドラマ!」(10月~3月)
●“Lessons in Chemistry”(Apple TV+)
‘50年代、男尊女卑社会で苦悩する科学者志望の女性(ブリー・ラーソン)のサクセスストーリー。
●“Blue Eye Samurai”(Netflix)
白人の血を引く若き剣豪の復讐を描く、スーパークールな時代劇アニメーション。
●“A Murder at the End of the World”(『マーダー・イン・ザ・ワールドエンド』、Disney+)
エマ・コリンの魅力爆発、隔絶された極寒のアイスランドで展開する極上の本格推理ドラマ。
●“Masters of the Air”(Apple TV+)
S・スピルバーグ&T・ハンクス制作、“Band of Brothers”、”The Pacific”に続くWWIIドラマ第3弾。
●“Fargo Season 5”(Amazon Prime)
今が旬のジュノー・テンプル主演、怪しいキャラたちが右往左往する予測不能のダーク・クライムコメディ。
●“Avatar: The Last Airbender”(『アバター:伝説の少年アン』、Netflix)
アニメ版には及ばないものの、世界の救世主となる少年を描く心温まる実写ドラマ。
●“The Walking Dead: The Ones Who Live”(U-NEXT)
TWD印スピンオフのベストドラマは、リックとミショーンの感動的なラブストーリー。
●“Shogun”(Disney+)
真田広之主演でダイナミックな傑作時代劇に仕上がった、1980年リミテッドシリーズのリブート版。
Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。