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これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第115回 “POKER FACE”

これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第115回 “POKER FACE”

今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系、ケーブル系各社に[…]

 

“Viewer Discretion Advised!”
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi 

第115回“POKER FACE”

 

“Viewer Discretion Advised”は海外の映画・テレビ番組等の冒頭で見かける注意書き。「バイオレンスやセックス等のコンテンツが含まれているため、視聴の可否はご自身で判断して下さい」という意味。

 

今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
 

予告編:『ポーカー・フェイス』 本予告

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コロンボ形式の底抜けに楽しいミステリードラマ!

本作は、大手民放NBC傘下のPeacockによる、倒叙形式の一話完結型推理劇。倒叙形式とは、『刑事コロンボ』のように冒頭に犯行が描かれ、その後で探偵役が謎を解くスタイルだ。
筆者が待ち望んでいた一作が、ようやくU-NEXTで視聴可能となった。

 

“Poker Face”は斬新でユニーク、逃亡中の素人探偵が10件の殺人事件に挑む、底抜けに楽しいコメディタッチのミステリードラマなのだ!

 

“Bullshit!” (ウソだね)

—ギャンブルのメッカ、ネバダ州
チャーリー・ケイル(ナターシャ・リオン)には、相手のウソを一瞬で見破る特殊な才能がある(誰かがウソをつくと“Bullshit” とつぶやく)。チャーリーはかつてこの特技を駆使して、ポーカーで中西部のカジノを荒らしていた。だが、フロスト・カジノのオーナーに見破られた。
彼女の名がブラックリストに載ると、誰にも相手にされなくなった。オーナーは、お目こぼしでカクテル・ウェイトレスの仕事をくれた。
チャーリーは、ペイントの剥げたトレーラーハウスに住んでいる。愛車は骨董品の‘69年式プリムス・バラクーダだ。

 

ある日チャーリーは、オーナーの息子スターリング・フロスト・ジュニア(エイドリアン・ブロディ)に取引を持ち掛けられる。2人で組んで、石油王のハイローラー(超高額を賭ける上客)から、ポーカーで大金を巻き上げようというのだ。報酬はキャッシュで150万ドル。
人生を変えるために、チャーリーは引き受けた。

 

フロスト・カジノで働くナタリーが、DVの夫と共に自宅で射殺された。ナタリーはチャーリーの親友だった。警察は役立たずで、チャーリーは独自に犯人を探し始める。

 

犯人はフロスト・ジュニアだった。チャーリーが特異な才能と鋭い観察力で、事件の全容を解明したのだ。
真相がメディアに暴露されると、ジュニアは飛び降り自殺をした。

 

フロスト・カジノのオーナーであるスターリング・フロスト・シニア(ロン・パールマン)は、息子の復讐を誓った。保安主任の殺し屋クリフ(ベンジャミン・ブラット)が、チャーリーを追う。

 

一獲千金の計画も夢に終わり、チャーリーの孤独な逃亡生活が始まった。
だが不思議なことに、彼女は行く先々で殺人事件に巻き込まれる羽目になる!

 

ナターシャ・リオン、一人舞台で輝く!

チャーリーを演じるナターシャ・リオンは、女性刑務所が舞台のドラマディ“Orange Is the New Black”(本ブログ第4回参照本ブログ第4回参照)の準主役ニッキー役でブレーク。さらに無限のタイムループを描いたSci-Fiコメディ“Russian Doll”では主演、クリエーター、製作総指揮、共同監督、共同脚本を務めた。
リオンは本作でも製作総指揮、共同監督、共同脚本を兼務し、3作品でゴールデングローブ賞に2回、エミー賞に5回ノミネートされている。

 

「がさつでウザいが根は優しく、好奇心旺盛でしたたかで、正義感の強い楽天家の人間ウソ発見器」 —そんな複雑なチャーリーを、リオンは何の苦も無く演じているように見える。エピソードが進むにつれて彼女独特のダミ声は魅力的に聞こえ、チャーリーのキャラは深みを増す。

 

リオン以外のキャストはエピソード毎に入れ替わり、準主役と言えるのは、殺し屋クリフ役のベンジャミン・ブラット(“Law and Order”)くらい。本作は文字通りリオンの一人舞台だ。

 

毎回のゲストは多彩で、ムービーアクターではエイドリアン・ブロディ、ロン・パールマンに加えて、エレン・バーキン、ニック・ノルティ、ジョセフ・ゴードン=レヴィット。さらに“The Big Bang Theory”のサイモン・ヘルバーグ、“24”のチェリー・ジョーンズら多くの人気テレビアクターも顔を揃える。

 

「チャーリーのミステリーシアター」へようこそ!

クリエーター&製作総指揮(兼共同監督兼共同脚本)のライアン・ジョンソンは、“Breaking Bad”を3エピソード監督し、『スターウォーズ/最後のジェダイ』(2017)では監督・脚本を手掛けた。だが彼が本領を発揮するのは、監督デビュー作のクールな高校生ノワール『BRICK ブリック』(2005)、ダニエル・クレイグが名探偵ブノア・ブランを演じる『ナイブズ・アウト』シリーズに代表されるミステリー物だ。

 

本作の真骨頂はその構成の妙にある。「逃亡中の主人公」「倒叙形式」「フラッシュバック」「一話完結型」は、個々には何ら新味はない。だがこれらを巧みに組み合わせることで、観る者を全く新しい形式のドラマだと錯覚させてしまう。

 

アクションスリラーに近いパイロット(第1話)を楽しんだ後、第2話以降は完全にトーンが変わる。追手に居場所がばれるので、チャーリーはクレカ、スマホ、ATMを使えない。だから生活費をキャッシュで稼ぐ。彼女が逃亡先で半端仕事を得ると、必ず殺人事件が待ち構えている。この不条理さがとても笑える。
「チャーリーのミステリーシアター」の開演だ。

 

チャーリーのユニークを突き抜けたキャラは本作最大の魅力。彼女は殺人事件を吸い寄せる逃亡者であると同時に、真実を嗅ぎ分けるヒーローでもある。
また、犯人を質問攻めにして、あげくに自分の推理をペラペラと話すので、いつも自らを危険にさらしてしまう。頭脳明晰だがどこか抜けている。これがまた笑える。

 

カジノから始まる殺人の舞台は、ヘビメタバンドのツアー、介護施設、ディナーシアター、カーレース場、雪山のモーテルなど多彩だ。各エピソードは犯人が分かっているとはいえツイストが利いていて、珠玉の短編小説のよう。
シーズンフィナーレは、力技によるどんでん返しとハッピー&アンハッピー・エンディングが鮮やかに決まる。
うまいなあ、ライアン・ジョンソン。

 

めでたくシーズン2の制作も決まった。“Poker Face”は斬新でユニーク、逃亡中の素人探偵が10件の殺人事件に挑む、底抜けに楽しいコメディタッチのミステリードラマなのだ!

 

原題:Poker Face
配信:U-NEXT
配信開始日:2024年3月1日
話数:10(1話 47-67分)

 

<今月のおまけ> 「これは必携、アメリカン・ドラマを楽しむためのお役立ち本!」

●『人気海外ドラマの法則21』(ニール・ランドー著、フィルムアート社、2015)
アメリカン・ドラマ制作の舞台裏がすべてわかる究極のネタ本。“Breaking Bad”のヴィンス・ギリガン、“Scandal”のションダ・ライムズなど、人気ドラマを手掛けた22人のインタビューも豪華だ。

 

●『アメリカ映画の文化副読本』(渡辺将人、日本経済新聞出版、2024)
アメリカン・ドラマの背景となる文化・生活・慣習がすべてわかる究極のガイド。豊富な情報が具体的な映画・ドラマのシーンを使って説明されていて、留学・駐在経験者も含めて誰もが楽しみながら学べる。

 

 

写真Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。