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これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第117回 “FROM”(『フロム -閉ざされた街-』)

これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第117回 “FROM”(『フロム -閉ざされた街-』)
“Viewer Discretion Advised!”
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi 

第117回“FROM”(『フロム -閉ざされた街-』)

 

“Viewer Discretion Advised”は海外の映画・テレビ番組等の冒頭で見かける注意書き。「バイオレンスやセックス等のコンテンツが含まれているため、視聴の可否はご自身で判断して下さい」という意味。

今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。

 

予告編:『フロム -閉ざされた街-』 本予告

 

495分間の悪夢を体験せよ!!!
2年半も待ったかいがあった!
Epix(現MGM+)の超話題作が、ようやくU-NEXTで視聴可能となった。

“From”は495分間の悪夢体験保証付き、ローラーコースター・ライドで一気観させる、極上のSci-Fiホラードラマなのだ!

 

“There’s no such things as monsters”
—アメリカ中部の小さな町
その町は、森に囲まれて外部から遮断されている。活気がなく、路上には廃車が目立つ。

 

夕暮れになって、保安官のボイド・スティーヴンズ(ハロルド・ペリノー)が日課の見回りを始めた。手にした鐘を鳴らしながら、住民に帰宅を促す。すべての施設・住居には石板の「魔除け」が掛けられている。

 

保安官事務所の入り口には、「事件のない夜 96」と書かれた札が下がっている。
「夜間は外出禁止。家はすべて施錠して窓にはカーテンを下す。決して外をのぞかず、外からの声に耳を貸さない。」—これはこの町の絶対的な掟で、住民の生命線だ。

だが97日目に事件は起きた。父親がバーで酔っ払っている間に、母親と一人娘が自宅で惨殺された。娘が外からの声に誘われて、窓を開けてしまったのだ。
強い怒りと共に、ボイドの心は沈んだ。

 

マシューズ一家はキャンピングカーで家族旅行をしていた。エンジニアの夫ジムと妻タビサとの関係はぎくしゃくしている。娘のジュリーは反抗期、息子のイーサンは空想好きで優しい性格だ。
倒木で通れなくなった本道を迂回してから、ハイウェイの入り口が見つからない。そればかりか、通過したはずの寂れた町に何度も戻ってしまう。途方に暮れたジムがUターンをすると、正面からセダンが蛇行しながら突っ込んできた。ジムは避けきれずに、キャンピングカーは横転した。

 

事故を聞きつけて、町からボイド、医師のクリスティらが駆けつけた。イーサンが足に重傷を負い動かせない。
日暮れまで2時間。
ボイド、クリスティ、ジムは、イーサンとともにキャンピングカーで夜を明かすことになった。

 

日が暮れると、「化け物たち」が姿を現した。

 

地味にはまるハロルド・ペリノー&充実のアンサンブルキャスト!
ボイド役のハロルド・ペリノーは、鮮烈な刑務所ドラマ“Oz”で、主役の一人オーガスタス・ヒルを全6シーズン演じた。『マトリックス』シリーズのリンク役、“Lost”のマイケル・ドーソン役でも顔なじみだ。地味なベテランが、登場人物の多い本作のまとめ役として見事にはまった。

 

ペリノー以外に顔見知りのアクターは見当たらない。だがマシューズ家の4人をはじめ、多彩なコミュニティの面々を演じるアンサンブルキャストは充実している。
献身的な元研修医クリスティ、真摯な保安官代理ケニー、脛に傷を持つ神父カトリ、ジコチューな若き富豪ジェイド、ヒッピーグループを貫禄で率いるドナ、父親ボイドを憎む息子エリス、エリスの善良な恋人ファティマ、最古参の変人ヴィクター、内なる声を聴くサラなどが、リアルで興味の尽きない人間模様を繰り広げる。

 

“Stranger Things”の大人バージョンか!
『アベンジャーズ/エンドゲーム』などマーベルの大作を監督したルッソ兄弟が、製作総指揮に名を連ねる。
クリエーターのジョン・グリフィンがほとんど一人で書きあげた脚本は、各キャラの造形と出入りが見事に整理されている。ホラードラマにもかかわらず、登場人物たちの家族の絆と確執、恋愛と友情、傷心と成長、希望と失望を、巧みにストーリーに溶け込ませた。

 

エピソードが進むにつれて、「この町は死後の世界なのでは?」「ボイドって何者よ?」「魔除けって何だ?」などの疑問がわく。すると、脚本に先を読まれているかのように、絶妙のタイミングで答えが提示される。
また、固有名詞の多用やディテールの積み重ねでホラ話にリアリティを与える手法は、S・キングの小説に通じるものがある。

 

主題歌の『ケ・セラ・セラ』は、ヒッチコックの『知りすぎていた男』(1956)の劇中歌。ドリス・デイが大ヒットさせたが、本作ではピクシーズによるダークなアレンジのカバーが、気味悪いほどフィットする。

 

ストーリーの前半は「化け物」の恐怖がじっくり描かれ、後半になると町の謎が少しずつ解き明かされる。
森の秘密に挑むグループ、通信手段を模索する者たち、ゲームだと考えてパターン認識を図るペア。それぞれが独自のアプローチで真相を追い、やがてつながりが見えてくる。
だがエンディングはクリフハンガーで、多くの謎が残される。

 

本作は“Stranger Things”( 本ブログ第32回参照)の大人バージョンといった作風で、見ごたえも“watchability”も十分。
“From”は495分間の悪夢体験保証付き、ローラーコースター・ライドで一気観させる、極上のSci-Fiホラードラマなのだ!

 

アメリカでは昨年シーズン2が配信済みで、シーズン3も制作中。U-NEXTにおかれては、勿体ぶらないでシーズン2の早期配信をお願いしたい。
尚、邦題の『フロム -閉ざされた街-』の「街」は、どう考えても「町」でしょう。

 

原題:From
配信:U-NEXT
配信開始日:2024年6月7日
話数:10(1話 45-55分) 

 

<今月のおまけ> 「これもお勧め、アメリカン・ドラマ!」(4月~6月)
●“Fallout”(Amazon Prime)
前評判通りの面白さ、人気RPGが原作のポスト・アポカリプス・コメディアクション・ドラマ!

 

●“Ripley”(Netflix)
映画版の『太陽がいっぱい』『リプリー』より原作に忠実、白黒撮影が美しい迫真のクライムスリラー!

 

●“Sweet Tooth: S3”(Netflix)
鹿と人間のハイブリッド少年の成長が描かれる、愛と勇気のSci-Fiファンタジー感動の完結編!

 

●“My Lady Jane”(Amazon Prime)
16世紀に実在した英国女王のロマンスと冒険を描く、底抜けに楽しい歴史改変ファンタジーコメディ!

 

 

写真Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。