これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第118回 “CHUCKY”
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi
第118回“CHUCKY”
今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
予告編:『チャッキー』 本予告
伝説の殺人ドールがドラマで復活!
本作はUSA/SYFYが制作しHulu Japanが配信する、映画『チャイルド・プレイ』シリーズのドラマ版。決して「キモい人形のB級スプラッタードラマ」などと侮ってはならない。
“Chucky”は、カルト的人気を誇る伝説の殺人ドールがより残酷、より知的、よりチャーミングになって復活する、戦慄と笑いのホラー・コメディなのだ!
“Hi, I’m Chucky. Wanna play?”
—ニュージャージー州ハッケンサック市
この街の殺人発生率は昨年25%も跳ね上がった。1965年にシリアルキラーのチャールズ・リー・レイが市民を恐怖のどん底に陥れたとき以来の高さだ。
ある日ジェイク・ウィーラー(ザカリー・アーサー)は、ガレージセールで‘グッドガイ人形’のチャッキーを見つけた。それは体長60センチほどで、内蔵された電池によって何パターンかの話をする。
ジェイクは学校のアート・プロジェクトに出品するために、解体した人形で不気味なオブジェを作っている。彼はチャッキーを10ドルで購入した。
ジェイクはペリー中学校に通う14歳。芸術家志望で優しい性格だが、母親が死んでから精神的に不安定だ。父親は酒浸りで息子につらく当たる。家計は火の車だ。
ジェイクはクラスメートからゲイだと言われていじめられている。特に市長の娘で高慢なレクシー(アリヴィア・アリン・リンド)は、何かとジェイクを目の敵にする。
デヴォン(ビョルグヴィン・アルナルソン)は、ポッドキャストをするほどの犯罪実話マニアだ。ジェイクとデヴォンは惹かれあっているが、お互い口に出せないでいる。デヴォンの母親は刑事だ。
チャッキーは突然電池なしで話をし、さらに自力で移動してジェイクを仰天させる。実はヴードゥーの呪いによって、殺人鬼チャールズ・リー・レイの邪悪な魂がこの人形に乗り移っていた。
学校の年次発表会で、司会のレクシーが大観衆の中でジェイクをなじり始めた。
するとチャッキーがどこからともなくジェイクの席に現れた。チャッキーに説得されて、ジェイクはチャッキーを抱いて壇上に上がる。チャッキーはジェイクに腹話術のフリをさせながら、レクシーを完膚なきまでにいびり倒した。
チャッキーは、言葉巧みにジェイクの精神に入り込んでいく。
殺戮の幕が上がり、ハッケンサックの災厄が始まった!
映画版キャストも勢ぞろい!
ジェイク役のザカリー・アーサー、レクシー役のアリヴィア・アリン・リンド、デヴォン役のビョルグヴィン・アルナルソンは、揃って初の主役級ロール。3人には強いケミストリーが働く。
映画版でもチャッキーの声を吹き替えたブラッド・ドゥーリフは、エミー賞助演男優賞候補となった“Deadwood”のドク・コクラン役が記憶に残る。また50年近く前には、『カッコーの巣の上で』でアカデミー賞助演男優賞候補となっている。
カナダ人アクターのデヴォン・サワが、なぜかジェイクの父親ルーカスを含めて5役も演じる。これが、「またお前かよ!」という感じで妙に可笑しい。
映画版オリジナルキャストも勢揃いしてわきを固める。
ジェニファー・ティリーはチャッキーの愛人ティファニー&本人役を怪演。アレックス・ヴィンセントとクリスティーン・エリスも、「チャッキー・ハンター」のアンディ&カイルを演じて健在ぶりをアピールする。チャッキーに乗り移られるニカ・ピアース役のフィオナ・ドゥーリフは、ブラッド・ドゥーリフの娘だ。
「チャッキーひと筋」のドン・マンシーニ!
ショーランナー(兼共同監督兼共同脚本)のドン・マンシーニはチャッキーに人生を捧げた人で、『チャイルド・プレイ』フランチャイズ全7作品を手掛けた(2019年のリメイクを除く)。本作の舞台は第7作『チャイルド・プレイ ~チャッキーの狂気病棟』(2017)の2週間後に設定されているが、映画シリーズ未経験でも問題ない。
進化した特撮/CGによる豊かな表情や精巧な動きは、チャッキーの魅力を増幅する。チャッキーには「怖カワイイ」姿かたちに加えて、妙に弁が立って不思議な説得力がある。だから子供たちは洗脳され、いとも簡単に操られてしまう。残虐過ぎて笑っちゃう殺人シーンは、絶妙のタイミングで繰り出される。
本作のハイライトは、チャッキーが代表する「悪」と、ジェイクたちが代表する「善」の全面対決だ。
人形の残虐な犯行を仲間以外は誰も信じてくれない。子供たちは親にも相談できず、警察の助けも借りられず、自分たちで行動するしかない。この縛りによって緊迫感が生まれ、ストーリーがより緻密になる。勧善懲悪ドラマではないので、どちらが勝つのかまったく予測できないところも魅力だ。
シーズン1はペリー中学校、シーズン2はカトリック系の更生施設が舞台で、いずれも「青春学園もの」の面白さが楽しめる。チャッキーの出現をきっかけに、孤独だったジェイクに仲間ができる展開は心温まる。またジェイクとデヴォンの初恋がヴィヴィッドに描かれ、とても微笑ましい。
ホラー・コメディというプラットホーム上で、ヒューマンドラマの部分もかなり頑張っているのだ。
エピソード毎に変わるタイトル、シーズン終了後のチャッキーのインタビュー、様々な映画のパロディやセリフ遊びが嬉しい。また、フラッシュバックで描かれるチャールズ・リー・レイの殺人半生は、レトロっぽい色調のブラウン管サイズの映像に切り替わる。サービス精神旺盛だ。
シーズン1では期待通りに21人が犠牲者に。S2ではチャッキーの分身軍団が登場、さらにチャッキーのトークショー、ジェニファー・ティリーのミステリー・パーティなどてんこ盛り。S3ではチャッキーがホワイトハウスで虐殺を繰り広げる。各シーズンとも、二転三転するプロットが面白過ぎてやめられない。(S3の最終話で、チャッキーがS4の制作を売り込んでいるのが笑える。)
“Chucky”は映画版と違って、まったくB級感を感じさせないスーパー・エンタテイメント。カルト的人気を誇る伝説の殺人ドールが、より残酷、より知的、よりチャーミングになって復活する、戦慄と笑いのホラー・コメディなのだ!
原題:Chucky
配信:Hulu Japan
配信開始日:2022年6月24日(S1)、2023年5月5日(S2)、2024年8月10日(S3)
話数:24(1話 40-54分)
Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。