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これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第119回 “TRACKER

これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第119回 “<strong>TRACKER</strong>”
“Viewer Discretion Advised!”
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi 

第119回“TRACKER”
“Viewer Discretion Advised”は海外の映画・テレビ番組等の冒頭で見かける注意書き。「バイオレンスやセックス等のコンテンツが含まれているため、視聴の可否はご自身で判断して下さい」という意味。

今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。

 
予告編:『トラッカー』 本予告

 
巨匠ジェフリー・ディーヴァーの最新シリーズがドラマ化!
ジェフリー・ディーヴァーの『元科学捜査官:リンカーン・ライム・シリーズ』は筆者も大ファンで、第1作『ボーン・コレクター』は映画化&ドラマ化されている。本作はディーヴァーの『コルター・ショウ・シリーズ』の第1作『ネヴァー・ゲーム』が原案で、今年の“Post-Super Bowl Show”としてCBSが放映した。
 
“Tracker”は” This Is Us”(本ブログ第36回参照)のジャスティン・ハートリー主演。タフでチャーミングな懸賞金ハンターが全米を舞台に胸のすく活躍を見せる、ハートウォーミング・アクションドラマなのだ!
 
“Everyone’s looking for something”
コルター・ショウ(ジャスティン・ハートリー)は腕利きの懸賞金ハンターだ。
失踪者のために警察や市民がかける懸賞金を得て生計を立てている。バウンティーハンター(賞金稼ぎ)のような正規の資格はない。私立探偵と違って時給・経費は請求せず、完全な成功報酬で働く。
コルターはパワフルなSUVのGMCシエラでエアストリーム(キャンピングトレーラー)を牽引しながら、アメリカ全土を駆け巡る。
 
父親のアシュトンは大学教授だったが、コルターが子供の頃に突然家族で森林生活を始めた。アシュトンは妄想に取りつかれていて、コルターと兄妹にサバイバル術を叩き込んだ。
崖から落ちた父親の変死体を発見したのはコルターだった。それ以来彼はトラウマを抱え、誰に対しても心を閉ざしたままだ。
現在はその日暮らしの地味で孤独な生活を送っている。女性とは一夜限りの関係しか持たない。
 
だがコルターには頼りになる仕事仲間がいる。ハンドラーのテディ&ヴェルマ(ロビン・ワイガート&アビー・マケナニー)は案件を精査して情報収集を行い、依頼人を決める。ボビー(エリック・グレイズ)はハッキングの名手。警察沙汰になると、ハーバード大卒の弁護士リーニー(フィオナ・レネ)が颯爽と登場する。
 
ネバダ州で5万ドルの懸賞金を得たコルターは、オレゴン州へ向かった。
 
ブラウン家の14歳の息子ギルが失踪した。母親と継父によると、ギルは親権を失ったヤク中で犯罪者の父親エディと密かに連絡を取り合っていたらしい。コルターは2人が最後に会ったハンバーガーショップに侵入して、防犯カメラの映像を盗み見る。
ギルは、エディではない何者かによって誘拐されていた。
エディは半年前にリハビリ施設で死んでいた。
 
懸賞金を稼ぐのは容易ではない。
 
鉄板の「チーム・コルター」!
ジャスティン・ハートリーは大ヒットしたヒューマンドラマ”This Is Us”が代表作で、主役の一人ケヴィン・ピアソンを全6シーズン演じた。イケメンの実力派アクターで、聡明で優しいが影があるコルター役はあつらえたようだ。
 
テディ役のロビン・ワイガートは、西部ドラマの傑作“Deadwood”で演じたカラミティ・ジェインが鮮烈だった(エミー賞助演女優賞候補)。パートナーのヴェルマを演じたアビー・マケナニーとの息もぴったりで、親代わりのような2人とコルターとのやり取りが微笑ましい。
 
肝の据わったエリート弁護士リーニーを演じたフィオナ・レネは、“The Lincoln Lawyer”、“Stumptown”(本ブログ第89回参照)等に出演している。リーニー役に見事にハマり、回を追うごとに存在感と魅力が増す。本作のワイルドカードだ。
 
鉄板の「チーム・コルター」最後のピースが、きれきれハッカーのボビーだ。今やアクションドラマにハッカー役は不可欠だが、エリック・グレイズの達者な演技は真に迫っている。
 
コルターと仲間たちの距離感が絶妙で、最近のアメリカン・ドラマにありがちな「過剰な疑似家族化」に陥っていないのがいい。
 
民放の王道を征く「一話完結型勧善懲悪ドラマ」の理想形!
クリエーター(兼共同脚本)のベン・H・ウィンタースは実績のある作家で、アメリカ探偵作家クラブ賞を受賞したSF推理『地球最後の刑事』(2012)はお勧めだ。
 
ウィンタースにとってはこれが初の本格的なドラマ制作となった。大御所ジェフリー・ディーヴァーが生んだ主人公コルター・ショウに、オリジナルの一話完結型ストーリーを組み合わせるアイディアが功を奏した。(タイトルの“Tracker”もシンプルでグッド。)
 
本作最高の魅力は、コルターの複雑なキャラだ。彼は自信に満ちていて自分のコード(行動規範)を持つ。高度な追跡技術があり、銃器を巧みに扱い、格闘技もこなす。だが最大の武器は鋭い観察力と論理的な説得力だ。不幸な子供時代に培った強靭なメンタルと状況を確率で判断する冷静さの中に、生来の優しさも見え隠れする。
コルターは依頼人や被害者に同情し、共感し、寄り添い、援助を惜しまず、時には彼らのために命さえ懸ける。だがいったん事件が収束して懸賞金を受け取ると、彼の心はリセットされる。また自分の殻に閉じこもり、淡々と次の依頼人の元へ向かう。
 
「カルトに洗脳された男」「薬物依存症のティーンエイジャー」「服役囚の冤罪を証明する目撃者」「元犯罪者の婚約者」「不法移民の格闘家」「3年前に失踪した娘」 —失踪人と言っても様々だ。舞台も都会、森林、山中、海と変化に富む。各エピソードはテンポよく進み、ストレスフリーで何話でもサクサク観られる。シーズン2も本年10月から放送される。
 
“Tracker”は、民放の王道を征く「一話完結型勧善懲悪ドラマ」の理想形だ。タフでチャーミングな懸賞金ハンターが全米を舞台に胸のすく活躍を見せる、ハートウォーミング・アクションドラマなのだ!
 
原題:Tracker
配信:Disney+
配信開始日:2024年6月26日
話数:13(1話 41-45分)
 
<今月のおまけ> 「これもお勧め、アメリカン・ドラマ!」(7月~9月)
●“Presumed Innocent”(Apple TV+)
ジェイク・ギレンホール主演、ハリソン・フォードの映画版(1990)を遥かに凌ぐ迫真のリーガルスリラー!
 
●“Tulsa King”(Paramount+)
「今更スタローン爺さんのドラマかよ!」と甘く見ると損をする、オクラホマの田舎町が舞台の痛快な犯罪ドラマ!
 
●“Dark Matter”(Apple TV+)
パラレルワールドから来た自分に誘拐された物理学者が、現実世界に戻ろうともがくSci-Fiスリラー!
 
●“The Sympathizer”(U-NEXT)
ロバート・ダウニー・Jrが5役を怪演する、ベトナム戦争末期の北軍スパイを描くエスピオナージュ!
 
●“Lawmen: Bass Reeves”(『法執行人:バス・リーブス』、Paramount+)
1800年代後半に奴隷の身から保安官代理へ転身した男の半生を活写する、実話ベースの硬派西部劇!
 

 

写真Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。