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これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第120回 “FELLOW TRAVELERS” + 『10周年記念特別付録』!

これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第120回 “FELLOW TRAVELERS” + 『10周年記念特別付録』!
“Viewer Discretion Advised!”
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi 

第120回“FELLOW TRAVELERS” + 『10周年記念特別付録』!
“Viewer Discretion Advised”は海外の映画・テレビ番組等の冒頭で見かける注意書き。「バイオレンスやセックス等のコンテンツが含まれているため、視聴の可否はご自身で判断して下さい」という意味。

今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。

 

予告編:『フェロー・トラベラーズ』 本予告

 
ゲイのエリート官僚と若き理想家による怒涛のラブストーリー!
今回で連載丸10年。本ブログが大好きという趣味の良いあなた、ありがとうございます。
本稿末尾の「10周年記念特別付録」もお楽しみください。
 
“Fellow Travelers”は、Paramount+が配信する衝撃と感動のリミテッドシリーズ。
運命の出会いから35年間、激動の時代と醜い政界に翻弄されながら生き抜き、愛し抜いた、ゲイのエリート官僚と若き理想家による怒涛のラブストーリーなのだ!
 
“I don’t know why love can be a sin” (Tim)
—ワシントンDC、1986年
ホーキンス(ホーク)・フラー(マット・ボマー)と妻のルーシー(アリソン・ウィリアムズ)は、自宅に親しい友人を招いてパーティーを開いていた。ホークのミラノ赴任が決まったお祝いだ。
 
そこに、ティモシー(ティム)・ラフリン(ジョナサン・ベイリー)からのパッケージが届いた。ティムはサンフランシスコの病院で、エイズの末期にあった。ホークとの思い出の品を返してきたのだ。
ホークはもう一度ティムに会うため、サンフランシスコに向かった。
 
—ワシントンDC、1952年
ホークとティムは共和党主催のパーティーで初めて会った。アイゼンハワーが大統領に選ばれた日の夜だった。
 
ホークは国務省のエリート官僚だ。名門ペンシルベニア大卒、テニスの学生チャンピオンで、WWIIの英雄でもある。冷淡な野心家で、共和党員だが政治的には中立だ。
ホークはゲイで、アングラのゲイバーで一夜限りの相手を漁っていた。
 
ティムは敬虔なカトリックの理想家だ。大学で政治と歴史を学び、世界をよりよくするために政府機関か新聞社で職を得ようと奮闘している。
 
ティムはゲイで、そのことで深い罪悪感に悩んでいた。
 
ある日2人は偶然に公園で再会し、恋に落ちた。
ホークのコネで、ティムはマッカーシー上院議員のアシスタントとなった。2人は密会を重ねた。マスコミは、ホークがスミス上院議員の娘ルーシーと婚約するのではと騒いでいる。
 
反ソ連を掲げるアイゼンハワーのもと、悪名高い’赤狩り’で共産党シンパを容赦なく追放するマッカーシーは、同時に’同性愛者狩り’(いわゆる’ラベンダー狩り’)を始めた。密かな弱みを持つ同性愛者は「国への脅威」とみなすからだ。国務省、FBI、ワシントン市警の各特別チームによる調査は非情で、毎週自殺者が出た。
 
ホークとティムは、とんでもなく危ない橋を渡っていた。
 
“He wasn’t my friend. He was the man I loved” (Hawk)
ホーク役のマット・ボマーはクールな犯罪ドラマ”White Collar”で、主役のFBIコンサルタントとなる天才詐欺師ニールを全6シーズン演じた。イケメンの陰に高い演技力が隠れがちだが、HBOのTV映画”The Normal Heart”(2014)ではゴールデングローブ賞の助演男優賞を受賞している。今回のホーク役は圧倒的なカリスマを振りかざす力技で、また新しい魅力を見せる。
 
ジョナサン・ベイリーは英国の舞台中心の演技派で、Netflixの大人気歴史メロドラマ”Bridgerton”の長男アンソニー役で顔なじみだ。チャーミングな魅力を振りまきながら時折精悍な表情を見せるベイリーは、若き日のグレゴリー・ペックを髣髴させる。
 
ボマーとベイリーは、実生活でもゲイであることをカミングアウトしている。このキャスティングは絶妙で、加速度的にケミストリーが働いた(これが男の色気というものか)。2人は今年のエミー賞で各々主演男優賞と助演男優賞の候補にノミネートされた。
 
本作では、ホーク&ティムと対比するように、黒人ゲイカップルの新聞記者マーカス(ジェラニ・アラディン)とドラッグクイーンのフランキー(ノア・リケッツ)が活写される。
 
ホークの妻ルーシーを演じるのは、『ゲット・アウト』(2017)『パーフェクション』(2018)『M3GAN ミーガン』(2022)に主演して「新ホラーの女王」と呼ばれるアリソン・ウィリアムズだ。
 
“I love you beyond measure” (Tim)
原作はトーマス・マロンの同名小説。クリエーター(兼共同脚本)のロン・ナイスワーナーは『フィラデルフィア』(1993)の脚本で知られ、”Ray Donovan”、”Homeland”など硬派ドラマの傑作を手掛けている。
本作では、骨太の政治スリラーと波乱万丈のラブストーリーを完璧に融合させる離れ業で、本年のエミー賞脚本賞にノミネートされた。
 
「官僚主義」「白人優位」「男尊女卑」の世界で、ホークやティムのように白人ゲイであることは社会的な自殺に等しい。またマーカスとフランキーのような黒人ゲイは、黒人社会からも差別される二重の苦しみを味わう。
 
かつてゲイであることは命がけで、「恥の人生」を生きることだった。ゲイは治療可能な病気と考えられ、電気ショック療法を受けさせられる者も多かった。またエイズの蔓延に対して、政府は救済策を拒んだ。
本作で頻出する男同士の強烈な性描写は、彼らの抑圧された性衝動の裏返しだ。一瞬一瞬が大切で濃密な人生が、リアリティを持って迫ってくる。
 
マッカーシズムが吹き荒れる´50年代、ベトナム反戦運動が立ち上がる´60年代、ドラッグ文化が席巻しゲイの権利運動が盛り上がる´70年代、そしてエイズ差別が助長される´80年代と、時代の激動がホークとティムの心を蝕んでいく。
 
仮面の家庭と出世にしがみつつ、偽りの人生を送るホーク。直情的に突き進み、死の淵でも強靭さを見せるティム。2人の生き方が、鮮やかなコントラストとなって観る者を魅了する。
 
運命の相手に出会ったものの、差別され、抑圧され、挫折を余儀なくされ、傷ついた者たちは幸福なのか不幸なのか? その問いかけは重く、深い余韻となって残る。
“Fellow Travelers”は、運命の出会いから35年間、激動の時代と醜い政界に翻弄されながら生き抜き、愛し抜いた、ゲイのエリート官僚と若き理想家による怒涛のラブストーリーなのだ!
 
原題:Fellow Travelers
配信:Paramount+(Amazon Prime、WOWOWオンデマンド、J:COM STREAM経由)
配信開始日:2024年8月9日
話数:8(1話 55-67分)
 
『10周年記念特別付録』:My Top 50 Favorite American Films of All Time!
お気に入りのアメリカ映画50選を年代別(順不同)に初公開します。
「好き」を最優先にした結果、小粒な作品が増えて、『市民ケーン』『ゴッドファーザー』『ロード・オブ・ザ・リング』等この種のランキングの常連作品が圏外になりました。
アクションとラブストーリーが好みなのは昔から変わりません。古い作品が多いのは、米国駐在時に古典を貪るように観たから。最近の作品が少ないのは、観たいと思わせる映画が激減して、興味がドラマへ急転換したからです。
50本に絞るのはしんどかった!
 
(1930年代:4作品)
●『或る夜の出来事』(”It Happened One Night”、1934)
F・キャプラ監督の最高傑作、C・ゲーブル&C・コルベールによるロマコメの原点!
●『影なき男』(”The Thin Man”、1934)
W・パウエル&M・ロイ(!)が、おしどり探偵ニック&ノラを演じるシリーズ第1作!
●『オペラは踊る』(”A Night at the Opera”、1935)
S・ウッド監督作、マルクス兄弟によるナンセンス・コメディの最高峰!
●『我は海の子』(”Captains Courageous”、1937)
S・トレイシーの名演が光る、金満家のわがまま息子と漁師との感動的な海洋アドベンチャー!
 
(1940年代:5作品)
●『ヒズ・ガール・フライデー』(”His Girl Friday”、1940)
監督H・ホークス、C・グラント&R・ラッセルによるスクリューボール・コメディの代名詞となった一作!
●『打撃王』(”The Pride of the Yankees”、1942)
S・ウッド監督作、G・クーパーがルー・ゲーリッグを演じた野球映画の最高傑作!
●『心の旅路』(”Random Harvest”、1942)
R・コールマン&G・ガースン主演、戦争で記憶を失った男とその妻が織りなす感動のラブストーリー!
●『カサブランカ』(”Casablanca”、1942)
H・ボガート&I・バーグマン主演、全てのシーンが絵になる究極のメロドラマ!
●『白熱』(”White Heat”、1949)
R・ウォルシュ監督作、J・キャグニーが破滅の美学を体現するフィルム・ノワールの古典!
 
(1950年代:7作品)
●『アフリカの女王』(”The African Queen”、1951)
監督J・ヒューストン、H・ボガート&K・ヘプバーンによる痛快な冒険活劇!
●『バンド・ワゴン』(”The Band Wagon”、1953)
F・アステア&C・チャリシー主演、名曲”That’s Entertainment”を生んだアステア・ミュージカルの頂点!
●『麗しのサブリナ』(”Sabrina”、1954)
監督B・ワイルダー、O・ヘプバーンがW・ホールデンとH・ボガートに求愛されるロマコメの傑作!
●『マーティ』(”Marty”、1955)
E・ボーグナイン主演、徹底的にモテない青年の可笑しくて悲しくて優しいラブストーリー!
●『傷だらけの栄光』(”Somebody Up There Likes Me”、1956)
監督R・ワイズ、P・ニューマンが元世界王者ロッキー・グラジアノを演じた粋なボクシング映画!
●『十二人の怒れる男』(”12 Angry Men”、1957)
S・ルメット監督、陪審員を演じるH・フォンダがアメリカの良心を体現する社会派ドラマの金字塔!
●『リオ・ブラボー』(”Rio Bravo”、1959)
監督H・ホークス、J・ウェイン&D・マーティン&W・ブレナン共演による娯楽ウェスタンの最高作!
 
(1960年代:7作品)
●『ナバロンの要塞』(”The Guns of Navarone”、1961)
A・マクリーン原作、G・ペック&D・ニーヴン&A・クインによる戦争アクションの比類なき傑作!
●『アラバマ物語』(”To Kill a Mockingbird”、1962)
G・ペックが黒人差別と闘う弁護士を演じた、法廷ドラマの代表作!
●『シンシナティ・キッド』(”The Cincinnati Kid”、1965)
”King of Cool”ことS・マックイーンがポーカーの帝王E・G・ロビンソンに挑む、会心のギャンブル映画!
●『ブリット』(”Bullitt”、1968)
S・マックイーン&J・ビセット(!)共演、カーチェイス・シーンで名をはせた爽快な刑事アクション!
●『愛すれど心さびしく』(”The Heart Is a Lonely Hunter”、1968)
A・アーキンの名演が心に残る、絶望的に孤独なろうあの青年の切ないラブストーリー!
●『明日に向って撃て!』(”Butch Cassidy and the Sundance Kid”、1969)
P・ニューマン&R・レッドフォードによる、粋で優雅な「アメリカン・ニュー・シネマ」の決定打!
●『ワイルドバンチ』(”The Wild Bunch”、1969)
W・ホールデン&E・ボーグナイン共演、老いたカウボーイたちの友情と殺戮を描くS・ペキンパーの最高作!
 
(1970年代:10作品)
●『おもいでの夏』(”Summer of ‘42”、1971)
J・オニールの美しさとテーマ音楽が忘れがたい、「青年の初体験映画」の決定版!
●『ダーティハリー』(”Dirty Harry”、1971)
職人監督D・シーゲルとC・イーストウッドの黄金タッグによる、刑事ハリー・キャラハン・シリーズ第1作!
●『探偵<スルース>』(”Sleuth”、1972)
L・オリヴィエとM・ケインの演技が激突、凝りに凝った構成で唸らせる至高の推理映画!
●『シャーロットのおくりもの』(”Charlotte’s Web”、1973)
蜘蛛のシャーロットと子豚のウィルバーを通じて生き物の生と死を考えさせる、心温まる不朽の名作アニメ!
●『ブレージングサドル』(”Blazing Saddles”、1974)
笑いの鉄人M・ブルックス監督の最高作は、尊大な白人社会を豪快に笑い飛ばすパロディ西部劇!
●『カッコーの巣の上で』(”One Flew Over the Cuckoo’s Nest”、1975)
M・フォアマン監督作、J・ニコルソンの凄さを世界に知らしめた衝撃のヒューマンドラマ!
●『狼たちの午後』(”Dog Day Afternoon”、1975)
S・ルメット監督、A・パチーノ(当時35歳!)のパワフルな演技に圧倒される迫真のクライムドラマ!
●『グッバイガール』(”The Goodbye Girl”、1977)
R・ドレイファスとM・メイソンがマンハッタンを舞台に繰り広げる、優しくて真摯な大人のロマコメ!
●『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』(”Star Wars: Episode IV – A New Hope”、1977)
オープニングの巨大な”Star Destroyor”に度肝を抜かれた、筆者の「アメリカ映画館初体験作品」!
●『セイム・タイム、ネクスト・イヤー』(”Same Time, Next Year”、1978)
E・バースティン&A・アルダによる、心にしみる不倫ラブストーリー!
 
(1980年代:7作品)
●『ブレードランナー』(”Blade Runner”、1982)
監督R・スコット&主演H・フォード、レプリカント役のR・ハウアーが大ブレークしたSci-Fi巨編!
●『遊星からの物体X』(”The Thing”、1982)
K・ラッセル主演、J・カーペンターの最高傑作は極寒の南極を舞台に圧倒的な恐怖を描くSci-Fiホラー!
●『ターミネーター』(”The Terminator”、1984)
シュワちゃんの代表作となった破壊的Sci-Fiアクション(カイル・リースのラブストーリーでもある)!
●『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(”Back to the Future”、1985)
R・ゼメキス監督、M・J・フォックスの人気を決定づけたスリリングなSci-Fiコメディ!
●『シルバラード』(”Silverado”、1985)
監督L・カスダン、K・クライン&K・コスナー&S・グレンによる痛快な西部劇!
●『リーサル・ウェポン』(”Lethal Weapon”、1987)
娯楽の鉄人R・ドナー監督作、M・ギブソン&D・グローヴァーによる刑事アクション・シリーズ第1弾!
●『ダイ・ハード』(”Die Hard、1988)
B・ウィリスを一気にスターダムに押し上げた、近代アクション映画の金字塔!
 
(1990年代:6作品)
●『許されざる者』(”Unforgiven”、1992)
C・イーストウッド監督・主演、G・ハックマン&M・フリーマン&R・ハリス共演による極上の西部ドラマ!
●『忘れられない人』(”Untamed Heart”、1993)
C・スレーター&M・トメイ主演、悲しくて切なくて号泣するしかないラブストーリー!
●『アポロ13』(”Apollo 13”、1995)
主演はT・ハンクスだが、NASAの主席管制官を演じたE・ハリスの熱演が忘れがたい迫真の実話ドラマ!
●『ブギーナイツ』(”Boogie Nights”、1997)
M・ウォールバーグ主演、‘70年代のポルノ業界をクセ者揃いのキャストで活写するご機嫌なドラマディ!
●『グリーンマイル』(”The Green Mile”、1999)
原作S・キング、M・C・ダンカン&T・ハンクスによる刑務所が舞台の超自然ヒューマンドラマ!
●『アイアン・ジャイアント』(”The Iron Giant”、1999)
WB制作、後にアニメの巨匠となるB・バード監督による感動のロボットアニメ!
 
(2000年以降:4作品)
●『グラディエーター』(”Gladiator”、2000)
R・スコット監督作、R・クロウが大ブレークした魂を揺さぶる壮大な歴史巨編!
●『メメント』(”Memento”、2000)
C・ノーラン監督&G・ピアース主演、記憶障害の男が執念で妻の殺害犯を暴く究極のパズルドラマ!
●『ミリオンダラー・ベイビー』(”Million Dollar Baby”、2004)
C・イーストウッド監督・主演、H・スワンクとM・フリーマン共演によるパワフルで切ないヒューマンドラマ!
●『ラ・ラ・ランド』(”La La Land”、2016)
E・ストーン&R・ゴズリング主演、極上の音楽とほろ苦いロマンスに乗せて贈る現代ミュージカルの最高峰!
 

 

写真Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。