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これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第121回 “ELSBETH”(『エルズベス』)

これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第121回 “ELSBETH”(『エルズベス』)
“Viewer Discretion Advised!”
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi 

第121回“ELSBETH”(『エルズベス』)
“Viewer Discretion Advised”は海外の映画・テレビ番組等の冒頭で見かける注意書き。「バイオレンスやセックス等のコンテンツが含まれているため、視聴の可否はご自身で判断して下さい」という意味。

今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。

 

予告編:『エルズベス』 本予告

 

あの超ユニークな弁護士が探偵になった!
CBSの大ヒット・リーガルドラマ“The Good Wife”で、主役の敏腕弁護士たちを震撼させた超ユニークな弁護士がいる。—彼女の名はエルズベス・タシオニ。

 

“Elsbeth”は、冒頭に犯行が描かれる倒叙形式の一話完結型ドラマ。エルズベスが何と探偵役へ転身して殺人犯とNY市警を煙に巻く、底抜けに楽しい推理コメディなのだ!
(「倒叙形式」は英語で“howcatchem”という。知らなかった)。

 

“Welcome to New York!”
—ニューヨーク
演劇学科の教授アレックス・モダリアン(“True Blood”の主演スティーヴン・モイヤー)は、教え子のオリヴィア・チェリーを殺した。肉体関係を持ったにもかかわらず端役しか与えられなかったオリヴィアが、教授を告発すると脅したからだ。

 

モダリアンは完全犯罪を企てた。オリヴィアに睡眠薬を盛って眠らせてから、頭にビニール袋をかぶせて自殺に見せかけた。PCにその自殺法を検索した痕跡を残す。アリバイ工作のために彼女のスマホのSIMカードをコピーして、劇団仲間に自殺を仄めかす偽のメッセージを送った。

 

エルズベス・タシオニ(キャリー・プレストン)は、何故か2階建ての観光バスに乗ってオリヴィアの事件現場にやってきた。’自由の女神’のおかしな帽子をかぶり、大きなカバンを2つ抱え、子供のようなカラフルな服で着飾っている。

 

エルズベスは、実はシカゴで30年以上の経験をもつ成功した弁護士だ。彼女はNY市警が受けた不法逮捕訴訟に伴い、市から1年間の’外部オブザーバー’に任命されたのだった。
エルズベスを警戒する警部のワグナー(ウェンデル・ピアース)は、若い有能な巡査カヤ・ブランク(カラ・パターソン)にお目付け役を命じた。

 

担当の刑事はオリヴィアの自殺として処理しようとしたが、エルズベスは現場を一目見て異議を唱えた。バスルームのごみ箱には使用済みの歯のホワイトニング・シートが捨てられ、キャビネットの避妊具ケースが空になっていたからだ。オリヴィアにはデートの予定があったのだ。

 

エルズベスはモダリアン教授の犯行を疑い、彼にまとわりつき、質問の山で煩わせる。だが、教授は常に先回りをしていて、説得力のある答えを用意している。
そこへ新たな容疑者が浮かび上がった。

 

エルズベスの初仕事は一筋縄ではいかないようだ。
しかも彼女は、腐敗した市警幹部の調査という司法省からの密命を帯びていた!

 

“キャリー・プレストンの天職!”
主演のキャリー・プレストンは、“The Good Wife”のエルズベス役で既にエミー賞ゲスト女優賞を受賞している。また、一世を風靡したヴァンパイアドラマ“True Blood”のレギュラーで、本作でモダリアン教授を演じたスティーヴン・モイヤーと全7シーズン共演した。エルズベス役はNY在住のプレストンにとって天職だ。

 

強面だがソフトな面も見せる警部ワグナー役のウェンデル・ピアースは、犯罪ドラマの名作“The Wire”で刑事バンク・モアランドを全5シーズン演じた。最近では、迫真の政治スリラー“Tom Clancy’s Jack Ryan”(本ブログ第55回参照 https://www.jvta.net/blog/viewer-discretion-advised-55/)で演じた、主人公ジャック・ライアンを支えるCIAの上司ジェームズ・グリーア役も忘れがたい。

 

プレストンとピアースは、共にNYの名門ジュリアード音楽院出身のエリートアクターだ。

 

ミュージカル出演の豊富なカラ・パターソンは、プレストンとの息もぴったり。エルズベスのお守りから親友となり、警官としての素質が開花するカヤ・ブランク巡査を達者に演じる。

 

このレギュラー3人は鉄板のキャスティングだ。

 

『刑事コロンボ』の女性版コメディバージョン!
ショーランナーは、“The Good Wife”とそのスピンオフ“The Good Fight”(本ブログ第43回参照 https://www.jvta.net/blog/viewer-discretion-advised-43/)、“Evil”(本ブログ第78回参照 https://www.jvta.net/blog/viewer-discretion-advised-78/)などを手掛けたロバート&ミシェル・キング。ロバートは共同監督と共同脚本を、ミシェルは共同脚本を務めている。

 

本作は厳密にはスピンオフだが内容的には独立作品で、“The Good Wife”や“The Good Fight”を観ていなくても楽しめる。キング夫妻は舞台をシカゴからNYに移し、弁護士のエルズベスを探偵役に据えた。“The Good Wife”のクールで洗練されたエルズベスは、かなりオフビートの明るいキャラに変えられている。差別化の成功は企画とアイディアによるもので、この時点で面白さは保証されたようなものだ。

 

本作最大の見どころはもちろんエルズベスの愛すべきキャラだ。裕福な五十路(?)のバツイチで、幼稚な服を着て、いつも大荷物を持ち歩く。好奇心旺盛で怖いもの知らず、誰にも臆することなく、煩わしいほどよくしゃべる。その上とんでもなく頭が切れて、何も見逃さず、一度犯人だとにらむと猟犬のように食いついて離さない。
小柄なエルズベスが容疑者や刑事の背後から突然ヌッと現れる場面は、何回観ても笑える。

 

リアリティーショーのプロデューサー、プロテニスコーチ、美容外科医、スタートアップ企業のCEOなど緻密で賢い犯人たちが、エルズベスを見下して墓穴を掘るプロセスは痛快だ。彼らはエルズベスとの頭脳戦を繰り広げるが、いらつかされ、根負けし、最後は自信過剰が致命傷となって完全犯罪を崩される。

 

濃密な推理ドラマではないが、明るいユーモアを散りばめた楽天的なストーリーはサクサクと観られる。最終エピソードは、倒叙ではなく犯人捜し(“whodunit”という)の形式でサービスも満点。エルズベスは初めてスランプに陥り、ファッションショーのモデルになり、感動的なハッピーエンディングを迎える。

 

“Elsbeth”はいわば『刑事コロンボ』の女性版コメディバージョン。あの超ユニークな弁護士が探偵役で殺人犯とNY市警を煙に巻く、底抜けに楽しい推理コメディドラマなのだ!
尚、現地では本年10月からシーズン2が配信されている。

 

原題:Elsbeth
配信:Paramount+(Amazon Prime、WOWOWオンデマンド、J:COM STREAM経由)
配信開始日:2024年9月20日
話数:10(1話 42-43分)

 

<今月のおまけ> “Honorable 10!”
前回発表した”My Top 50 Favorite American Films of All Time!” の選外作品から厳選した10作品(“Honorable 10!”)を紹介します。まだまだありますが、切りがないので今回でお終い。

 

●『一日だけの淑女』(“Lady for a Day”、1933)
F・キャプラ監督、久々に娘と会う貧乏な老婦人をギャングのボスが淑女に変身させる心温まる人情コメディ!
●『めぐり逢い』(“An Affair to Remember”、1957)
C・グラントと共演したデボラ・カーの魅力に圧倒される、NYを舞台にした究極のすれ違いラブストーリー!
●『あなただけ今晩は』(“Irma la Douce”、1963)
B・ワイルダー監督、S・マクレーン&J・レモン主演、気のいい娼婦と生真面目な警官をめぐるラブコメの名作!
●『おかしなおかしな大追跡』(“What’s Up, Doc?”、1972)
B・ストライサンド&R・オニール主演、同じ柄の4つのバッグをめぐる絶品のスラップスティック・コメディ!
●『突破口!』(“Charley Varrick”、1973)
W・マッソー主演、マフィアの資金をうっかり盗んでしまった男の決死の逆転劇を描く痛快なアクション映画!
●『愛と青春の旅だち』(“An Officer and a Gentleman”、1982)
R・ギア&D・ウィンガー主演、安易な邦題でラブストーリーとして大ヒットしたが、実は硬派のヒューマンドラマ!
●『勝利への旅立ち』(“Hoosiers”、1986)
G・ハックマン主演、助演のD・ホッパーの演技が心に残る高校バスケ部を舞台にしたスポーツドラマの金字塔!
●『チキンラン』(“Chicken Run”、2000)
主役の雄鶏ロッキーの声はM・ギブソン、イギリス郊外の養鶏場を舞台にした勇気と感動の冒険アニメ!(英仏米合作)
●『アルゴ』(“ARGO”、2012)
B・アフレック監督・主演、イランの米国大使館で起きた奇想天外な人質奪還作戦を活写する実話ドラマ!
●『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(“Mad Max: Fury Road”、2015)
G・ミラー監督、T・ハーディ&C・セロン主演、ポストアポカリプスが舞台の史上最高・最良のアクション映画!
(米豪合作だが実質的に豪州映画なので「50選」から外した。『マッドマックス2』も傑作だが豪州映画。)

 

<今月のおまけ-付録-> 「これは必携、アメリカン・ドラマを楽しむためのお役立ち本!」②

●『どうなってるの、アメリカ!ニュース&カルチャーがぐっと面白くなるアメリカ最前線トピック30』
(Saku Yanagawa著、大和書房、2024)
著者は高校時代にメジャーリーガーを目指すも挫折、阪大を経てシカゴでスタンダップ・コメディアンになった異色の経歴を持つ。本書はエンタメ、スポーツ、政治、地政学、DEIなど、「アメリカ文化の今」を中立的に幅広くカバーしている。タイトルは軽いが内容は濃く、楽しみながら知識が増える好著。“EGOT”って知ってた?

 

●『ネイティブの真意がわかる 日本人が誤解する英語juiceは「ジュース」じゃない?!』
(Mystery Parrot著、KADOKAWA、2024)
この手のタイトルの英語本は無数にあるが、本書は映像翻訳学習者にぴったり。ドラマで頻出する簡単そうで実は分かりにくい表現を、生きた例文を使って丁寧に説明してくれる。“She had some work done”(彼女は整形手術した)、“a discriminating person”(違いがわかる人)って知ってた? 

 

 

写真Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。