News
NEWS
“Viewer Discretion Advised!”inBLG

これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第122回 “THE PENGUIN”

これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第122回 “THE PENGUIN”
“Viewer Discretion Advised!”
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi 

第122回“THE PENGUIN”
“Viewer Discretion Advised”は海外の映画・テレビ番組等の冒頭で見かける注意書き。「バイオレンスやセックス等のコンテンツが含まれているため、視聴の可否はご自身で判断して下さい」という意味。

今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。

予告編:『THE PENGUIN -ザ・ペンギン-』 本予告

 

これが2024年度のベストドラマ!!!
本作は『THE BATMAN -ザ・バットマン-』(2022)からのスピンオフ。だがバットマンは登場しないし、映画を観ておく必要もない。観た人は忘れたままでいい。

 

“The Penguin”はHBO制作/U-NEXT配信によるリミテッドシリーズ。文句なく本年度のベストワンで、コリン・ファレルが驚異の特殊メークでタイトルロールを演じる。オリジナル映画から完全独立した、極上のハートブレイキング・ノワール(暗黒)ドラマなのだ!

 

牙をむくペンギン!(“We’re gonna be an untouchable”)
―ゴッサム・シティ
シリアルキラーのリドラーが全マフィアのトップにいたカーマイン・ファルコーネを殺害し、さらに防波堤を破壊してから1週間。街はギャング同士の権力争いと洪水の被害でカオス状態になっていた。

 

オズワルド・“オズ”・コブルポット(コリン・ファレル)が’ペンギン’と呼ばれる由来はその歩き方だ。オズの右足は「先天性湾曲足」だったが、貧乏だった母親(ディードル・オコンネル)は治療を受けさせなかった。右のつま先は無残な状態で、今でも歩くたびにひどく痛む。

 

故カーマイン・ファルコーネの右腕だったオズは、表の顔はナイトクラブのオーナー。裏では大人気の目薬型覚せい剤’ドロップ’の製造出荷を管理している。だがカーマインの親族が占めるファミリーの上層部は、オズの功績を認めない。
オズは過小評価されても野心と賢さをひた隠し、ビジネスを学びながら出世の機会を狙っていた。

 

オズはカーマインの宝石と要人への恐喝書類を盗み出そうとするが、跡を継いだ息子アルベルト(アル)に見つかる。オズは酔っ払ったアルになじられて激高し、彼を射殺してしまう。
アルは密かに革新的な覚せい剤のビジネスを計画していた。オズはその事業を横取りし、ゴッサム・シティの暗黒街を牛耳る決意を固める。

 

ビクター(レンジー・フェリズ)は洪水で家族と家を失った若者だ。彼はオズの愛車からホイールを盗もうとしている現場を押さえられてしまう。ビクターはオズに脅されてアルの死体処理を手伝わされる。

 

カーマインの娘ソフィア(クリスティン・ミリオティ)がファミリーに戻ってきた。ソフィアは殺人犯で、精神科病院に10年間拘束されていた。だがゴッサム・シティの混乱で特赦を受けて退院したのだ。
弟思いのソフィアは、行方不明のアルを捜し出そうとする。

オズはソフィアに尻尾をつかまれ、窮地に陥る。

 

コリン・ファレルはどこにいる!
コリン・ファレルについては“Sugar”(本ブログ第116回)でも書いたが、ここ数年で超一流のアクターに大化けした。オズ役のために再び驚愕の特殊メークを施し、声を変え、目で訴える。技巧とパワーで圧倒する演技で、’ペンギン’の心の痛みさえが伝わってくる。来年は本役でエミー賞を取るだろう。
それにしても、何回観てもオズはコリン・ファレルには見えない。ファレルはどこにいる?

 

ソフィア・ファルコーネ役のクリスティン・ミリオティは、メガヒットしたロマコメ“How I Met Your Mother”で演じた主人公テッドの恋人トレイシーが印象的だった。本作では、頭脳明晰でキュートなモンスターを、鬼気迫る表情で演じ抜いた。

 

ビクター役のレンジー・フェリズは、マーベルのスーパーヒーロー・ドラマ“Runaways”に主演した。地味だがいいアクターで、今回はギャングの世界に引きずり込まれていく善良なティーンエイジャーを好演。コリン・ファレルとの間には強いケミストリーが働き、オズとビクターとの疑似親子的な絆は忘れがたい。

 

オズの母親フランシスを演じたディードル・オコンネルは舞台出身、2022年にトニー賞主演女優賞を受賞している。本作では、今も息子を支配する認知症の毒親を怪演する。

 

鉄板のキャスティングが、それぞれ心に深い傷を負うキャラクター4人にリアリティを与えた。

 

ドラマ史に残るショッキングだが納得のエンディング!!!
ショーランナー(兼共同脚本)のローレン・ルフランは、スパイ・アクションコメディ”Chuck”、マーベルのスーパーヒーロー・ドラマ“Agents of S.H.I.E.L.D.”などの脚本を手掛けた。

 

ルフランは映画版の世界観とテイストを忠実に引き継いでいる。オズのキャラを深堀りし、骨太なストーリーを構築し、魅力的で厚みのある登場人物たちを創造し、繊細で緻密でしたたかな脚本に昇華させた。(足の悪いオズが、フレッド・アステアの『トップ・ハット』を繰り返し観るという子供時代のエピソードには泣かされる。)
DCコミックスの一介のヴィランを主役に据えて、オリジナリティのある完成度の高い知的エンタメに仕上げるルフランの手腕は並大抵のものではない。

 

オズは醜悪で鉄面皮、狡猾で残酷、粗野で嘘つきのナルシストだ。感情の起伏が激しいが、逆境には強く決して諦めない。窮地に陥るほど冷静になり、機知と舌先三寸で何とか切り抜ける。
マフィアの世界も格差社会で、幹部が最下層の組員から搾取している。オズにとって、人生とは奪うか奪われるかの生存競争なのだ。

 

だが、彼が垣間見せる弱さ、繊細さ、優しさは観る者のハートにしみ込んでくる。孤独で、母親を偏愛し、屈折したユーモアがあり、ドリー・パートンとリタ・ヘイワースがお気に入り。コリン・ファレルが魂を吹き込んだヴィヴィッドで愛すべきオズのキャラは、本作最大の魅力だ。

 

ストーリーはオズの野望、ソフィアの復讐、ファルコーネ・ファミリーの内部抗争、ライバル組織との確執を巡って神経戦・頭脳戦を繰り広げ、二転三転する。また噓と脅し、信頼と裏切り、共闘と対立、家族の愛憎など、「マフィアドラマの面白エッセンス」がギュッと詰まっている。
そして迎えるのは、ドラマ史上に残る極めてショッキングだが感動的で納得のエンディングだ。

 

“The Penguin”はHBOの面目躍如、文句なく本年度のベストワン。オリジナル映画から完全独立した、極上のハートブレイキング・ノワールドラマなのだ!

 

*本作はゴールデングローブ賞の作品賞、主演男優賞(コリン・ファレル)、主演女優賞(クリスティン・ミリオティ)にノミネートされた(発表は現地時間の1月5日)。

 

原題:The Penguin
配信:U-NEXT
配信開始日:2024年9月20日~11月11日
話数:8(1話 46-68分)

 

<今月のおまけ> 「これもお勧め、アメリカン・ドラマ!」(10月~12月)
年末年始に楽しめる渾身の10作をどうぞ。

 

●“Treme”(『トレメ/ニューオーリンズのキセキ』、2010-2013、U-NEXT)
史上最悪のハリケーンで被災したトレメ地域を舞台に、住民の誇りと音楽のパワーを謳いあげる実話ドラマ!

 

●“Nobody Wants This”(『こんなのみんなイヤ!』、Netflix)
セックストークが売りのポッドキャスターとユダヤ教のラビのすれ違いを描く、ウィットにとんだ大人のロマコメ!

 

●“Bookie”(『ブッキー/ギャンブルなお仕事』、U-NEXT)
強面だがお人好しの非合法な賭け屋2人に次々と災難が降りかかる、LAが舞台の爆笑コメディ!

 

●“Bad Monkey”(『バッド・モンキー』、Apple TV+)
C・ハイアセン原作、V・ヴォーン主演、フロリダを舞台にしたソフトボイルド・タッチの軽妙なクライムコメディ!

 

●“The Lincoln Lawyer”(『リンカーン弁護士』、Netflix)
M・コナリー原作、LAの敏腕弁護士ミッキー・ハラーの活躍を描くエッジの利いた第3シーズン!

 

●“The Diplomat”(『ザ・ディプロマット』、Netflix)
“The Americans”のケリー・ラッセル(!)が駐英米国大使を演じる、迫真の政治スリラー第2シーズン!

 

●“The Sticky”(『スティッキー』、Amazon Prime、米加合作)
カナダで実際に起きた、約28億円相当のメープルシロップ強奪事件にヒントを得たクライムコメディ!

 

●“Music by John Williams”(『ジョン・ウィリアムズ/伝説の映画音楽』、Disney+)
よみがえる名曲と名シーンの数々、映画音楽界の巨人の足跡をたどる必見のドキュメンタリー!

 

●“Elton John Live: Farewell from Dodger Stadium”(『エルトン・ジョン ライブ FAREWELL FROM DODGER STADIUM』、Disney+)
感無量!2022年11月にドジャー・スタジアムで行われた、エルトン・ジョン(当時75歳!)北米最後のコンサート!

 

●“The Comeback: 2004 Boston Red Sox”(『ザ・カムバック:2004 ボストン・レッドソックス』、Netflix)
86年ぶりに「ベーブ・ルースの呪い」を解いてワールドシリーズを制覇したレッドソックス。自らを“The Idiots”と呼んだ不屈のやさぐれ軍団が鮮やかによみがえる、笑いと感動のベースボール・ドキュメンタリー! 

 

 

写真Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。