これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第124回 “MAYOR OF KINGSTOWN”

これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi
第124回“MAYOR OF KINGSTOWN”
今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
予告編:『メイヤー・オブ・キングスタウン』 本予告
T・シェリダンとJ・レナーがタッグを組むダーティーヒーロー・クライムドラマ!
硬派な西部ドラマ、犯罪ドラマを作らせたら他の追随を許さないクリエーター&ライターのテイラー・シェリダン。彼が’ホークアイ’ことジェレミー・レナーとタッグを組んだのが本作だ。
“Mayor of Kingstown”はParamount+オリジナル。閉鎖的な「刑務所の町」を圧倒的なリアリティで活写する、迫真のダーティーヒーロー・クライムドラマなのだ!
“When I say I do a thing, that thing gets fuxxxn’ done”(Mike McLusky)
―ミシガン州キングスタウン
ここは人口4万人、「刑務所ビジネス」で成り立つ小さな町だ。わずか半径16キロ内に7つの刑務所を有し、2万人の囚人が希望も未来もない生活を送っている。
マイク(ジェレミー・レナー)はアイルランド系のマクラスキー家の次男だ。生来の頭脳と胆力に加えて、服役経験があるので町のギャングたちとも親交が深い。独身のマイクは山奥の質素なキャビンで一人暮らしをしている。
母親のマリアム(ダイアン・ウィースト)は、女囚房で歴史のクラスを受け持つ大学教授。優しい性格の弟カイル(テイラー・ハンドリー)、幼馴染のイアン(ヒュー・ディロン)はともに市警の刑事だ。
兄のミッチ(”Friday Night Lights”のカイル・チャンドラー)は「市長」と呼ばれる影の権力者。相談料を取って住民のトラブルを解決する。マイクはミッチの右腕で、汚い仕事を引き受けるフィクサーだ。
キングスタウンは囚人、看守、警官、さらに白人至上主義者、黒人ギャング、メキシコ系ギャング、ロシアン・マフィアが微妙な力関係にある。ミッチとマイクの仕事はこれらのパワーバランスを保ち、住民の安全を保障することだ。そのためには、囚人やギャングに便宜を図ることもある。
ある日、2人はヴェラ・サンターの訪問を受ける。ヴェラは服役中のロシアン・マフィアの幹部マイロ・サンター(エイダン・ギレン)の妻だ。マイロからの依頼で、山中に隠してある現金20万ドルを掘り出して欲しいという。報酬は1万ドル。
2人は無事に金を手に入れ、ミッチが事務所に運び込んだ。
その夜、ヴェラの自宅にストーカーが侵入し彼女を殺害した。しかも男は事務所を襲ってミッチを射殺し、20万ドルを強奪した。
マイクはミッチに代わる新たな「市長」となった。
マイロ・サンターはマイクへの強い影響力が欲しかった。マイロはマイクへハニートラップを仕掛けるために、NYから腹心のエスコート嬢アイリス(エマ・レアード)を呼んだ。
熱くてクールなJ・レナー、妖艶で透明感を醸すE・レアード!
マイクを演じたジェレミー・レナーは、『ハート・ロッカー』(2008)と『ザ・タウン』(2010)で2度オスカー候補となった。ホークアイを演じた『アベンジャーズ・シリーズ』、『ミッション:インポッシブル・シリーズ』など、エンタメ系作品でも活躍する。本作では、町のために自らがモンスターになっていくカリスマ的フィクサーを熱くクールに演じる。
マリアム役のダイアン・ウィーストは、『ハンナとその姉妹』(1986)『ブロードウェイと銃弾』(1994)と2本のウディ・アレン作品でアカデミー助演女優賞を受賞している。本作ではタフで厳格だが息子たちを憂える母親を演じ、ドラマの質感を劇的に高めている。
マイロ・サンターを演じたエイダン・ギレンはアイルランド出身、”Game of Thrones”のファンなら狡知に長けた’リトルフィンガー’役を忘れることはないだろう。本作では冷徹で狡猾なロシアン・マフィアに見事にフィットした。
ベテラン刑事のイアンを演じたヒュー・ディロンはカナダ出身のロックシンガー、本作の共同クリエーター(兼共同脚本)でもある。テイラー・シェリダン作品の”Yellowstone”では保安官役でレギュラーを務める。
本作のハイライトは、高級エスコートから最下層売春婦に堕ちていくアイリスを演じたエマ・レアードだ。テレビドラマ初出演ながら、透明感のある妖艶な演技で魅了する。アイリスがマイクに「一度も本当のデートをしたことがない」と告白するシーンは忘れがたい。
マイクの脆弱な弟カイル役のテイラー・ハンドリー、黒人ギャングのリーダーでマイクの元服役仲間バニーを演じたトビー・バムテファは、いずれも初の準主役級で、巧みにストーリーに溶け込んでいる。
シェリダン節が唸る「敗者のゲーム」!!!
共同クリエーター(兼共同監督兼共同脚本)のテイラー・シェリダンは、『ボーダーライン』(2015)『最後の追跡』(2016)などの脚本で注目された(後者でアカデミー賞ノミネート)。その後ケビン・コスナー主演の西部ドラマ”Yellowstone”、シルベスター・スタローン主演のギャングドラマ”Tulsa King”が大ヒット。さらに”Lawmen: Bass Reeves”、”Special Ops: Lioness”、”Landman”と、今や飛ぶ鳥を落とす勢いだ。
シェリダン作品最大の魅力は独特のリアリティにある。会話が生きている、キャラクターが生きている、BGMが生きている。だからストーリーが躍動する。本作はこの’シェリダン節’に乗って、ギャングドラマ、刑務所ドラマ、刑事ドラマ、ハードボイルド・ドラマと、あらゆるクライムドラマの面白さが堪能できる。
マイクが挑むのは、勝者のいない「敗者のゲーム」だ。「秩序ある無法地帯」を築くため、彼は法を破り悪魔とも手を組む。だが人種間、ギャング間の対立はより複雑化し、報復の連鎖となって跳ね返ってくる。もはや善悪の境界線は消え去り、従来の倫理と価値観は通用しない。孤立したマイクは疲弊し、誤りを犯す。
ストーリーはマイクと悪党たちとのタフな交渉、宿敵マイロとの対決、アイリスとのヴィヴィッドな関係を縦糸に、ギャング間の抗争、刑務所内の囚人と看守の対立を横糸に展開する。全30話は緊迫感・疾走感が半端なく、一気呵成に畳みかけてくる。
キングスタウンのような「刑務所タウン」はアメリカにいくつも実在する。“Mayor of Kingstown”は、そんな閉鎖的な町を圧倒的なリアリティで活写する、迫真のダーティーヒーロー・クライムドラマなのだ!
※ジェレミー・レナーは2年前に除雪車に轢かれてマジで死にかけたが、本作のシーズン3で奇跡的な復活を遂げた。気になるシーズン4は本年後半の配信が期待される。
原題:Mayor of Kingstown
配信:Paramount+(Amazon Prime、WOWOWオンデマンド、J:COM STREAM経由)
配信開始日:2023年12月1日(S1)、2024年2月9日(S2)、2024年8月2日(S3)
話数:30(1話 35-65分)
<今月のおまけ> 「これは必携、アメリカン・ドラマを楽しむためのお役立ち本!」③
●『警察・スパイ組織 解剖図鑑』
(加賀山卓朗・♪akira著、エクスナレッジ、2024)
タイトルのとおり、映画・ドラマ・小説に頻出する世界の警察・法執行機関・諜報機関を英米中心に網羅した画期的な一冊。イラスト付きの映画・ドラマ・小説の紹介コラムも気が利いている。
Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。