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これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第125回 “ANNE RICE’S INTERVIEW WITH THE VAMPIRE”

これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第125回 “ANNE RICE’S INTERVIEW WITH THE VAMPIRE”
“Viewer Discretion Advised!”
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi 

第125回“ANNE RICE’S INTERVIEW WITH THE VAMPIRE”
“Viewer Discretion Advised”は海外の映画・テレビ番組等の冒頭で見かける注意書き。「バイオレンスやセックス等のコンテンツが含まれているため、視聴の可否はご自身で判断して下さい」という意味。

今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。

 

予告編:『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』 本予告

 

映画版を凌ぐ、スタイリッシュなモダン・ゴシックホラー!!!
日本での配信まで2年間待たされたが、その価値は十分にあった。
“The Walking Dead”(本ブログ第10回参照)のAMCが制作、U-NEXTが配信する本作は、トム・クルーズ&ブラッド・ピット共演の映画版(1994)を遥かに凌ぐ面白さ。

“Interview with the Vampire”は、不死の者たちの孤独、苦悩、愛憎を描く究極のメロドラマ。幻想と官能、そして恐怖に彩られたスタイリッシュなモダン・ゴシックホラーなのだ!

 

“How long have you been dead?”
―2022年6月14日、ドバイにあるタワーマンションの最上階
ダニエル・モロイ(エリック・ボゴシアン)は、ルイ・ド・ポワントデュラック(ジェイコブ・アンダーソン)と半世紀ぶりに対面した。ルイの外観は、彼が33歳当時のままだ。パーキンソン病で余命いくばくもないモロイは、ジャーナリストとして最後の仕事、中断していた145歳のヴァンパイアへのインタビューを再開した。

 

―1910年、ルイジアナ州ニューオーリンズ
ルイは父親がフランス系白人、母親が黒人のクレオールだ。父親は5年前に家族4人を残して先立った。長男のルイは母親、妹、精神が不安定な弟の面倒を見ながら、風俗街で複数の売春宿を経営する。
クレオールは黒人の特権階級だが、ジム・クロウ法(黒人分離の州法)の制定で差別が激化している。

 

ある晩、ルイは友人の売春婦リリーに会うために、馴染みの娼館を訪ねた。だが彼女には、古風な服装の裕福なフランス人の先客がいた。レスタト・ド・リオンクールと名乗るその男(サム・リード)に見つめられて、ルイは動けなくなった。

 

その頃、川岸の貧しい地域で、血が一滴もない死体が次々と発見されていた。

 

レスタトと親しくなったルイは、彼の豪邸に招かれた。そこには既にリリーがいる。だがレスタトの目的はリリーではなく、ルイだった。

 

レスタトには人の心を読んで操る特殊な能力があった。強靭で、時間を止め、瞬間移動も行う。人間を食料として狩ることも、仲間にすることもできる。
レスタトは、150歳を超える最強のヴァンパイアだった。

 

妹の結婚式の翌朝、弟がルイの目前で飛び降り自殺をした。
母親はルイを責めた。

 

川岸で、血が一滴もないリリーの死体が見つかった。

 

弟が埋葬された日の夜、傷心のルイはレスタトと会い、ヴァンパイアとなった。
生まれて初めて、彼の心は自由になった。

 

トム・クルーズもブラッド・ピットも要らない!
ルイを演じたジェイコブ・アンダーソンは英国出身、“Game of Thrones”の司令官グレイ・ワーム役で日本でも知られている。本作では、殺しの快楽と良心の呵責の狭間で葛藤する繊細なヴァンパイアをチャーミングに演じる。

 

レスタト役のサム・リードはオーストラリア出身、高い演技力と存在感に驚かされる。リードは「魅力的な殺人者、師匠で恋人でもある両刀使いの創造主」を、強烈なカリスマを持って体現した。

 

アンダーソンとリードの間で生じる強力なケミストリーは、嵐のようなラブストーリーを生み出した。

 

ダニエル・モロイを演じたエリック・ボゴシアンは、“Law and Order: Criminal Intent”、“Billions”、“Succession”(『メディア王 ~華麗なる一族~』)などで見慣れた渋いベテランアクター。本作では、ルイの数奇な運命に魅了されながら、自らの恐怖の記憶を探るジャーナリストを演じる。

 

ルイ&レスタトの娘となるクローディアを演じたベイリー・バスは、『アバター・シリーズ』のレヤ役が代表作。本役は初の準主役級だ。(シーズン2からディレイニー・ヘイルズが代役。)

 

本作にはトム・クルーズもブラッド・ピットも不要だ。ビッグネーム不在のおかげで、役者を意識せずドラマそのものに没頭できる。知名度では劣るが実力あるアクターたちが、映画版にないリアリティを実現した。

 

強烈な中毒性を放つ、耽美で歪んだ愛憎劇!
原作はアン・ライスの同名小説(邦題は『夜明けのヴァンパイア』)で、「ヴァンパイア・クロニクルズ・シリーズ」の第1作にあたる。

 

ショーランナー(兼共同脚本)のロリン・ジョーンズは、“Friday Night Lights”、“Weeds”、“Perry Mason”(2020)など質の高い娯楽作を手掛けてきた。本作では、1900年代初頭のニューオーリンズの陰鬱な空気と、フランス文化の影響が色濃く残るクレオールの世界を見事に再現した。また、ダニエル・モロイのキャラクターに厚みとバックグラウンドを与えて深化させている。

 

観始めた瞬間、ゴシックホラーの世界観、幻想美、官能美に引き込まれる。鮮やかな語り口で描かれる吸血鬼たちの耽美で歪んだ愛憎劇は、磁力のような中毒性を放つ。

 

ゲイであることをひた隠し、白人にへりくだる自分を嫌悪していたルイは、ヴァンパイアになる道を選ぶ。それは、完全な自由と引き換えに絶望的な孤独に耐え、圧倒的なパワーを得る代わりに想像を絶する虚無感に苛まれながら、永遠に生き続けることを意味する。ルイにとってこのインタビューは、自分が存在してきたことの証だ。

 

抑制されたトーンで始まるシーズン1は、怒涛のエンディングで驚愕の惨劇とツイストを畳みかける。計算し尽くされバランスの取れた完璧な仕上がりだ。
シーズン2は、第二次世界大戦直後のパリへ舞台を移す。薄気味悪い「ヴァンパイア劇場」では陰謀と策略が渦巻き、濃密なラブストーリーが展開する。

 

映画版を観ていなくても問題はない。しかし両方を見比べれば、ドラマ版の大胆で緻密な脚本、丁寧な作り込み、ストーリーの奥深さに驚くはずだ。
“Interview with the Vampire”は、幻想と官能、そして恐怖に彩られたスタイリッシュなモダン・ゴシックホラーなのだ!

制作が決定したシーズン3は、シリーズ第2作の『ヴァンパイア・レスタト』が原作となるようだ。

 

原題:Anne Rice’s Interview with the Vampire
配信:U-NEXT
配信開始日:2024年12月20日(S1&S2)
話数:15(1話 41-66分)

 

<今月のおまけ> 「これもお勧め、アメリカン・ドラマ!」(1月~3月)
※本ブログで過去に紹介した作品の新シーズンは除きます。

 

●“The Outsider”(『アウトサイダー』、U-NEXT)
S・キング原作、相反する完璧な有罪証拠と無罪証拠が共存する特異な少年殺人事件をめぐる、スリリングなミステリー・ホラー!

 

●“American Primeval”(『アメリカ、夜明けの刻』、Netflix)
西部開拓時代の無法地帯を舞台に、お尋ね者の子連れシングルマザーと先住民に育てられた白人ガイドとの絆を描く硬派ドラマ!

 

●“Creature Commandos”(『クリーチャー・コマンドーズ』、U-NEXT)
『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』を生んだジェームズ・ガンが贈る、DCコミックスの非人間モンスター軍団が世界を救う大人向けアニメ!

 

●“Lego Star Wars: Rebuild the Galaxy”(『LEGO スター・ウォーズ/リビルド・ザ・ギャラクシー』、Disney+)
ルーク、ハン・ソロ、レイアなどオリジナルメンバーも多数集結、“Skeleton Crew”よりずっと楽しめるクリエイティブで底抜けに愉快なシリーズ最高作!

 

●“Reacher”(『リーチャー ~正義のアウトロー~』、Amazon Prime)
リー・チャイルド原作、トム・クルーズの映画版より100倍面白い、剛腕ジャック・リーチャー・シリーズの絶好調な第3シーズン!

 

●“Paradise”(『パラダイス』、Disney+)
“This Is Us”(本ブログ第36回参照)のダン・フォーゲルマン(クリエーター)とスターリング・K・ブラウン(主演)が再タッグを組んだ、緊迫の近未来政治スリラー!

 

●“Running Point”(『ランニング・ポイント』、Netflix)
ケイト・ハドソン主演、プロバスケットチームの強豪LAウェーブスを引き継いだ元パーティーガールのキャリアウーマンの葛藤を描くスポーツコメディ!

 

●“Landman”(『ランドマン』、Paramount+)
気鋭のクリエーター、テイラー・シェリダンと曲者アクター、ビリー・ボブ・ソーントンによる、テキサス州のオイル&ガス事業のダイナミズムと醜悪さを活写する硬派の人間ドラマ!

 

写真Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。