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これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第126回 “HIGH POTENTIAL”

これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第126回 “HIGH POTENTIAL”
“Viewer Discretion Advised!”
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi 

第126回“HIGH POTENTIAL”
“Viewer Discretion Advised”は海外の映画・テレビ番組等の冒頭で見かける注意書き。「バイオレンスやセックス等のコンテンツが含まれているため、視聴の可否はご自身で判断して下さい」という意味。

今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。

 
予告編:『ハイ・ポテンシャル』 本予告

 

美魔女の天才シングルマザー降臨!!!
本作は、Disney傘下の民放大手ABCが制作しDisney+が配信する、フランスの大ヒットドラマのリメーク。
“High Potential”は美魔女の天才シングルマザーがスカッと謎を解く、痛快なハイパー・ミステリーコメディなのだ!
 
“I have an IQ of 160 with high potential intellectual”
—ロサンゼルス、ダウンタウン
モルガン・ギロリー(ケイトリン・オルソン)はバツ2のシングルマザー。反抗期のエバ、10歳のエリオット、赤ん坊のクロエと毎日格闘している。モルガンの仕事は、LAPD(ロサンゼルス市警)の夜間清掃員(“cleaning lady”)だ。
 
モルガンはいつものようにイヤホンから流れる音楽に合わせて、踊りながら仕事をしている。すると、お尻をデスクに当てて、捜査資料を床にばら撒いてしまった。死体の写真が目に入る。モルガンがいるのは、重大犯罪課(“Major Crimes Division”)のオフィスだった。
 
興味を引かれたモルガンは資料にざっと目を通すと、今度は捜査ボードを見やる。被害者の妻の写真が貼ってあり、“SUSPECT”(容疑者)と書かれている。モルガンは赤いマーカーを取ると、その文字を二重線で消して“VICTIM”(被害者)と書き込んだ。
 
翌朝、担当刑事のアダム・カラデック(ダニエル・サンジャタ)は、捜査ボードの書き込みを見て激怒した。オフィスの監視カメラからいたずらの犯人を割り出す。モルガンは捜査妨害の容疑で拘束された。
 
アダムと上司のセレナ・ソート(ジュディ・レイエス)がモルガンを詰問する。すると彼女は、被害者の妻は犯人ではなく第2の被害者で、殺されたか誘拐されていることをスラスラと証明してみせた。
アダムとセレナは顔を見合わせる。
 
実はモルガンはIQ160、HPI(“High Potential Intellectual”)と呼ばれるギフテッドで、高度な認知能力、知的創造力、映像記憶を持っている。だが会話が苦手なうえに、小さな問題であっても解決するまで自分を制御できなくなる。だから仕事も人間関係も長続きしない。
 
その事件は行き詰まり、セレナは突破口を求めてモルガンをコンサルタントとして起用する。彼女とペアを組まされたアダムはまたまた激怒するが、上司の命令は絶対だ。
 
こうして、ド素人の天才シングルマザーと有能だが堅物のベテラン刑事の凸凹コンビが誕生した!
 
“You see a cleaning lady, I see more” (Selena Soto)
モルガン役のケイトリン・オルソンは、FXの破壊的シットコム“It’s Always Sunny in Philadelphia”で、イケてるバーテンダーのディーを全16シーズン演じている(継続中)。オルソンは、明るくて傍若無人、派手な衣装でいつもミニスカートの天才美魔女役にピタリとハマった。
 
アダム・カラデック役のダニエル・サンジャタは、消防隊ドラマ“Rescue Me”でレギュラーを全7シーズン務め、また渾身の実話ミニシリーズ“The Bronx is Burning”ではヤンキースのスラッガー、レジー・ジャクソンを演じた。
サンジャタとオルソンとの間にはケミストリーが働き、観ていて楽しい。
 
重大犯罪課を率いるセレナ・ソート役のジュディ・レイエスは、メガヒット医療コメディ“Scrubs”で看護師長カーラを8シーズン演じた。本役は久しぶりの準主役級で、オルソンの才能を見抜くタフな上司を好演する。
 
また、バイカー・ギャングドラマ“Mayans M.C.”(本ブログ第61回参照)で主演したJ・D・パルドが、モルガンのボーイフレンドとなるLAPDの用務員トム役でいい味を出している。
 

「エンタメの達人」の会心作!
クリエーター(兼共同脚本)のドリュー・ゴダードは、メガヒットした“Buffy the Vampire Slayer”の脚本でキャリアをスタート。その後もJ・ガーナーをスターにした”Alias”、社会現象化した“Lost”、マーベル・ドラマの最高作“Daredevil”、ユニークな哲学コメディ“The Good Place”(本ブログ第44回参照)などを手がけた。また、マット・デイモン主演のSci-Fi映画『オデッセイ』(2015)の脚色でアカデミー賞にノミネート、『マトリックス・シリーズ』の次作では監督・脚本を務める。本作は、そんな「エンタメの鉄人」の最新作だ。
 
「主人公が警察/FBIを助ける天才」という設定のドラマは意外と多い。ユニークなキャラの天才たちが、オールドファッションの刑事や傲慢な連邦捜査官をやり込める爽快感は格別だ。“Psych”、“The Mentalist”、“White Collar”、“Numbers”、“Elsbeth”(本ブログ第44回参照)などが成功例だが、ハードルは結構高い。視聴者が主人公の天才ぶりにすぐに慣れてしまうので、何らかの差別化が必須となる。
 
本作を差別化するキーは、チャーミングなモルガンのキャラだ。彼女はその魅力を振りまいて視聴者を混乱させ、マシンガントークで直感的な推理や飛躍した論理を強引に納得させる。展開がスピーディなので、筆者のような凡人はこの技巧に翻弄され、多少論理が破綻していても気が付かないか、忘れてしまう。
 
モルガンとアダムとの微妙な関係も見どころのひとつ。直感型のアマチュア探偵と強面のベテラン刑事は、反発し合いながらも互いの欠点を補い、信頼関係を築き、成長し、最強のペアとなる。さらに、用務員トムが参戦して形成される三角関係も微笑ましい。
 
民放のプライムタイム(東部標準時で通常8:00PM~11:00PM)の番組らしく、1話完結で全13話。バックストーリーとして、モルガンの最初の夫ローマンが失踪した経緯が徐々に明かされる。
各エピソードには映画名をもじったタイトルが付き、終盤には気の利いたツイストが用意されている。シーズンフィナーレでは、ゲーム狂の犯人vs.モルガンの超絶な頭脳戦が展開する。
 
シーズン2の制作も決まった。“High Potential”は美魔女の天才シングルマザーがスカッと謎を解く、痛快なハイパー・ミステリーコメディなのだ!
 
原題:High Potential
配信:Disney+
配信開始日:2025年1月23日~4月10日
話数:13(1話 42-46分)
 
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写真Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。