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これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
第17回 “You’re the Worst” + 「これがおススメ、現代ロマコメリスト」(映画編)

これがイチ押し、アメリカン・ドラマ<Br>第17回 “You’re the Worst” + 「これがおススメ、現代ロマコメリスト」(映画編)

今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系、ケーブル系各社に[…]

“Viewer Discretion Advised!”
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi 

第17回“You’re the Worst”+ 「これがおススメ、現代ロマコメリスト」(映画編)
“Viewer Discretion Advised”は海外の映画・テレビ番組等の冒頭で見かける注意書き。「バイオレンスやセックス等のコンテンツが含まれているため、視聴の可否はご自身で判断して下さい」という意味。

今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
 

ジミー: “What you heard about me?” (オレのこと何ていってた?)
グレッチェン: “Nothing, just you’re the worst” (べつに。ただあんたはサイアクだって)
 

二人の出会いは、ジミーの元カノの結婚式だった。ジミーは振られた腹いせに式をぶち壊しに行って、逆にたたき出されたところ。グレッチェンは結婚祝いのひとつを盗んで逃げようとしていた。ジミーがひと息つこうとタバコを取りだすと、グレッチェンが「私にもくれない?」と声をかけたのだ。二人には共通の知り合いがいることがわかり、そのときの会話が本作のタイトルとなった。
 

そして二人はベッドへ直行する。
 

ロマコメ史上最悪のカップル(?)
ジミー(クリス・ギア)はLAに住む歪んだユーモアを持つイギリス人作家(処女作の“Congratulations, You Are Dying”はまったく売れず)。ブロンドのイケメンでヘビードリンカー&スモーカー。倫理観が著しく欠けていて自己中心的、無神経な発言で人を不快にする。ルームメートのエドガー(デスミン・ボルヘス)はイラク戦争に従軍後、PTSD(心的外傷後ストレス障害)に悩まされている。
 

グレッチェン(アヤ・キャッシュ)はなぜか黒人ラッパーの代理人をやっている貧乏な白人。美人でヘビードリンカー&スモーカー。コカイン常用者で盗癖があり、怖いもの知らずで、信じられないほど汚い部屋に住んでいる。悪友のリンゼイ(ケッテル・ドナヒュー)は財産目当てで結婚したものの、退屈で死にそうな思いをしている。
 

ジミー、グレッチェンともに、お互いに恋人として理想的なタイプとはいい難い。だが、一晩かぎりの関係のはずが、翌朝二人は恋に落ちていた!
 

これぞケミストリー!
本作の極めつけは、最初のエピソードで主役二人が最悪の面を見せていること。ジミーはマスターベーションばかりしているし、グレッチェンはセックスで男を利用している。ユニークだがロマコメの主役とは似ても似つかない。笑うに笑えず、ここで観るのを止めてしまった人もいたはずだ。脚本家は高いリスクを取ったのだが、このギャンブルはみごとに当たった。

 

実は二人とも、内面は孤独で傷つくことを恐れる若者だ。たいていの大人と同様に、密かに自分を浅くて内容のない人間だと軽蔑している。他人に敵対的なのは、それが唯一の自己防衛手段だからだ。だがひとたび恋に落ちると、ケンカしながらも、少しずつ、不器用に、自分をさらけ出すようになる。生まれて初めて、人生観、価値観、趣味がピッタリと合う相手に出会ったのだ。自分を理解してくれる人に。

 

グレッチェン:「わたし、学生の時に数学の試験がイヤで、学校に放火したの」
ジミー:「クール!」
 

グレッチェン:「ジェームズ・ボンド役のダニエル・クレイグって、機嫌の悪い赤ん坊みたいな顔だよね」
ジミー:「それっていえてる」
 

こんな会話が頻出するエピソードを重ねるにつれて、ジミーとグレッチェンの魅力は増し、笑いが一気に加速していく。これぞ、ケミストリーではないか!
 

「現代ロマコメ」の決定打!

“You’re the Worst”はスケッチ風に展開する、斜に構えた“boy-meets-girl story”だ。刺激の強いシーンや卑猥な会話に眉をひそめる人もいるだろう。だが、「ロマコメ基本7原則」(※1)のほとんどをしっかりと押さえている。ヘプバーン&トレイシー(※2)に代表されるアメリカン・ロマコメの伝統は、今も脈々と受け継がれているのだ。
恋はユニバーサルということだ。
 

(※1)「ロマコメ基本7原則」:
筆者が勝手に作ったもので、①主人公の二人に圧倒的なケミストリーが生じる、②主人公は2回以上ケンカをする、③ヒロインの方に高いコメディセンスがあり、どちらかというと相方は‘受け’に回っている、④主人公にはルックスが2ランクくらい落ちる親友がいる、⑤「身分の違い」・「誤解」・「すれ違い」・「病気」など多くの障害が出現する、⑥文句なしのハッピーエンディングで終わる、⑦主役二人を支える年配の「渋いわき役」が存在する(典型的な例としては『プリティー・ウーマン』で売春婦のジュリア・ロバーツに優しいホテルの支配人を演じたヘクター・エリゾンド、『ミスター・アーサー』でわがまま金持ちのダドリー・ムーアの執事に扮したジョン・ギールグッドなど。基本的にもうけ役)。
(※2)オードリーでなくキャサリン・ヘプバーン。ディックでなくスペンサー・トレイシー。

 

製作はマイナーなケーブル系のFXで、本国では昨年12月にシーズン2が終了した。日本ではほとんど知られていないが、本国での評価はウナギ登り。「現代ロマコメ」の決定打として、強くお薦めする。
 

特別付録:「これがおススメ、現代ロマコメリスト」(映画編)
1. “Dave” (1993、ケビン・クライン&シガニー・ウィーバー)
2. “Foul Play” (1978、ゴールディ・ホーン&チェビー・チェイス)
3. “The Truth about Cats & Dogs” (1996、ジャニーン・ガロファロ&ベン・チャップリン)
4. “Splash” (1984、トム・ハンクス&ダリル・ハンナ)
5. “Time after Time” (1979、マルカム・マクダウェル&メアリー・スティーンバージェン)
6. “Victor/Victoria” (1982、ジュリー・アンドリュ-ス&ジェームズ・ガーナー)
7. “Mannequin” (1987、アンドリュー・マッカーシー&キム・キャトラル)
8. “Can’t Buy Me Love” (1987、パトリック・デンプシー&アマンダ・ピーターソン)
9. “Pretty Woman” (1990、ジュリア・ロバーツ&リチャード・ギア)
10. “Overboard” (1987、ゴールディ・ホーン&カート・ラッセル)
11. “The Good-by Girl” (1977、リチャード・ドレイファス&マーシャ・メイスン)
12. “Groundhog Day” (1993、ビル・マーレー&ジーナ・デイビス)
13. “Heaven Can Wait” (1978、ウォーレン・ベイティ&ジュリー・クリスティ)
14. “Arthur” (1981、ライザ・ミネリ&ダドリー・ムーア)
15. “The Wedding Singer” (1998、アダム・サンドラー&ドリュー・バリモア)
16. “Night Shift” (1982、ヘンリー・ウィンクラー&シェリー・ロング)
17. “It Could Happen to You” (1994、ニコラス・ケイジ&ブリジッド・フォンダ)
18. “There’s Something about Mary” (1998、キャメロン・ディアス&マット・ディロン)
19. “When Harry Met Sally” (1989、メグ・ライアン&ビリー・クリスタル)
20. “While You Are Sleeping” (1995、サンドラ・ブロック&ビル・プルマン)
21. “Legally Blonde” (2001、リース・ウィザースプーン&ルーク・ウィルソン)
22. “Sweet Home Alabama” (2002、リース・ウィザースプーン&ジョッシュ・ルーカス)
23. “50 First Dates” (2004、アダム・サンドラー&ドリュー・バリモア)
24. “Fever Pitch” (2005、ドリュー・バリモア&ジミー・ファロン)
25. “Forgetting Sarah Marshal” (2008、ジェイソン・シーゲル&ミラ・クニス)
26. “Friends with Benefits” (2011、ジャスティン・ティンバーレーク&ミラ・クニス)
27. “Silver Linings Playbook” (2012、ジェニファー・ローレンス&ブラッドリー・クーパー)
28. “Easy A” (2010、エマ・ストーン&ペン・バドグレイ)
29. “Warm Bodies” (2013、ニコラス・ホルト&テレサ・パーマー)
30. “Leap Year” (2010、エイミー・アダムス&マシュー・グード)
31. “About Time” (2013、ドーナル・グリーソン&レイチェル・マクアダムス)
32. “Enough Said” (2013、ジュリア・ルイス・ドレイファス&ジェームズ・ガンドルフィーニ)
*順不同

 

写真Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。
 
 
 第16回 『Mr. Robot』
 第15回 『Empire』
 第14回 『POWER』
 第13回 『Fargo』
 第12回 『How to Get Away with Murder』
 第11回 『The Blacklist』
 第10回 『The Walking Dead』
 第9回 『Orphan Black』
 第8回 『SUITS』
 第7回 『scandal』
 第6回 『The Americans』
 第5回 『Sons of Anarchy”』
 第4回 『Orange Is the New Black』
 第3回 『“Chicago Fire” & “Chicago P.D.”』
 第2回 『ハウス・オブ・カード 野望の階段』
 第1回 『24: Live Another Day』