これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第32回 “Stranger Things”
今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系、ケーブル系各社に[…]
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi
第32回“Stranger Things”
今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
『X-MEN』+『E.T.』+『エイリアン』 …and more!
『X-MEN』の興奮、『E.T.』の感動、『エイリアン』の恐怖、さらに『スタンド・バイ・ミー』の友情までもがテンコ盛り!“Stranger Things”は、Netflixが放つ驚異のスーパー・エンターテインメントだ!
“My name is 011”
舞台は1983年、インディアナ州の田舎町ホーキンス。
国立科学研究所で、研究員が正体不明の怪物に惨殺された。怪物は所内に巣を作って立てこもるが、所長のブレナー博士(マシュー・モディーン)は事件を通報せず、私設の軍隊で対処しようとする。
同日、12歳のウィル・バイヤーズが行方不明に。ウィルは、RPG仲間のマイク、ダスティン、ルーカスと、マイクの家で「ダンジョンズ&ドラゴンズ」を楽しんだが、深夜になっても帰宅しなかったのだ。
アル中の警察署長ホッパー(デヴィッド・ハーバー)はウィルの失踪事件を調査するが、手がかりがつかめなかった。一方、半狂乱となったウィルの母親ジョイス(ウィノナ・ライダー)は息子からのコンタクトを「感じる」が、誰も彼女を信じない。
独自にウィルを捜し始めたマイク、ダスティン、ルーカスの3人は、森の中で謎の少女と出会う。丸刈りで、汚れた手術着姿の少女は、片言の英語で自分を“011”(Eleven)と名乗った。彼女は何者かに追われていた。マイクは少女をエル(“El”)と呼ぶことにして、自宅にかくまう。
エルはサイコキネシスを駆使して追手を撃退するが、体力を消耗していた。それでもエルはウィルの生存を認識し、マイクたちに協力する。
だが、ある日ウィルの死体が発見される…。
『スタンド・バイ・ミー』再び
TOTOの大ヒット曲“Africa”が劇中に流れると、’80年代が懐かしくなった。
クリエーターのダファー兄弟は弱冠33歳の双子で、監督と脚本も手がけた才人デュオだ。
彼らは冒頭掲げた『X-MEN』、『E.T.』、『エイリアン』、あるいは’80年代の傑作『遊星からの物体X』など、自分たちのお気に入り映画からエッセンスを巧みに取り込んでいる。それも単なる「いいとこ取り」ではなく、’80年代の雰囲気を再現しつつ、学園ドラマ形式にして、ストーリーがテンポよくアレンジされているのだ。その結果、シーズン1の8エピソード(約6時間)はイッキ見確実の“roller-coaster ride”となった!
Sci-Fiホラーとしての面白さ以上の見どころが、ゲームおたく4人の友情と絆だ。彼らはクラスメートから見ると、ダサくて、ケンカが弱くて、女の子にモテない永遠のルーザーだ。だが確固たる“code”(行動規範)を持っている。「約束は必ず守る。仲間には決して嘘をつかない」というお互いへの誓いだ。
「必ず君を見つけ出す」、マイク、ダスティン、ルーカスはウィルに約束する。この約束は守らなければならない。なぜなら、彼らの存在意義がかかっているからだ!
そして、マイクたちが仲間として受け入れるのがエルだ。友情と信頼の構築プロセスがきちんと描かれているので、少年だけのおたくグループに新参者の少女が加わる展開に違和感はない。彼らはお互いにとっての保護者なのだ。そんな中で、マイクがエルに寄せるほのかな想いが微笑ましい。
この「『スタンド・バイ・ミー』効果」は最終エピソードで最大限に発揮され、エンディングは涙なしでは見られない!
巧過ぎる子役たち、復活のウィノナ・ライダー
主演のマイクを演じたフィン・ヴォルフハルトは、本年9月に全米公開されるスティーブン・キング原作の“IT”にも出演している。エル役のミリー・ボビー・ブラウンは13才、モデルもこなす。ダスティン役のガテン・マタラッツォはブロードウェイ俳優で、『レ・ミゼラブル』等に出演。とにかく、5人の子役はあきれるほど巧い。
ジョイス役のウィノナ・ライダーは、ティム・バートンの『ビートルジュース』(’88)、『シザーハンズ』(’90)でブレーク、‘90年代は実力派美人女優として一世を風靡した。その後は万引き事件や数々のスキャンダルで低迷していたが、本作でめでたく復活を遂げ、ゴールデングローブ賞の女優賞候補となった。ヒステリックに叫び回るジョイス役は地の演技のようにも見えるが、気のせいか。
ブレナー博士を憎々しげに演じたマシュー・モディーンは、’80年代に人気スターになりそこなったかつてのイケメン俳優(米国の草刈正雄だ)。印象は薄いが、『フルメタル・ジャケット』(’87)やドラマ版『アルジャーノンに花束を』(‘00)に主演している。
Netflixのオリジナル作品は乱立気味だが、本作は最近の決定打だろう。
シーズン2は今年のハロウィーン(10/31)に全米にて配信予定で、設定は今回の事件から1年後(’84)のハロウィーン。残された謎がどこまで解明されるのか、お楽しみがひとつ増えたね。
<今月のおまけ> 「ベスト・オブ・クール・ムービー・ソングズ」 ⑫
Title: “Bright Eyes”
Artist: Art Garfunkel
Movie: “Watership Down” (1978)
原作はウサギたちの感動的な冒険譚で、作者のリチャード・アダムスは昨年亡くなった。合掌。
Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。
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