これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第36回 “This Is Us”
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今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系、ケーブル系各社に[…]
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi
第36回“This Is Us”
今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系、ケーブル系各社にその道の才人たちが集結し、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
The Best “Dramedy” Ever!
本作はNBC製作の大真面目なファミリー・ヒューマンドラマ。日本ではNHKが、『THIS IS US 36歳、 これから』というセンスのない邦題で、10月1日から放映を開始した。では、つまらないのかというと、いや、これが尋常ではない面白さ!
“This Is Us”は極上の“dramedy”(ドラマ+コメディ)なのだ!
ピアソン家の5人
―36年前
ピッツバーグ郊外の家で、レベッカ・ピアソン(マンディ・ムーア)の陣痛が始まった。これからジャック(マイロ・ヴェンティミリア)とレベッカに、三つ子が生まれるのだ。2人は病院へ向かった。
―現在
ケヴィン・ピアソン(ジャスティン・ハートリー)は、36歳の誕生日を高級マンションの自室で迎えた。祝ってくれたのは、一夜を共にした2人の若くて美しい女性だ。ケヴィンは超人気コメディ“The Manny”の主演アクターだが、底の浅いMannyのキャラに嫌気がさしていた。その日の午後、ケヴィンは番組収録中に突然キレて、一方的に降板宣言をする。
ケイト・ピアソン(クリッシー・メッツ)の36歳の誕生日は、いつものように体重のチェックで始まり、いつものように失望した。彼女の人生は子供のころから肥満との闘いそのもので、心の支えは双子の兄ケヴィンだけだった。その日の夜、ケイトはダイエットのサポートグループの集会で、肥満仲間の変人トビーにナンパされる。
ランダル・ピアソン(スターリング・K・ブラウン)は、36歳の誕生日を家族と仕事仲間から祝福された。彼は「白人にもらわれた黒人の子」といじめを受けながら成長し、兄のケヴィンからも嫌われていた。だが、今では成功した穀物ブローカーだ。その日の午後、ランダルは36年前に自分を捨てた実の父親を初めて訪ねる。
―36年前(続)
レベッカは出産中にショック状態に陥るが、何とか分娩を終える。ジャックとレベッカは息子と娘を授かったが、3人目の次男は死産だった。
その日、レベッカが入院している病院に、生まれて間もない黒人の赤ん坊が運ばれてくる。近くの消防署の前に捨てられていたのだ。
レベッカが退院する日、ピアソン夫婦は3人の赤ん坊と一緒だった。長男はケヴィン、長女はケイト、そして養子にした次男はカイルと名付けられた。カイルは後に、ある理由によりランダルと改名される。
ジャックとレベッカ、そして3人の子供たち。ここから、ピアソン家の5人の人生が綴られていく。
史上最強のアンサンブルドラマ!
主演5人の演技は甲乙つけがたく、ケヴィン役のジャスティン・ハートリー以外の4人はゴールデングローブ賞かエミー賞にノミネートされた。(ハートリーはいいアクターだが、顔立ちと仕草が若いころのトム・クルーズに酷似していて、損をしていると思う)
特筆すべきは、愛すべき2人の脇役だ。
まず、老いた産科医カタフスキーを演じたジェラルド・マクレイニーが渋い。マクレイニーには「米国の笠智衆」といった趣があり、穏やかで優しいカタフスキーの役柄は忘れ難い。
圧巻なのが、ランダルの実父ウィリアム役のロン・シーファス・ジョーンズ。余命わずかの元ヤク中ミュージシャンというオイシイ役どころを、片耳ピアスで粋に飄々と演じてみせる。とにかく観ていて楽しい。(ジョーンズはエミー賞の助演男優賞にノミネート)
主役、脇役を問わず、登場人物たちの間に生まれるケミストリーの強さは他に類を見ない。本作は史上最強のアンサンブルドラマなのだ!
緻密な人間描写が紡ぎだす宝石のような作品
物語はジャックとレベッカの現在と過去、ケヴィン、ケイト、ランダルの現在と幼少時代、さらに、ジャックとレベッカの両親との関係、青年時代のウィリアムなど幅広くカバーされる。必然的に場面転換とフラッシュバックが多用されるが、ダン・フォーゲルマンの脚本は、人物の出入りが巧みに整理されていて破綻がない。名人芸だ。(フォーゲルマンは“Cars”の脚本家!)
この作品は「生きることの意味」に正面から向き合い、恋愛、夫婦愛、兄妹愛、そして家族愛の本質を、緻密な人間描写で紡ぎだすヒューマンドラマだ。平凡な人間、欠点だらけの個人が、どう繋がり、絆を深め、いかに魅力的になれるかという証しでもある。
つまり、かなりクサいストーリーなのだが、各キャラの魅力に加えて、乾いたユーモアと意外な展開が随所に効いていて、すんなりと物語に入って行ける(故にdramedyと呼ばれる)。“tearjerker”(お涙ちょうだいドラマ)ではなく、素直に感動し、笑えて、スリリングでもあり、「久しぶりに良質なドラマを観たな」という充実感と幸福感を与えてくれる。
殺伐としたドラマが乱立する中で宝石のような輝きを放つ作品、それが“This Is Us”なのだ!
シーズン1は昨年全米でスーパーヒットとなり、視聴率はトップテン入りした。シーズン2は本年9月にスタートし、シーズン3の製作も決定している。老若男女を問わず、これにはハマるよ。
<今月のおまけ> 「ベスト・オブ・クール・ムービー・ソングズ」⑮
Title: “In the Heat of the Night”
Artist: Ray Charles, composed by Quincy Jones
Movie: “In the Heat of the Night” (1967)
時々聴きたくなる名曲。
Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。
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