これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第37回 “Lethal Weapon”
-
今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系、ケーブル系各社に[…]
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi
第37回“Lethal Weapon”
今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
アクション映画の金字塔がドラマ化!
おさらいしておくと、『リーサル・ウェポン』は、『ダーティー・ハリー』、『マッドマックス』、『ダイ・ハード』と並ぶ、アクション映画シリーズの金字塔だ。‘87年に第1作が全米でスマッシュヒットすると、『マッドマックス』に続くメル・ギブソン(当時31歳!)のフランチャイズとなり、共演したダニー・グローヴァーの人気をも決定づけた。
シリーズ全4作が製作され、アクション系のエンターテインメントを撮らせたらピカイチだったリチャード・ドナーが監督した。
昨年スタートしたドラマ版“Lethal Weapon”は、切れのいい派手なアクションとコメディタッチのパッケージによる、痛快な勧善懲悪娯楽作品となった!
自殺願望のスーパー刑事!
―テキサス州エル・パソ
ピックアップトラックで麻薬ディーラーを追跡中の郡保安官マーティン・リッグズ(クレイン・クロフォード)は、身重の妻ミランダから、「陣痛が始まったので病院へ向かう」との連絡を受けた。リッグズは即座に車を止めると、アサルトライフルを構え、遥か先を行く麻薬ディーラーのSUVを一撃で大破させる。そして妻のいる病院へと引き返した。
だが、病院でリッグズを待っていたのは赤ん坊を抱くミランダではなく、彼女の遺体だった。ミランダは病院に行く途中で交通事故にあったのだ。
―ロサンゼルス
LAPD(ロス市警)のベテラン刑事ロジャー・マータフ(デイモン・ウェイアンズ)は、心臓手術後のリハビリを終えて、職務に復帰するところだ。医者からはストレスを極力抑えるよう言い渡されている。50歳になり、これからは、妻と3人の子供たちと穏やかな生活を送るつもりだった。
マータフは上司から新しいパートナーを紹介された。エル・パソから異動してきた、自分よりひと回り若い刑事の名はマーティン・リッグズ。リッグズはSEALs(米国海軍特殊部隊)出身、つまり戦闘のプロなのだ!
怖いもの知らずのリッグズは、ルール無用で悪党たちを叩き潰す。公共施設を破壊して市に数億円の損害を与え、LAPDには市民からの訴訟が殺到した。マータフは血圧が上がらないように祈りながら、悪夢となった新パートナーの尻拭いに奔走する。
リッグズは汚いトレイラーハウスに住み、酒浸りで、ホームレスのような生活をしていた。妻子の死を乗り越えられないリッグズには、自殺願望があったのだ!
フレッシュキャスト
リッグズ役のクレイン・クロフォードは本作が初主演。演技はしっかりしていて、ハイになってキレまくり、鬱になって絶望するリッグズを達者に演じている。下手にイケメンでないのもいい。
マータフを演じたデイモン・ウェイアンズは、既にハリウッドでコメディアンとしての地位を確立している。そのとぼけたキャラは本作で最大限に生かされ、ダニー・グローヴァーにはない味を醸し出す。
脇役では、マータフの愛妻で弁護士のトリッシュを演じるキーシャ・シャープ、タフで美貌のDEA(麻薬取締局)エージェント、パーマー役のヒラリー・バートン(映画版ではレネ・ルッソが演じた)、ギャング出身のヒスパニック系刑事クルーズ役のリチャード・カブラルが生彩を放つ。
また、映画版でジョー・ペシが怪演した会計士レオ・ゲッツは、本作では三流弁護士として登場し、コメディアンのトーマス・レノンが扮している。
1本で18回おいしい!
『リーサル・ウェポン』シリーズは、今観ても圧倒的に面白く、史上最高のアクション・バディ・ムービーという地位は不変だ。
もちろん最大の魅力は、チャーミングでエネルギッシュなメル・ギブソンと、優しさと深みのあるダニー・グローヴァーが生み出すケミストリーだ。これに途切れることのない緊迫感、怒涛のアクションと笑いの絶妙なブレンド、よく練られてスピード感がある脚本が加わる。第1作でスーパークールな殺し屋ジョシュアを演じたゲイリー・ビューシイも忘れ難い (※)。
(※) 興味のある人は、JVTA/鈴木純一氏のブログ「戦え!シネマッハ!!!! 80年代悪役メモリアル④」を参照下さい。
https://www.jvta.net/co/cinemach-lethal-weapon/
ドラマ版“Lethal Weapon”にはギブソンもグローヴァーも(ビューシイも)登場しないし、アドレナリン分泌度はオリジナルには及ばない。だが、自殺願望のある元SEALs(映画版では元陸軍特殊部隊)と、家族思いのベテラン刑事のペアは依然として魅力的だ。アクションも派手なだけでなく、ときおり「おっ!」と思わせる斬新さがある。ストーリーは意外(?)と丁寧に作られていて、リッグズとマータフの確執と絆、ミランダとリッグズの出会い、パーマーとリッグズの恋愛など、オリジナルとは違ったディテールも描かれる。
製作は民放大手のFOXで、アメリカでは本年9月からシーズン2がスタートした。日本ではAXNがシーズン1を放送済み。約42分間の『リーサル・ウェポン』が18回も楽しめるのだから、これを見逃す手はないでしょう!
<今月のおまけ> 「ベスト・オブ・クール・ムービー・ソングズ」⑯
Title: “It’s Probably Me”
Artist: Sting and Eric Clapton
Movie: “Lethal Weapon 3” (1992)
エリック・クラプトンによるBGMは、なぜか『リーサル・ウェポン』にしっくりくる。
Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。
◆バックナンバーはこちら
https://www.jvta.net/blog/5724/