これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第41回 “The Expanse” Sci-Fiドラマ4連発!Part 4」
-
今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系、ケーブル系各社に[…]
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi
第41回“The Expanse” 「Sci-Fiドラマ4連発!Part 4」
今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
“Battlestar Galactica”以降で最良の本格Sci-Fiドラマ!
“The Expanse”の原作は、ジェイムズ・S・A・コーリイによる同名シリーズの第1作 “Leviathan Wakes”(2011、邦題:「巨獣めざめる」)。宇宙活劇、勇敢なヒーローたち、未知の怪物、最新の視覚効果、ロマンス、陰謀など、Sci-Fiの娯楽要素がテンコ盛りの、“Battlestar Galactica”(2004-2010)以降で最良の本格Sci-Fiドラマなのだ!
200年後の世界
23世紀、国連統治下の地球では貧困とドラッグが蔓延していた。人口膨張問題を抱えた人類は月を植民地化し、太陽系に進出。火星は高い軍事力を備えた共和国として独立、地球とは冷戦状態にある。
一方で、地球と火星は小惑星帯(“Asteroid Belt”)を共同で支配していた。住民はベルターと呼ばれ、水や空気など貴重な資源の輸送・保管を行う肉体労働者として隷属的に扱われている。ベルターのテロ組織OPA(“Outer Planets Alliance”)は、不満分子を集めて独立する機会をうかがっていた。
一触即発の地球、火星、OPA
小惑星帯内にあるケレス・ステーションの刑事ジョー・ミラー(トーマス・ジェーン)は、失踪した資産家の娘ジュリー・マウ(フロランス・フェーブル)を捜し出すよう特命を受ける。
その頃、ケレスに向かっていた氷搬送船カンタベリー号は、正体不明のSOSを受信。地球生まれで副長に昇格したばかりのジェームス・ホールデン(スティーヴン・ストレイト)は、少数のクルーと共にシャトル船で救助に向かう。SOSは軽貨物船スコピュリ号からだった。
その時、謎のステルス艦が突然姿をあらわし、カンタベリー号に向けて核ミサイルを発射する。カンタベリー号は一瞬で消滅、生き残ったのはシャトル船のホールデンたちだけだった。
ステルスは火星だけが持つ最先端技術だ。微妙なバランスの上で平和が成立している地球、火星、OPAは、一触即発状態となる。
一方ジョー・ミラーは、ジュリー・マウが最後に乗った宇宙船がスコピュリ号だったことを突き止める。
カンタベリー号事件の真相を追うホールデンたちと、ジュリー捜索に取りつかれたミラーは、やがて惑星エロスで出会う。だが、そこで彼らを待っていたのはジュリーの変死体だった。
23世紀のリック・デッカードとハン・ソロ!
荒廃したケレスの街を行く一匹狼の刑事ジョー・ミラーの姿は、『ブレードランナー』(1982)でハリソン・フォードが演じたリック・デッカードを彷彿させる。ミラーを演じたトーマス・ジェーンは、古き良き時代のハードボイルドの雰囲気を漂わせ、タフでしぶといこの魅力的なキャラクターをみごとに体現した。
投げやりに生きてきたが正義感が強く、カンタベリー号事件によって急速にリーダーとして成長して行くホールデンは、若き日のハン・ソロか(若きハン・ソロの映画は6月に観に行こう)。演じるスティーヴン・ストレイトは、エピソードが進むにつれて甘さが抜けて渋さが出てくる。
見逃せないのがホールデンを支えるクルーを演じた3人だ。卓越したエンジニアでベルターのナオミ役がドミニク・ティッパー、パイロットとしての才能を開花させる火星生まれのアレックス役にキャス・アンヴァー。そして、倫理観に欠ける戦闘オタクだが、ナオミには弱い地球人エイモスを演じるウェス・チャサム。この3人に働くケミストリーは強力だ。
他にも、戦争回避に尽力する国連幹部アヴァサララを演じたイラン人アクターのショーレ・アグダシュルー、OPAのリーダー、フレッド・ジョンソン役のチャド・コールマン、OPA工作員ドーズ役のジャレッド・ハリス(故リチャード・ハリスの息子!)が、強烈な印象を残す。
地味ながら実力派の脇役陣が、適材適所に配置されているのだ。
『ブレードランナー』+『エイリアン』+『スター・トレック』!
本作は設定場面と登場人物が多く、始めの数エピソードが分かりにくい。
だが、気にせずに見続けて欲しい。地球、火星、OPAの立ち位置が見えてくるとともに、サイドストーリーが次第に意味をなし、迫力のスペースオペラに陰謀・政治ドラマとしての魅力が加わる。各キャラクターは深掘りされ、厚みを増す(例えばエイモス。始めは単細胞の暴力男にしか見えないが、後半では誰もが彼を好きになるだろう)。
ビジュアル的にも斬新で美しく、Sci-Fiならではのガジェットも楽しい。シーズン1の前半から後半、シーズン2へと、加速度的に面白くなる。
“The Expanse”は、『ブレードランナー』、『エイリアン』、『スター・トレック』(J・J・エイブラムス版)のエッセンスを巧みに取り入れながら、確固たる世界観(これ、Sci-Fiドラマで最も重要)を持つ大河ドラマなのだ!
製作は“Battlestar Galactica”を手掛けたケーブル系ネットワークのSyfy(旧“Sci Fi Channel”)。日本ではNetflixが「エクスパンス ー巨獣めざめるー」の邦題でシーズン2までを独占配信中。シーズン3は近々配信開始だ。
とりあえず「Sci-Fiドラマ4連発!」はこれで終わりだけれど、まだまだ他にもあるから。
<今月のおまけ> 「ベスト・オブ・クール・ムービー・ソングズ」⑳
Title: “Up Where We Belong”
Artist: Joe Cocker & Jennifer Warnes
Movie: “An Officer and a Gentleman” (1982)
ラブストーリー(邦題 『愛と青春の旅だち』)として大ヒット。曲も映画もタイトルから分かるとおり、人のあり方を問う硬派な作品なのに。
Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。
◆バックナンバーはこちら
https://www.jvta.net/blog/5724/