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これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第42回 “The Marvelous Mrs. Maisel”

これがイチ押し、アメリカン・ドラマ  第42回 “The Marvelous Mrs. Maisel”
    今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系、ケーブル系各社に[…]

    “Viewer Discretion Advised!”
    これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
    Written by Shuichiro Dobashi 

    第42回“The Marvelous Mrs. Maisel”
    “Viewer Discretion Advised”は海外の映画・テレビ番組等の冒頭で見かける注意書き。「バイオレンスやセックス等のコンテンツが含まれているため、視聴の可否はご自身で判断して下さい」という意味。

    今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
     


     

    一度観たらやめられない、Amazon会心のコメディドラマ!
    “The Marvelous Mrs. Maisel” は、sitcomではない1時間もののコメディドラマ。これが最高にチャーミングで、一度観たらやめられない。本年度のゴールデン・グローブ賞の最優秀作品賞(ミュージカル・コメディ部門)に輝く、Amazon会心の一作だ!
     

    ‘50年代のNYでコメディエンヌを目指す主婦!
    舞台は1958年のNY。
    ミリアム(通称ミッジ)・メイゼル(レイチェル・ブロズナハン)は26歳で2児の母親。名門女子大卒で才色兼備、ユーモアのセンスがあって、明るく飾らない性格。だからだれからも愛される。ミッジは夫ジョール(マイケル・ゼゲン)のために「完璧な専業主婦」を目指していた。
     

    ジョール・メイゼルは、叔父の経営する大手化学会社のお飾り部長。実はコメディアン志望で、「ガスライト・カフェ」というナイトクラブで、スタンダップコメディアンとして出演している。出演交渉を行い、アドバイスを与えるのはミッジの仕事だ。「夫の夢は妻の夢」、ミッジの目標はジョールを一流のコメディアンにすることだった。
     

    ある日ミッジは、ジョールが人気コメディアンのネタを盗用していることを知る。問い詰められたジョールは、「借りただけだよ、だれでもやっていることさ」と開き直った。この事件をきっかけに夫婦関係は急速に悪化する。ミッジの夫は才能のないダメ男だったのだ。さらにジョールの浮気が発覚するにおよび、2人の仲は修復不能に。
    結局ジョールは、ミッジと子供たちを残して家を出ていく。
     

    厳格なユダヤ人社会で暮らすミッジの両親は、負け犬を夫に選んだミッジを一方的に非難する。
     

    すっかり落ち込んだミッジは、ある晩「ガスライト・カフェ」でヤケ酒をあおる。そして酔った勢いで突然ステージに上がり、即興でスタンダップコメディを始める。地滑りのごとく崩壊した自分の人生を自虐ネタに、妻の本音、女の本音を毒舌でぶちまけたのだ。すると、これが満員の観客にバカ受け!
     

    ミッジの才能に惚れこんだのは、意外にも「ガスライト・カフェ」の超不愛想な使用人、スージー(アレックス・ボースタイン)だった。コメディ業界を知り尽くすスージーは、プロを目指すようミッジを説得し、自ら彼女のマネージャーとなる。
     

    ミッジの新たな人生が始まった。もちろん、プロへの道はそんなに甘いものではないのだが…。
     

    芸達者の集合体!
    ミッジ役のレイチェル・ブロズナハンは、本役でゴールデン・グローブ賞の主演女優賞を受賞。‘50年代のNYのファッションを身にまとい、キュートな魅力と歯切れのいいセリフ回しで魅了する。“House of Cards”では薄幸の売春婦レイチェルを演じていて、芸域の広さにはうならされる。
     

    ジョールを演じたマイケル・ゼゲンは、存在感に乏しい凡庸なアクターかと思っていたが、すっかり騙された。ミッジに未練のあるシーズン後半のジョールは、デリケートではかなげで、すっかり同情してしまった。
     

    アレックス・ボースタインは、カルト的お笑い番組“MADtv”で長年活躍したコメディエンヌ。変人スージーは画面に登場するだけでおかしく、話すとさらにおかしい。
     

    お堅い大学教授のミッジの父親エイブを演じるのは、“Monk”のトニー・シャルーブ。世間体が最優先で、占い師に入れ上げているちょっと困った母親ローズ役が、“Two and a Half Man”のマリン・ヒンクル。シャルーブの大ボケと、ヒンクルの突っ込みも楽しい。
     

    また、伝説的ユダヤ人コメディアン、レニー・ブルース(’74年の映画ではダスティン・ホフマンが演じた)をルーク・カービーが好演。
     

    このアンサンブルは芸達者の集合体だ!
     

    セピア調の現代コメディ!
    オールディーズが流れる絵に描いたような男尊女卑の時代に、合理的でしたたか、輝くばかりの魅力を放つミッジを放り込み、「笑いの道」を究めさせるという発想が秀逸だ。セピア調のクラシックコメディ的な雰囲気の中で、現代コメディが楽しめる。

     

    ミッジが満を持して炸裂させるスーパートークと、達者な脇役たちのシャープな会話が生み出す笑いは、洗練とお下劣さが絶妙にブレンドされていて圧倒的に面白い。最近のsitcomのようにマシンガン的ギャグを繰り出されて疲れてしまうことがなく、心地よいテンポだ。
     

    しかも笑いの中にミッジとジョールの愛情とすれ違い、スージーとの奇妙な友情、家族の絆など人生の機微もさらりと描かれる。とてもチャーミングな作品なのだ。
     

    クリエーター兼共同脚本は、“Gilmore Girls”の才人エイミー・シャーマン=パラディーノ。ステージ用の「受けるギャグ」と「すべるギャグ」をみごとに書き分ける力量には驚かされる。
     

    Amazonではシーズン1(全8話)を配信中。とにかく観ると元気が出るコメディで、次シーズンが待ちきれない!
     

    <今月のおまけ> 「ベスト・オブ・クール・ムービー・ソングズ」 ㉑
    Title: “The Sweetheart Tree”
    Artist: Henry Mancini and Natalie Wood
    Movie: “The Great Race” (1965)

    ヘンリー・マンシーニの隠れた名曲を2バージョンでどうぞ。こういう楽しい娯楽大作はなくなってしまった。

     

     
    写真Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。
     
     

     
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