これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第48回 “The Terror”
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今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系、ケーブル系各社に[…]
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi
第48回“The Terror”
今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
極寒の地で展開される究極のサバイバルドラマ!
今回は、タフな男たちが主演の硬派なドラマを紹介する。
原作は実話に基づくダン・シモンズのベストセラーで、これをAMCとリドリー・スコットがドラマ化。“The Terror”は、極寒の北極海を舞台に、極地探検隊が出会う恐怖の体験を描く、究極のサバイバル歴史ドラマだ!
“Survival is a nasty piece of business”
―1845年
北極海を航海していた英国海軍のエレバス号とテラー号が消息を絶った。総勢約130人を率いる隊長はサー・ジョン・フランクリン(キーラン・ハインツ)で、任務は北極を抜ける北西航路の開拓だった。大英帝国は貿易拡大のためにこの新航路の開拓に何回も挑んだが、失敗していた。
テラー号の艦長でフランクリン隊長の副官でもあるフランシス・クロージャー(ジャレッド・ハリス)は、押し寄せる流氷がより厚く、より多くなる状況を憂慮していた。流氷が固まって陸地化すると、船員は零下52度の外気の中で、氷を発破し手作業で取り除いていくことになる。さらに陸地化した氷が隆起した場合、船が水路に戻れなくなる可能性すらある。
クロージャーはフランクリン隊長へ迂回ルートを取ることを強く進言するが、却下される。功を焦るフランクリンは突き進むことしか考えていなかった。
数日後、エレバス号とテラー号は、完全な氷の世界に閉じ込められる。
フランクリンは信心深いが自分の有能さを証明しようとする無能な男で、これは人災だった。
災厄は次々に降りかかる。
何人かの船員が吐血、幻覚などの症状を訴え始めた。どうやら缶詰の接合不良による鉛中毒らしい。もし備蓄されている缶詰が食べられなくなったら…想像したくもない事態だ。
ある日、水路を見つけるために派遣した調査隊がイヌイット(エスキモー)の親娘と遭遇し、誤って父親を射殺してしまう。その直後、謎の巨獣が出現し、船員を襲い始めた。しかもこの巨獣には知恵があるようだ…。
やがてフランクリン隊長が獣に襲撃され惨殺される。
船員はストレスにさらされ、疲弊し、健康を害し、一人また一人と死んでいく。クロージャーは期せずして隊長に昇格するが、フランクリン直属の副官だったフィッツジェームズ(トビアズ・メンジーズ)とも対立する。
クロージャーは極度のプレッシャーに耐えられず、酒におぼれていく。
希望が失われようとしていた。
英国人アクター中心の渋いキャスティング!
クロージャー役のジャレッド・ハリスは故リチャード・ハリス(『ジャガーノート』の雄姿を思い出す!)の息子で、“Mad Men”で演じた財務のプロ、レーン・プライス役が絶品だった。スタイリッシュでカッコよかった父親と対照的に、徹底的に地味で渋い骨太のアクターだ。
トビアズ・メンジーズは、“Game of Thrones”や“Outlander”のファンなら見覚えがあるはずだ。本作ではクロージャーと対立するものの、次第に信頼と友情で結ばれていくフィッツジェームズを好演した。
フランクリン隊長役のキーラン・ハインツはアイルランド出身の舞台俳優で、映画やドラマでは「顔は知ってるが名前は知らないタイプ」の名バイプレーヤー、“Game of Thrones”にも出演していた。シリーズ前半のフランクリンは実質主役だ。
人間の良心を体現する船医グッドサーをポール・レディが、グッドサーと心を通わせるイヌイットの娘サイレンスをグリーンランド出身のシンガー、ニーヴ・ニールセンが演じた。
他にも、性悪説の化身ヒッキー役のアダム・ナゲイティス、奔放で気のいいブランキー役のイアン・ハートなど、英国人アクターがクセのある船員たちを演じてドラマに厚みを加えている。渋いキャスティングがいいね。
重い問いかけ
想像を絶する重圧下で極限状態のクルーを守り、ともに戦い、リーダーとして真価を発揮するクロージャーの姿は観る者の胸を打つ。シリーズ後半ではイヌイットとかかわる彼の数奇な人生も描かれ、物語に余韻を残す。
恒常的な壊血病の恐怖に加えて蔓延する謎の病気、飢え…。反乱と裏切り。船外では極寒の地と巨獣が待ち受ける。船員から希望が失われ、次第に恐怖と狂気に支配されていく描写は圧倒的なリアリティをもって迫る。
困難な状況を打ち破ろうと命を懸ける勇敢な男たちと、狡猾な裏切りで生き残りを図る反逆者たち。この人間性のコントラストが鮮やかだ。そして、避けて通れないカニバリズムの問題…。
極限の恐怖で組織と規律が破綻したとき、真摯に行動する人間と、生き残るために手段を問わない人間とは、何が違うのか?
この問いかけは重い。
ケーブル系のAMC(“American Movie Classics”)は、元々クラシック映画の専門チャンネル。2000年代後半から “Mad Men”、“Breaking Bad”、“The Killing”、“The Walking Dead”など、高品質なオリジナルドラマを立て続けにヒットさせた。
驚くほど愚直、残酷なまでにリアル、まれにみる硬派な本作は、商業的にはペイしないだろう。だがあえてそれを世に問うたAMCの志は高い。
“The Terror”は全10話でAmazon Primeが配信中。サバイバルドラマとして“The Walking Dead”と見比べれてみるのも一考だ!
<今月のおまけ> 「ベスト・オブ・クール・ムービー・ソングズ」 ㉗
Title: “Princes of the Universe”
Artist: Queen
Movie: “Highlander” (1986)
これがクイーンによる映画主題歌の決定版!
Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。
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