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これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第49回 “Killing Eve”

これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第49回 “Killing Eve”
    今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系、ケーブル系各社に[…]

    “Viewer Discretion Advised!”
    これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
    Written by Shuichiro Dobashi 

    第49回“Killing Eve”
    “Viewer Discretion Advised”は海外の映画・テレビ番組等の冒頭で見かける注意書き。「バイオレンスやセックス等のコンテンツが含まれているため、視聴の可否はご自身で判断して下さい」という意味。

    今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
     


     

    破天荒でブッ飛んだスーパー・サイコスリラー!
    制御不能、予測不能、理解不能!!!
    “Killing Eve”は、“Orphan Black”(本ブログ第9回 https://www.jvta.net/?p=8020参照)のBBC America (※1) が仕掛けた、破天荒でブッ飛んだコメディタッチのスーパー・サイコスリラーだ!
    (※1)BBC America:英国BBCと“The Walking Dead”の米国AMCとの合弁会社
     

    “「スパイ志望のオバサン捜査官」 vs. 「美貌のサイコ・キラー」”
    イヴ・ポラストリ(サンドラ・オー)はMI5 (※2) のオバサン、失礼、ベテラン捜査官。スパイになることを夢見ているが、保護局でデスクワークをやらされ不満をつのらせている。教師の夫ニコはいつも優しいが、イヴは刺激のない生活に飽き飽きしていた。
    (※2)MI5:英国機密諜報部、米国のFBIに相当し国内案件に携わる。
     

    ヴィラネル(ジョディ・カマー)はロシアから来た超一流のコントラクト・キラー(暗殺者)。子供や老人をいじめる歪んだ性格の持ち主だが、その気になれば最高にセクシーでチャーミングにもなれる。さらにドラッグ好き、セックス狂、殺人狂のナルシストで、怒ると手がつけられないサイコパスだ。

     
    ヴィラネルは、ウィーンでロシア人の政治家を殺害する。そしてパリ、ブルガリア、ベルリンでも嬉々として要人暗殺を遂行していく。
     

    イヴは一連の暗殺事件に個人的興味を持ち、ヒマに任せて関連性を調べていた。彼女の直観は女性の同一犯だと告げている。イヴは上司に注進するが、もちろん相手にされない。
     

    ウィーンの事件を目撃した女性カーシャが英国で確認された。イヴはカーシャの保護のために要員配置を担当するが、電話と書類だけの退屈な仕事だった。好奇心を抑えきれないイヴは独断で現地に出向き、カーシャへの聞き込みを行った。やはり犯人は女だ!
     

    数日後、薬物治療中のカーシャがロンドンの病院で殺される。
    イヴは、甘かった保護体制と無許可の聞き込みの責任を取らされ、MI5をクビになる。
     

    一方、MI6 (※3) ロシア局長のキャロリン・マーテンス(フィオナ・ショウ)は、この2年間、欧州で暗殺を繰り返す謎の暗殺者を追っていた。
    (※3) MI6:英国機密情報部、米国のCIAに相当し国際案件に携わる。
     
    イヴの隠れた才能と事件への知見を知ったキャロリンは、イヴをリクルートしてMI6の非正規チームのリーダーに据える。メンバーはイヴの元上司や元同僚が中心で、任務は謎の暗殺者と背後組織の特定だ。

     

    頭脳明晰で粘り強いイヴは、着実にヴィラネルに迫っていく。
    イヴは、念願のスパイになったのだ!
     

    やがて、ヴィラネルも背後に迫るイヴの存在を認識する。
    お互いの正体を求めて、“cat-and-mouse”の追跡劇が始まった!
     

    「グレアナ」のサンドラ・オー、返り咲く!
    イヴを演じるサンドラ・オーは韓国系の実力派俳優で、10シーズンつとめた“Grey’s Anatomy”の外科医クリスティーナ役のイメージが強烈に残る。同役降板後は適役に恵まれなかったが、この枯れた捜査員役にはぴたりとハマった。オーは本作でみごとに返り咲き、エミー賞の主演女優賞候補となった。
     

    ヴィラネル役のジョディ・カマーは25才、英国のライジング・スターだ。本作ではアクションも達者にこなし、随所で彼女の透明感のある魅力が爆発する。シリアスな場面では妖艶な、コミカルな場面ではキュートなヴィラネルを、楽しみながら巧みに演じ分けている。
     

    イヴの新しい上司キャロリンを演じるフィオナ・ショウはアイルランド出身、ハリー・ポッターの伯母ペチュニア役で日本でも顔なじみだ。
     

    ヴィラネルに手を焼くハンドラー(暗殺者・スパイに指示、情報、装備を与える調整役)、コンスタンティン役のキム・ボドゥニアはデンマークの名優。強面にトボけた味が程よくブレンドされた演技は絶品だ。
     

    突き進む狂気、炸裂するダーク・ユーモア
    本作最大の魅力はイヴ(=イケてないオバサン、閑職の公務員)とヴィラネル(=若い美人、洗練された殺し屋)のミスマッチと、二人の探り合い・騙し合いだ。イヴは頭脳戦ではヴィラネルと互角だが、戦闘能力では歯が立たない。それでも二人は対峙し、お互いの存在に取りつかれ、性的な緊張さえ生まれ、いつしか不思議な絆で結ばれる。
     

    ストーリーは前半がロンドン、後半はモスクワを舞台に破壊と混乱を極め、加速しながら狂気のごとく突き進む。制御不能、予測不能、時として理解不能、破天荒でブッ飛んだ展開には開いた口が塞がらない。
    さらに、全編で炸裂するオフビートなダーク・ユーモアが絶妙で、殺戮シーンの生臭さを消すスパイスとして効いている。
    “Killing Eve”は、何とも不思議な視聴感を覚えながら、ついイッキ観してしまう魅惑のエンターテインメントなのだ!
     

    シーズン1は全8エピソード、WOWOWプライムで来年2月から放送予定だ。米国ではシーズン2が来春公開予定で、いい意味でまた期待を裏切ってくれるだろう。
    でも、スパイ志望なら最初からMI6に入れよ!(ジェームズ・ボンドもMI6だし)
     

    <今月のおまけ> 「ベスト・オブ・クール・ムービー・ソングズ」 ㉘
    Title: “For the First Time”
    Artist: Kenny Loggins
    Movie: “One Fine Day” (1996)


    G・クルーニーとM・ファイファーが共演したラブストーリーの佳作。
    ケニー・ロギンズの映画主題歌と言えば “Danger Zone”か“Footloose”が定番だが、この曲もいいよ。

     

     
    写真Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。
     
     

     
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