これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第53回 “BARRY”
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今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系、ケーブル系各社に[…]
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi
第53回“BARRY”
今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
HBO、スーパーユニークなシチュエーションで仕掛ける!
“BARRY”は斬新で大胆、斜に構えて刺激的、可笑しくもスリリングなダーク・コメディドラマ。「ドラマの高級老舗HBO」がスーパーユニークなシチュエーションで仕掛ける、会心の一作なのだ!
凄腕の殺し屋、演技に目覚める!
バリー(ビル・ヘイダー)はアフガニスタンで戦った元海兵隊員のヒットマン。オハイオ州クリーブランドの小さなアパートで、孤独に暮らしている。
バリーは殺人狂でも冷酷非情でもないが、趣味もなく、人殺し以外に得意なことがない。だから父親の友人だったフュークス(スティーヴン・ルート)から殺しの依頼があると、淡々と引き受ける。
バリーは凄腕だ。だがクリーブランドの殺し屋なんて、しょせん小物でしかない。
ある日、フュークスがロサンゼルスの仕事を取ってきた。チェチェンマフィアのボスが、妻の浮気相手を消して欲しいというのだ。フュークスは興奮していた。バリーと二人でLAを活動拠点に移せば、殺人請負ビジネスでメジャーリーグに昇格できる!
フュークスは嬉々として、バリーは渋々と、LAへ飛ぶ。
チェチェンマフィアの連中は、救いようがないほど間抜けだった。
今回の標的となるライアンは小さな演劇クラスのメンバーで、彼を尾行したバリーはクラスの練習風景を覗いていた。するとメンバーの一人と勘違いされて、欠員の代役を演じるはめに。バリーは無理やりステージに立たされ、セリフを一行読む。
その瞬間、バリーは演技の魅力に取りつかれてしまった!
「舞台の上で、人生を創造するんだ!」
演劇クラスのうさん臭い指導者ジーン(ヘンリー・ウィンクラー)の言葉が、バリーの胸を打つ。
バリーはジーンに才能を認められ、クラスメートの友人もできた。しかも映画俳優志望のサリー(サラ・ゴールドバーグ)とは恋人同士になった。人生で初めて生きがいがあり、幸せを感じていた。
バリーは殺し屋家業から足を洗いたかったが、フュークスが許すはずもない。当面は殺し屋と役者という二足のわらじを履くしかなかった。
そして、ライアンが殺される。
LA市警の捜査が始まった。
チェチェンマフィアとの関係が悪化し、バリーとフュークスは命を狙われる。
“SNL”のビル・ヘイダー、エミーで際立つ!
バリーを演じたビル・ヘイダーは、長寿コメディ番組“SNL”(“Saturday Night Live”)で9年間レギュラーを務めた。オフビートなキャラが得意だが、本役ではコミカルで神経症的、シリアスでうつ病的なバリーを演じ分け、みごとエミー賞コメディ部門の主演男優賞に輝いた。ヘイダーは主演の他に製作、監督、共同脚本にも名を連ねる。
サリー役のサラ・ゴールドバーグは舞台出身の演技派。ダーク・コメディドラマという枠組みの中で、「さほど才能も魅力もない女優のタマゴ」という役どころを真面目に演じるのは簡単ではない。
フュークス役のスティーヴン・ルートは、最近では“The Man in the High Castle”(本ブログ第27回を参照)でタイトルロールを演じている。シリアスドラマもコメディもいける、得難いベテラン俳優だ。
ヘンリー・ウィンクラーは、70年代の超人気コメディ“Happy Days”のクールなリーゼント野郎フォンジーを演じて、国民的人気者となった。この才人は73歳の今も健在で、ジーン役でエミー賞の助演男優賞を勝ち取った。(個人的には1982年の『ラブ IN ニューヨーク』で演じた、娼婦たちに同情して確定申告の節税方法を教える、さえない会計士役が好きだ。)
他にも、頭が抜けているチェチェンマフィアの親玉ゴラン役のグレン・フレシュラー、毛も頭も抜けているゴランの右腕ハンク役のアンソニー・キャリガン、ジーンが一目ぼれするLA市警の腕利き刑事モスを演じたポーラ・ニューサムなど、絶妙のわき役陣が効いている。
てんこ盛りのストーリー、1話30分に凝縮される!
HBO作品はジャンルを問わず、「斬新で大胆」 「斜に構えてインテリぶっている」 「刺激的でゴージャス」といった独特のブランドイメージがあるが、“BARRY”も例外ではない。
バリーに絡むフュークス、マフィアのゴラン&ハンクのコメディ演技と見事なコントラストを描くのが、サラを中心にした役者志望の若者たちの過酷な現実だ。オーディションや練習風景がリアルなのだ。この二重構造のブリッジ役が、怪しげなオーラを放つ演技指導者ジーンで、ゆえに本作はダーク・コメディドラマだ。
またストーリーの性質上、会話に映画への言及が多いのも嬉しい。映画の知識がないバリーはいつも蚊帳の外というオチがつく。
演技の道に専念したいバリー、バリーを殺しの道に専念させたいフュークス、二人を狙うチェチェンマフィア、事件の真相に迫る刑事モス、モスに執拗に求愛するジーン、さらに後半は殺人狂の元海兵隊員やボリビアのギャンググループが乱入する。
「俳優志望の殺し屋」というスーパーユニークなシチュエーションに加えて、このてんこ盛りで予測不能でスリリングなストーリーが毎回約30分のエピソードに凝縮されているのだから、面白くないはずがない!
“BARRY”のシーズン1(全8話)はAmazon Primeで配信中、シーズン2は3月31日に全米で配信開始だ。
早くシーズン2が観たい!
<今月のおまけ> 「My Favorite Movie Songs」㉜
Title: “Suicide Is Painless”
Artist: The Mash
Movie: “M*A*S*H” (1970)
ドラマ版はインストゥルメントだったが、これが映画版のオリジナルソング。
Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。
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