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これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第55回 “Tom Clancy’s Jack Ryan”

これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第55回 “Tom Clancy’s Jack Ryan”
    今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系、ケーブル系各社に[…]

    “Viewer Discretion Advised!”
    これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
    Written by Shuichiro Dobashi 

    第55回“Tom Clancy’s Jack Ryan”
    “Viewer Discretion Advised”は海外の映画・テレビ番組等の冒頭で見かける注意書き。「バイオレンスやセックス等のコンテンツが含まれているため、視聴の可否はご自身で判断して下さい」という意味。

    今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。

     

     

    じっくり観せる知的な“24”!
    故トム・クランシーの「ジャック・ライアン・シリーズ」は、世界的大ベストセラーとなった政治アクション・スリラーだ。初の映画化は傑作『レッド・オクトーバーを追え!』(1990)で、主役のCIA分析官ジャック・ライアンを演じたのは若き日のアレック・ボールドウィン。その後ハリソン・フォード、ベン・アフレック、クリス・パインへと引き継がれた。
     

    Amazonによるドラマ版シーズン1では、非情なテロリストとライアンの壮絶な頭脳戦が活写される。これは、「じっくり観せる知的な“24”」なのだ!

     
    第2のビン・ラディンか?
    ジャック・ライアン(ジョン・クラシンスキー)は元海兵隊員で、退役後にボストン大学で経済学博士号を取得した秀才だ。ウォールストリートでの勤務を経て、現在はCIAのT-FAD(“Terror, Finance, and Arms Division”:「テロ資金・武器対策課」)で、分析官としてデスクワークの日々を送っている。
     
    ライアンの新しい上司ジェームズ・グリーア(ウェンデル・ピアース)は元カラチ支局長。辣腕だがカラチで大失態を演じ、何とか失職を免れてT-FADにポストを得た。たたき上げのグリーアはインテリのライアンとは馬が合わないが、部下を見る目はある。また、妻のためにイスラム教に改宗している。

     
    ライアンは、イエメンにおける不穏な金融取引を察知する。スマホアプリによる多額の送金が、短期間に特定の口座に集中し、しかも資金の流れが隠されていない。この金の動きはIS(イスラム国)のものとは違う。ライアンは、少数グループによるテロ行為が数日中に起こるのではないかと危惧する。

     
    (スレイマンではないのか…?)、ライアンの脳裏に恐ろしい名前が浮かんだ。スレイマンは第2のビン・ラディンとの噂が絶えない、正体不明のテロリストだ。

     
    テロ計画を裏付ける証拠を求めて、グリーアはライアンを同行させてイエメンに赴く。初めてのフィールドワークに、ライアンは戸惑いを隠せない。
    調査が進むにつれて、2人はスレイマンの存在を確信した。

     
    その頃、パリで大規模テロが起きる。スレイマンのテロ計画が始動したのだ。
    そしてアメリカ本土にも、神経ガス、生物兵器、放射性物質と容赦ない大量殺戮の脅威が迫るー

     
    ライアンは、もう報告書を作成するだけの仕事には戻れなかった。
    新たな人生と、とてつもない責任が伴う終わりなき戦いが始まったのだ!

     
    才能全開のクラシンスキー
    ライアン役のジョン・クラシンスキーは、大ヒットコメディ“The Office”のジム・ハルパート役でブレーク。最近では映画『クワイエット・プレイス』で監督、共同脚本、助演をつとめ、その多才ぶりを見せつけた。(奥さんは同作で主演したエミリー・ブラント!)
    本作では、退屈なデスクワーカーから、正義感に満ちた胆力のあるCIAエージェントへと変貌を遂げるジャック・ライアンを颯爽と演じている。(映画版の4人のライアンと違って頭がよく見えるのもいい。)

     
    グリーア役のウェンデル・ピアースは、“SUITS”の大物弁護士ゼイン、“The Wire”の刑事モアランドなど、シャープで強面な男を演らせると天下一品。本作では複雑なキャラクターのグリーアを貫禄で演じている。

     
    ライアンが一目ぼれする感染症の専門医キャシー・ミュラーを演じるのは、オーストラリア出身のアビー・コーニッシュ。キャシーの専門性が本作で重要なキーとなる。

     
    イスラエル出身のアリ・スリマンは、欧米文化をよく知る冷酷なインテリ・テロリスト、スレイマンを好演。またサウジアラビア生まれのダイナ・シハービは、結婚した男がモンスターだと知って葛藤するスレイマンの妻ハニンを熱演している。

     
    原作は「世界規模で描かれる『課長 島耕作』」!
    原作の「ジャック・ライアン・シリーズ」は、1984年の『レッド・オクトーバーを追え』以降これまで26作が出版され、今も継続中だ。クランシーが2013年に死去した後も、「暗殺者グレイマン・シリーズ」(!)のマーク・グリーニーらが書き継いでいるからだ。

     
    ストーリーはテロやエスピオナージュの枠にとどまらず、軍事ハイテクを中心に据えて政治・経済・外交まで踏み込み、やがて大国間戦争にまで発展する。
    CIAの一分析官が、最終的には合衆国大統領まで上り詰める壮大なサクセスストーリーでもあり、さながら「世界規模で描かれる『課長 島耕作』」なのだ!

     
    “Welcome to the Jack Ryan World!”
    ドラマ版のストーリーはオリジナル。スレイマンの生い立ち、テロリストになる背景も克明に描写されていて、単なる勧善懲悪ドラマとは一線を画している。

     
    ライアンは海兵隊時代の苦い失敗により罪悪感に取りつかれ、本来持っていた統率力、決断力、適応力といった資質が埋もれてしまった。だがCIAでの一連のデスクワークのおかげで、分析力、洞察力、直観力を養い、さらにデータと事象から正確な推論を導き出す演繹力を磨き上げていた。
    いち早く彼の才能に気付いてフィールドワークに参画させたグリーアの慧眼、スレイマンによるテロ勃発は、結果的にライアンの罪悪感を使命感に変えた。眠っていた資質が復活し、まれにみる等身大のヒーローが誕生した。

     
    残虐で緻密、周到に準備されたテロ計画は観る者を震撼させ、スレイマンとライアンの息詰まる頭脳戦は圧倒的な臨場感で迫る!

     
    邦題は『トム・クランシー/CIA分析官 ジャック・ライアン』。Amazonがシーズン1(全8話)を配信中で、シーズン2も本年後半に配信開始か。シーズン3の製作も決定済みだ。

     
    原作はイチから読み始めるには長過ぎ、映画は短か過ぎる。“Jack Ryan World”未体験の人は、このドラマ版から入っていくのが大正解だよ!

     
    <今月のおまけ> 「My Favorite Movie Songs」㉞
    Title: “She’s Like the Wind”
    Artist: Patrick Swayze
    Movie: “Dirty Dancing” (1987)

    大ヒットした“(I’ve Had) The Time Of My Life”の陰に隠れた名曲。故パトリック・スウェイジの自作自演。

     
    写真Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。
     
     

     
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