これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第56回 “The Kominsky Method”
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今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系、ケーブル系各社に[…]
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi
第56回“The Kominsky Method”
今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
枯れたユーモアが笑いを起爆、老人パワーが爆笑を誘発!
仕掛けたのは“The Big Bang Theory”のチャック・ロリー。
演じたのは74才のマイケル・ダグラスと85才のアラン・アーキン。
“The Kominsky Method”は、名優2人の枯れたユーモアが笑いを起爆し、老人パワーが爆笑を誘発する、飛び切り上質の必笑コメディだ!
おかしな2人のおかしな友情
サンディ・コミンスキー(マイケル・ダグラス)は、かつてほんの短い間だけ人気アクターだった。今では出演のオファーもなく、ハリウッドで演技指導のスクールを経営している。サンディの教え子リストにはサリー・フィールド、フェイ・ダナウェイ、ダイアン・キートン、ジェシカ・ラングなどそうそうたる顔ぶれが並ぶが、スクールの台所は苦しい。何とかやりくりしているのは、サンディの娘ミンディ(サラ・ベイカー)だ。
サンディの長年の親友で彼の代理人でもあるノーマン・ニューランダー(アラン・アーキン)は、成功した芸能エージェント。ノーマンの最愛の妻アイリーン(スーザン・サリヴァン)は、末期ガンで余命いくばくもない。
昔、サンディはアイリーンに振られた。彼女をノーマンに紹介したところ、2人はすぐに結婚した。サンディの結婚生活が3度破綻する間、ノーマンとアイリーンは幸せな46年間を過ごしてきた。
でも、2人には薬物中毒の娘フィービー(リサ・エデルスタイン)がいる。
アイリーンは、自分が死んだらノーマンの面倒を見るようサンディを説得したあと、数日して息を引き取った。
サンディはすっかり気落ちしたノーマンを懸命に支える。だが、ノーマンの反応は冷ややかだ。
Sandy: “You’re my best friend.”
Norman: “Your agent is your best friend. That’s very sad.”
サンディは、演技クラスの生徒でシングルマザーのリサ(ナンシー・トラヴィス)と付き合い始める。恋愛に発展する期待が高まる中、サンディの前立腺が肥大してきて排尿障害が…。
ノーマンはうつ状態で、毎日アイリーンの亡霊と話している。
サンディは老いて死ぬことを恐れ、ノーマンは孤独を恐れて死にたがっている。
それでも、おかしな2人のおかしな友情は続く。
角が取れたM・ダグラス vs. とんがるA・アーキン
マイケル・ダグラスは、『ロマンシング・ストーン 秘宝の谷』(1984)『危険な情事』(1987)『ウォール街』(1987、アカデミー賞主演男優賞受賞)『ブラック・レイン』(1989)『氷の微笑』(1992)『ワンダー・ボーイズ』(2000)など驚くほどヒット作が多く、最近ではマーベルの『アントマン』シリーズでピム博士を演じている。
若いころはクセのある濃い俳優だったが、現在は老境というか、角が取れてアク抜けしていい感じになった。ダグラスは本作のサンディ役でみごとゴールデングローブ賞の主演男優賞を受賞した。
アラン・アーキンと聞くと、『愛すれど心さびしく』(1968)で演じた、絶望的に孤独な青年が忘れ難い(古すぎるか)。『アメリカ上陸作戦』(1966)『暗くなるまで待って』(1967)『キャッチ22』(1970)『摩天楼を夢見て』(1992)も印象に残る。若い映画ファンには、『リトル・ミス・サンシャイン』(2006)のお爺さん(アカデミー賞助演男優賞受賞)、『アルゴ』(2012)の老映画プロデューサーと言えばわかるか。
今回のノーマン役は、老いて益々とんがるアーキンの本領発揮で、問答無用で笑える。
ノーマンを手なずけるアイリーン役のスーザン・サリヴァンは、“Castle”で演じた主人公キャッスルのエキセントリックな母親役が記憶に新しい。
ミンディ役のサラ・ベイカーは初めてのレギュラー出演。ダメ親父を助けるしっかり者の娘という役回りにぴったりだ。コメディアンでもある。
フィービー役のリサ・エデルスタインは、大ヒットした“House M.D.”で主人公の天才医師ハウスの上司リサ・カディを演じた。今回は一転してヤク中のトラブルメーカー、これには驚かされた。
リサ役のナンシー・トラヴィスは、『スリーメン&ベビー』(1987)で赤ん坊の若い母親を演じてブレークした(これも古いか)。その後ほとんど彼女を観た記憶がないのだが、キュートな美熟女に変身しているではないか。
超ベテラン男優2人を、実力派の女優陣がしっかり支えるという構成だ。
「脚本の妙、演技の妙」
クリエーター兼製作総指揮兼脚本のチャック・ロリーは、‘90年代に“Roseanne”、“Cybill”、“Grace Under Fire”などの大ヒットコメディを量産した(筆者も駐在時代に再放送でよく観た)。2000年代に入ってからも、“Two and a Half Men”、“The Big Bang Theory”、“young Sheldon”と留まることを知らない。
ロリーは天才的脚本家で、本作では「死」を意識している2人の愛すべき老人を温かい目で見つめながら、枯れたユーモアで突き放す。これにマイケル・ダグラスとアラン・アーキンが名人の演技で応える。「脚本の妙、演技の妙」なのだ。
サンディは何とか前向きに生きようとするが、前立腺肥大の問題を抱え、フィジカルな笑いを生む。一方、2人の掛け合いと流れるような会話は時として湿っぽくなり、人情劇の水域に近づく。するとノーマンの毒舌が一閃し、瞬時にウェット感が氷解する。このパターンがおかしさの源流だ。
ベテランを揃えたゲスト陣も楽しく、ハリウッドの舞台裏も垣間見られる。ダニー・デヴィートが泌尿器科の医者役で、アン=マーグレットはノーマンを誘惑する未亡人。パティ・ラベル、ジェイ・レノ、エディ・マネー、エリオット・グールドは本人として登場する。中でも「俺もリーアム・ニーソンになりたい」と、アクション映画の脚本を持ち込んでノーマンに迫る80才のグールドは爆笑ものだ。
“The Kominsky Method”は、今年のゴールデングローブ賞の最優秀作品賞に輝いた。名優2人の枯れたユーモアが笑いを起爆し、老人パワーが爆笑を誘発する、飛び切り上質の必笑コメディなのだ!
本作は『コミンスキー・メソッド』の邦題で、Netflixがシーズン1を配信中。各エピソード約20-30分で全8話、laugh-track(録音された笑いの挿入)はない形式だ。シーズン2では、キャスリーン・ターナーとジェーン・シーモアが出演するらしい。
これは、単なる爺さん2人のバディドラマではない。観るべし!
<今月のおまけ> 「My Favorite Movie Songs」㉟
Title: “Don’t Let the Old Man In”
Artist: Toby Keith
Movie: “The Mule” (2018)
89才のクリント・イーストウッドも負けてはいない。
Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。
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