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これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第57回 “When They See Us”

これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第57回 “When They See Us”
    今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系、ケーブル系各社に[…]

    “Viewer Discretion Advised!”
    これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
    Written by Shuichiro Dobashi 

    第57回“When They See Us”
    “Viewer Discretion Advised”は海外の映画・テレビ番組等の冒頭で見かける注意書き。「バイオレンスやセックス等のコンテンツが含まれているため、視聴の可否はご自身で判断して下さい」という意味。

    今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。

     

     

    「久しぶりにドラマに叩きのめされました」
    ~思い出しても胸がえぐられるようです。ドラマのパワーを再認識しました。

     
    30年前にニューヨーク州で起きた冤罪事件。検察の暴走とNYPD(ニューヨーク市警)のでっち上げにより、ハーレムの少年5人が何年間も投獄されたのだ。出所したとき、彼らは大人になっていた。
    観るのではなく体験する。“When They See Us”は、想像を絶する悲劇を圧倒的な迫力と臨場感で再現する、実話ドラマの金字塔だ!

     
    “The Central Park Jogger Case”
    1989年4月19日の深夜。セントラルパーク北部にある森林で、瀕死の重傷を負った全裸の若い白人女性が見つかった。彼女はジョギング中に何者かに鈍器で殴打され頭蓋骨が陥没し、さらにレイプされていた。

     
    事件を担当する主任検察官リンダ・フェアステインは怒りに声を震わせた。レイプ事件が頻発していて、しかも本件は凶悪だ。被害者は今も病院で昏睡状態なのだ。上層部からの圧力も強く、フェアステインはNYPDのマンパワーを総動員する。犯人を捕らえるためなら手段を選ばない覚悟だった。

     
    この事件は“The Central Park Jogger Case”と命名された。

     
    “That’s not fair!”
    犯行現場はハーレムの入り口近くで、事件当夜は黒人・ヒスパニックの少年や学生約30人がセントラルパークに繰り出し、暴力事件も何件か起きていた。通報を受けた警官が逃げ遅れた者たちを片っ端から連行した。

     
    NYPDは検察のメンツを立てるために忖度した。ハーレム出身の14才から16才の少年5人に目をつけて、親や弁護士の同席なしで何時間も違法な取り調べを行ったのだ。海千山千の刑事たちによる脅しと甘言の前に、少年たちはなす術もなかった。
    5人全員の自白が録画され、署名された自白書が揃った。

     
    ひとりが叫んだ。
    “That’s not fair!”

     
    “The Central Park Five”
    検察はコーリー・ワイズ、ケヴィン・リチャードソン、アントロン・マックレイ、ユセフ・サラーム、レイモンド・サンタナの5人を、暴行、レイプ、殺人未遂等の容疑で起訴した。

     
    目撃者はゼロ、凶器など物的証拠は皆無で、DNAはだれのものとも一致しない。犯行現場と犯行時間の関係も説明がつかない。だがフェアステインは引くに引けない立場に自らを追い込んでしまった。
    この時点で「政治的生き残り」が「正義」に取って代わり、人種差別が正当化されたのだ。

     
    被告側には金銭的な余裕がなく、弁護団は公選弁護人、離婚弁護士、アクティビスト、売名目的の二流弁護士などの寄せ集めだった。

     
    メディアは世論を煽り、全米が裁判に注目した。
    当時若き実業家だったドナルド・トランプは、テレビのインタビューで、「ニューヨーク州に死刑制度の復活を!」とコメントした。

     
    5人は民衆の敵に仕立て上げられ、“The Central Park Five”と呼ばれた。

     
    際立つJ・ジェローム!
    “The Central Park Five”は子役4人を含めた9人のアクターにより演じられる。このアンサンブル・キャストが美しくコーディネートされていて、中でも主犯とされたコーリー・ワイズを1人で演じ通したジャレル・ジェローム(“Mr. Mercedes”)の熱演が際立つ。

     
    “The Wire”でブレークしたマイケル・ケネス・ウィリアムズが演じた、起訴されたアントロンのダメ親父ボビーの哀れな姿も忘れ難い。

     
    保身のために暴走する主任検察官フェアステインを憎々しく演じたフェリシティ・ハフマンは、大ヒットした「デス妻」こと“Desperate Housewives”のリネット役で顔なじみだ。
    (ハフマンは今年全米を騒がせた「セレブ親による子供の有名大学不正入学スキャンダル」の当事者の一人で、贈賄を認めて実刑判決を受けた。私生活でも悪役になってしまったのだ。)

     
    “The Exonerated Five”
    クリエーター/製作総指揮/監督/共同脚本のエヴァ・デュヴァネイは、いたずらに警察機構の歪みや人種差別を強調することなく、運命に翻弄される5人とその家族の苦悩に焦点を当てた。この手法は効果的で、実話の持つ説得力を最大限に引き出した。

     
    本作は結末が分かっているにもかかわらず、オープニングから迫真の展開で目が釘づけになる。冤罪で人生を失う恐怖、家族の崩壊、5人の間に生まれる友情が超リアルで、エンディングには胸を打たれる。ドラマを観るのではなく、体験するのだ。
    真摯で勇気あるこの作品は、本年度のエミー賞など各賞を席巻するだろう。

     
    “When They See Us”は、米国司法制度の歴史的汚点を広く世に知らしめ、ヒューマニティを問うと同時に、この国の健全な正義感、良心、希望を描き切ったここ数年で最良のドラマの1本。
    想像を絶する悲劇を圧倒的な迫力と臨場感で再現する、実話ドラマの金字塔なのだ!

     
    邦題は『ボクらを見る目』(シンプルで原題の意を酌んだみごとな邦題)。Netflixのオリジナルで、全4話(第1話~第3話:約1時間、第4話:約1.5時間)のリミテッドシリーズだ。

     
    最後に、製作総指揮の1人オプラ・ウィンフリーによるトークショー、“When They See Us Now”は必見で、これもNetflixで視聴できる。主要キャスト、プロデューサーに加えて、無罪を証明された5人全員が登場するのだ。
    ここで彼らは“The Exonerated Five”(潔白の5人)と呼ばれる。

     
    久しぶりにドラマに叩きのめされました。

     
    <今月のおまけ> 「My Favorite Movie Songs」㊱
    Title: “Faith of the Heart”
    Artist: Rod Stewart
    Movie: “Patch Adams” (1998)

    この映画も実話ベースだった。
    曲は“Star Trek: Enterprise”でもテーマソングとして使われていたね。

     
    写真Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。
     
     

     
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