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これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第59回 “Wu Assassins”(『五行の刺客』)

これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第59回 “Wu Assassins”(『五行の刺客』)
    今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系、ケーブル系各社に[…]

    “Viewer Discretion Advised!”
    これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
    Written by Shuichiro Dobashi 

    第59回“Wu Assassins”(『五行の刺客』)
    “Viewer Discretion Advised”は海外の映画・テレビ番組等の冒頭で見かける注意書き。「バイオレンスやセックス等のコンテンツが含まれているため、視聴の可否はご自身で判断して下さい」という意味。

    今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。

     

     

    疾風怒濤のカンフーアクション・ファンタジー登場!
    本作の邦題は『五行の刺客』、…何だかカッコいい。
    “Wu Assassins”はアメリカン・ドラマながら、日本の時代小説風の邦題で、香港映画の香りを漂わせ、インドネシアの武術が炸裂する、疾風怒濤のカンフーアクション・ファンタジーだ!

     

    “You’re My Only Hope”
    ―サンフランシスコ、チャイナタウン
    寂れたアパートの廊下で、一人の若者(イコ・ウワイス)がアジア系のギャンググループを相手に素手で戦っている。若者は尋常ではない強さで、銃弾をかわし、投げられたナイフをもつかみ取る。まさに神業だ。

     
    その若者の名はカイ・ジン。定職のない料理人だが、彼こそが人類を滅亡から救う最後の希望なのだ。

     
    カイの育ての親はアンクル・シックス(バイロン・マン)。チャイナタウンを牛耳る三合会(”Triad”:中国系マフィア)のトップだが、実はアンクル・シックスの正体は、「五行の将」の一人、”Fire Wu”だ。

     
    「五行」は元来、万物の基礎となる地、水、金、木、火を表す。
    五行の将とは、古代中国に君臨し、それぞれの行を自在に操り地上と天界のバランスを崩した5人の将軍、”Earth Wu”、”Water Wu”、”Metal Wu”、”Wood Wu”、”Fire Wu”を意味する。彼らは現世でも姿を変えて存在し、世界を破滅させるスーパーパワーを持つ。
    五行の将を倒すべく、過去に千人の僧侶が刺客(”Wu Assassin”)として放たれたが、いずれも返り討ちにあった。

     
    カイは純粋な精神と高いポテンシャルを有する者として、最後の刺客に選ばれる。千人の僧侶のパワーが宿る”Monk Piece”(黄門様の印籠のようなもの)を与えられ、時空を超えたトレーニングを受け、千の顔とパワーを手にする!
    攻撃的な性格ではないし、好きで”Wu Assassin”になったわけでもない。だが、カイにとってこの戦いはもはや不可避な状況だった。戦いを拒めば、仲間や罪のない大勢の人々が殺されるのだ。

     
    そして今、五行の将はサンフランシスコに集結しようとしていた。

     
    カイは親友で自動車泥棒のルーシン、幼馴染で実業家のジェニー、ジェニーの兄で三合会の下っ端トミー、さらにサンフランシスコ市警のおとり捜査官クリスティーン(CG)の協力を得る。

     
    わが身を賭して五行の将と戦う時が来たのだ!

     
    シラットの達人イコ・ウワイス!
    素朴で高潔な好漢カイ・ジン役のイコ・ウワイスは『ザ・レイド』(2011:インドネシア映画)で大ブレーク、インドネシアの伝統武術シラットを駆使した壮絶なアクションでファンの度肝を抜いた。『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』にもチョイ役で出演、最近では『マイル22』でマーク・ウォールバーグと共演した。
    ウワイスの格闘シーンの迫力は当然としても、地に足がついた演技も侮れない。

     
    アンクル・シックスを演じた香港出身のバイロン・マンは、昨年公開された『スカイスクレイパー』の警部補役でいい味を出していた。カンフーも達者で、本作ではアンクル・シックスの3つの顔、―スタイリッシュで冷酷非情な三合会のボス、義理の息子との絆を持ちたい孤独な父親、スーパーパワーを操る”Fire Wu”を演じ分けた。

     
    外せないのが、三合会と対立する欧州マフィアのボス、アレック・マクロウを演じたトミー・フラナガン。”Sons of Anarchy”の主要メンバー、チブス役が絶品だった。マクロウはエピソードの後半では最重要な役柄で、フラナガンの存在感は圧倒的だ。

     
    「カイの4人の仲間」を演じた、ルーシン役のルイス・タン、ジェニー役のリー・ジュン・リー、トミー役のローレンス・カオ、クリスティーン役のキャサリン・ウィニックの間には、見事にケミストリーが働いた。

     
    面白ければそれでよし!
    カンフー映画は数多くあるが、「アメリカン・カンフーアクション・ドラマ」となるとデヴィッド・キャラダインが主演した“Kung Fu”(『燃えよ!カンフー』 1972-1975)、およびその続編”Kung Fu: The Legend Continues” (『新・燃えよ!カンフー』 1993-1997)くらいしか思いつかない(現在2度目の続編が計画中だ)。
    他には、ブレーク前のブルース・リーが脇役の日本人役でカンフーを披露した”The Green Hornet”(『グリーン・ホーネット』 1966-1967)、空手の達人チャック・ノリス主演の”Walker, Texas Ranger”(『炎のテキサス・レンジャー』 1993-2001)があるが、いずれもカンフーアクション・ドラマと呼ぶには無理がある。かなりレアなカテゴリーなのだ。

     
    “Wu Assassins”は雑多で閉塞感のあるチャイナタウンを舞台に、‘70-80年代に隆盛を誇った香港のカンフー活劇と昨今のギャング映画のテイストを混ぜ込んだような作風だ。またサンフランシスコの美しい夜景がなぜかB級映画的雰囲気にうまく溶け込み、一種独特の魅力を醸し出す。

     
    ストーリーは説明不足でいわゆるツッコミどころ満載状態なのだが、スピード重視で視聴者を楽しませようとする制作者の意図は成功している。

     
    攻守に肘を多用するイコ・ウワイスのシラット・アクションは、派手さはないがスピーディでリアル、実に小気味いい。(主要登場人物に加えて欧州マフィアまでカンフーの使い手なのが、不自然でとても笑える。)
    またカイと五行の将との戦いでは、CGによるダイナミックなファンタジー・アクションが展開する。

     
    御託を並べてしまったが、この手の作品は面白ければそれでよし。決してツッコんではいけない。
    “Wu Assassins”は、イッキ観させるパワーとアンサンブルドラマとしての魅力を兼ね揃えたよくできたエンターテインメント。懐かしい香港映画タッチで善と悪との死闘を描く、疾風怒濤のカンフーアクション・ファンタジーなのだ!

     
    本作はNetflixのオリジナルでシーズン1は全10話。Netflixよ、早くシーズン2の制作を決めるがいい。

     
    <今月のおまけ> 「My Favorite Movie Songs」㊳
    Title: “Sky High”
    Artist: Jigsaw
    Movie: “The Man from Hong Kong” (1975)

    映画の邦題も『スカイ・ハイ』。この曲は大ヒットし、ミル・マスカラスの入場曲にもなったね。

     
    写真Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。
     
     

     
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