これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第61回 “MAYANS M.C.”
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今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系、ケーブル系各社に[…]
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi
第61回“MAYANS M.C.”
今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
“Sons of Anarchy”のスピンオフは本家を凌ぐか?
“Sons of Anarchy”(”SoA”、本ブログ第5回参照)は、カリフォルニアの白人無法者集団の栄枯盛衰を圧倒的な迫力で描き切った傑作シリーズで、2014年に第7シーズンをもって完結した。
この作品は、本ブログの「発表!Best of the Best Drama 2000-2015」※(第22回~第24回参照)で第2位に輝いている。(筆者が厳正な審査の上、好き勝手に選んだだけだが…。)
“MAYANS M.C.”は、SoAに登場したヒスパニック・グループ“Mayans”の壮絶なサバイバルゲームを活写するスピンオフ。これがまた滅法面白いんだ!
“Can’t change yesterday, can’t plan tomorrow”
―カリフォルニア州、メキシコ国境に近い町サン・パドレ
“Mayans Motorcycle Club Southern California Chapter”(“Mayans”)は、ヒスパニック・バイカーから成る小規模のアウトロー集団。彼らは固い絆で結ばれ、厳格な規律と独自の行動規範を持つ。表看板は廃品回収業だが、主要な収入源は武器の違法売買と、メキシコのガリンド・カルテルが扱うヘロインの荷造りと輸送だ。
エゼキエル(イージー)・レイエス(J・D・パルド)は、名門スタンフォード大に通う有望な若者だった。エミリー(サラ・ボルジャー)という将来を誓い合った恋人もいた。だが彼の人生は、ある事件で警官を誤射してしまった瞬間に崩壊する。イージーは殺人罪で20年の実刑判決を受けたのだ。
イージーは8年後に出所し、現在はMayansのメンバーである兄エンジェル(クレイトン・カーデナス)のもと、プロスペクト(見習い)をしている。正規メンバーになる日も近い。
実は、ガリンド・カルテルの壊滅を目指すDEA(“Drug Enforcement Administration”:米国麻薬取締局)がイージーの持つ映像記憶力に目をつけ、司法取引を持ち掛けたのだ。早期釈放とMayansには手を出さないという条件で、イージーは兄のコネを使ってMayansに加わり、ガリンド・カルテルの情報をDEAへ流す。
これがMayansのメンバーにバレたら、イージーとエンジェルの死体がメキシコのどこかに埋められることになる。
さらに困ったことに、イージーがいまだに想いを寄せるエミリーは、よりによってガリンド・カルテルのボス、ミゲル・ガリンド(ダニー・ピノ)と結婚しているのだ!
“A beaten dog never forgets”
女性闘士アデリータ(カーラ・バラッタ)が率いる、女性と孤児を中心とする革命組織「忘れられた人々」(“Los Olvidados”)は、腐敗したメキシコ政府の打倒を標榜する。町中に配した孤児からあらゆる情報を集め、高度なIT技術を駆使して、変幻自在なゲリラ戦を展開している。
アデリータは最終目的の達成に向けて、巧みにMayansとガリンド・カルテルを巻き込んでいく。
そして、ミゲル・ガリンドとエミリーの幼い息子が誘拐された!
「サッター節」、健在!
本作はSoAの最終エピソードから2年半後に設定されている。
両作品の企画/製作総指揮/共同脚本を務めたカート・サッターは、SoAの世界観はそのままに、“MAYANS M.C.”を単なるヒスパニック・バージョンにとどまらないオリジナル作品に仕上げた。もちろん「利害関係者が複雑に絡むストーリー」、「優れた人間ドラマ」、「ド迫力のバイオレンス」、「緻密な脚本」、「クールなワイズクラック」から成る「サッター節」も健在だ。
(【悲報】 カート・サッターはシーズン2まで手掛けたが、撮影現場で問題を起こして最近解雇された。)
アクターはイージー役のJ・D・パルドを始めほとんど日本ではなじみのない顔ぶれ。だが濃密で魅力的に演じられる多彩なキャラクターが、ドラマに迫真の臨場感を与えている。そんな中でひときわ存在感を示すのが、イージーとエンジェルの父親フェリペを演じるエドワード・ジェームズ・オルモス。『落ちこぼれの天使たち』、“Miami Vice”、“Battlestar Galactica”の名優オルモスが登場するだけで、ドラマの質感が増すのだ。
イージーの崩壊した人生の一片一片を、だれかが踏みつけてくる。降りかかる数々のトラブルを前にしても「諦める」という選択肢は許されず、何とかその日を生き抜く。最後に残るのは「残酷な希望」で、そこに「男のロマン」などという甘い概念が入り込む余地はない。
ストーリーはイージーの葛藤と成長を核に、Mayans、ガリンド・カルテル、ロス・オルヴィダドス(忘れられた人々)、DEAによる四つ巴の駆け引きが展開する。これにサモア人ギャング、メキシコの腐敗警官、元特殊部隊員による傭兵部隊、白人至上主義者グループ、さらに米国連邦地検までもが参戦する。もはや予測不能、ツイストが効いたエピソードの連発で、気がつくとイッキ観状態だ。
疾走するハーレーダビッドソン、吹き荒れる暴力、飛び交う銃弾、積み上がる死体を背景に、メキシコ系アメリカ人の若者イージーの目を通して、両国の文化・景観の違い、経済格差が鮮やかに描き出される。
“MAYANS M.C.”は、メキシコ国境を舞台に、無法者たちが知力と暴力の限りを尽くしてサバイバルを図るクライム・ドラマの決定打なのだ!
全10話のシーズン1は見ごたえ十分。本国では“American Horror Story”、“Fargo”、“Atlanta”などの人気作を手掛けたディズニー傘下のFXにより、シーズン2まで放映されている。
邦題は『マヤンズM.C.~サンズ・オブ・アナーキー外伝~』、今月からFOXチャンネルでシーズン1の放映が始まった。(「外伝」という表現は不正確だ。気持ちはわかるけど。)
元祖SoAを観ていなくても問題なく楽しめるが、SoAから観るならAmazon Primeで視聴可能だよ!
※第22回 「発表!Best of the Best Drama 2000-2015」 Part Iこちら
※第23回 「発表!Best of the Best Drama 2000-2015」 Part IIこちら
※第24回 「発表!Best of the Best Drama 2000-2015」 Part IIIはこちら
<今月のおまけ> 「My Favorite Movie Songs」㊵
Title: “Someone to Watch Over Me”
Artist: Sting
Movie: “Someone to Watch Over Me” (1987)
古い曲だがスティング・バージョンはいいね。
映画の邦題は『誰かに見られてる』、トム・ベランジャー絶頂期の一作。
Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。
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