これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第62回 “GOOD GIRLS”
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今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系、ケーブル系各社に[…]
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi
第62回“GOOD GIRLS”
今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
崖っぷちの女たち!
本作の邦題は『グッドガールズ:崖っぷちの女たち』、看板に偽りはない。彼女たちはまさに崖っぷちに立っている。
“GOOD GIRLS”は、”Breaking Bad”、”Weeds”の流れをくむクライム・コメディの傑作。スリルと笑いに溢れたローラーコースター・ライドで、時間を忘れさせてくれる!
3ママ、踏みとどまるか、転落するか?
―ミシガン州デトロイトの郊外。3人のママが困り果てている。
エリザベス(ベス)・ボランド(クリスティナ・ヘンドリックス)は、4人の子供を育てる専業主婦。夫のディーン(マシュー・リラード)の浮気を知ったばかりで、しかもディーンが経営する自動車ディーラーは倒産寸前だ。ベスは怒り狂っていて、切実にお金が必要だった。
ベスの妹アニー・マークス(メイ・ホイットマン)は、スーパーで働きながらトランスジェンダーの息子と暮らすシングルマザー。アパートの家賃すら払えない状況で、このままでは親権を要求する元夫のグレッグ(ザック・ギルフォード)に息子を取られてしまう。アニーは寂しくて、切実にお金が必要だった。
ベスの幼なじみルビー・ヒル(レタ)は、重病の娘を抱えてウェイトレスをする共稼ぎ主婦。娘のサラは腎臓移植が必要だが、警備員の夫スタン(レノ・ウィルソン)の安月給を併せても手術代を工面できない。ルビーは不安で、切実にお金が必要だった。
行き詰った3人は、アニーが働くスーパーの強盗を企てる。
「犯罪は見合わない」―というのは嘘で、やってみると簡単だった。ベスは生まれながらのリーダーで、3人はまんまと金庫の中の50万ドルをせしめた。
(ん、50万ドル? 何で郊外のスーパーにそんな大金があるの?)
だが、3ママの前にギャング団のボス、リオ(マニー・モンタナ)が現れる。
50万ドルはリオのもので、スーパーはマネー・ロンダリング(資金洗浄)に利用されていた。リオは制裁を免除する代わりに、3人に運び屋をやるよう命じる。
(運び屋って何を運ぶの?)
(麻薬?体内に隠して飛行機に乗せられるの?)
ベス、アニー、ルビーは崖っぷちに立っていた!
魅惑のクリスティナ・ヘンドリックス(=ミス・”Mad Men”)!
ベス役のクリスティナ・へンドリックスは、“Mad Men”で演じた広告代理店を仕切る美貌のお局さまジョーン役が絶賛され、6年連続でエミー賞の助演女優賞候補となった。本作でも、コメディも難なくこなす才色兼備ぶりを遺憾なく発揮して魅了する。
頭の回転は速いが浅はかなアニー役のメイ・ホイットマンは歌手、声優でもあるマルチタレント。コメディの”Arrested Development”と”Parenthood”が代表作だ。
常識はあるがベスに「ノー」と言えないルビー役のレタ(マドンナやプリンスのようにone word)は、”Parks and Recreation”でブレークしたスタンダップ・コメディアン。
強面で冷酷で神出鬼没だが、ときにはベスの味方にもなるどこか憎めないリオを、マニー・モンタナが絶妙の距離感で演じた。
根は善人だが判断力に著しく問題があるディーン役のマシュー・リラード、優柔不断を絵に描いたようなグレッグ役のザック・ギルフォード、タフになれないお人好しスタン役のレノ・ウィルソン(『トランスフォーマー』シリーズの声優)、―頼りない夫/元夫を演じる3人の情けない演技が笑える。
アニーのキュートな息子セイディを演じたアイザイア・スタナードは15才、役柄と同様に実生活でもトランスジェンダーだ。セイディとアニーの仲良しぶりはドラマに温かみとアクセントを与えている。
アニーのクズ上司ブーマー役のデヴィッド・ホーンズビー、ベスを執拗に追い続けるFBI捜査官ターナー役のジェームズ・レジャー、さらに金の臭いを嗅ぎつけてモンスター化する第四のママ、メアリー=パットを怪演するアリソン・トルマン(”Fargo”シーズン1の準主役)と、強烈なキャラのわき役陣が笑いを増幅する。
破滅に向かって突き進め!
クリエーター/製作総指揮/共同脚本のジェナ・バンズは、超売れっ子プロデューサーのションダ・ライムズとともにディズニー系民放大手ABCの”Grey’s Anatomy”、”Scandal”(本ブログ第7回参照)をメガヒットさせた才人。ここ数年で女性主演ドラマを一気に躍進させた立役者の一人だ。
本作の成功は主演のクリスティナ・へンドリックスの魅力に負う部分が大きい。ベスは美人だが冷たく、大胆だが繊細、優しいが不寛容、頭脳明晰だが経験不足、寂しいが独立心も強い複雑怪奇なキャラだ。リオとの危うい関係にも(不純な)興味が尽きない。妻&母親から実業家、そして犯罪組織を立ち上げるベスを、へンドリックスはみごとに演じ分けた。
ストーリーはシーズン1の中盤から、鮮やかなチームワークで犯罪を重ねる3ママに、リオ、ブーマー、FBI、メアリー=パットが絡み合い、二転三転七転八倒しながら加速度的に面白くなる。制御不能となった各エピソードの疾走感が心地よく、「やめられない、とまらない」状態は最後まで続く。
”Breaking Bad”、”Weeds”の大成功は、「善きサマリア人の主人公が、止むに止まれぬ事情で犯罪に手を染めた結果、犯罪者としての才能が開花すると同時に、事態の収拾がつかなくなる」というストーリーラインを定着させた。
”GOOD GIRLS”はその正当な後継者で、スリルと笑いに溢れたローラーコースター・ライドで時間を忘れさせてくれるのだ!
本作はNetflixでシーズン2まで計23エピソード(1話約40分)を視聴できる。本国ではNBCが来年2月にシーズン3を放映予定だ。
3ママが崖っぷちから飛び降りて、破滅に向かって突き進むことを期待したい。
<今月のおまけ> 「My Favorite Movie Songs」㊶
Title: “Tonight Is What It Means to Be Young”
Artist: Fire Inc.
Movie: “Streets of Fire” (1984)
剛腕監督ウォルター・ヒルによる、‘80年代を代表するパワフルな青春映画。
マイケル・パレは61才の今もカッコいい!
Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。
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