これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第65回 “STAR WARS: THE MANDALORIAN”
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今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系、ケーブル系各社に[…]
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi
第65回“STAR WARS: THE MANDALORIAN”
今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
遂に登場、“Star Wars universe”初のライブアクション・ドラマ!!!
(観終わった直後の筆者の感想)
「いやー驚いた。ボバ・フェットは確かにクールなんだよね。だけど顔も見えないボバの同類を主人公にして、ここまで面白いドラマができるとは…。正直言ってなめてました。ディズニー恐るべし!」
“THE MANDALORIAN”はDisneyの底力を見せつける、“Star Wars universe”初のライブアクション・ドラマ。ファン垂涎、ファンでない人も必見、5時間一気観のスーパー・エンターテインメント・イベントなのだ!
“This is the way”(「我らの道」)”
―ルーク・スカイウォーカー、レイア・オーガナ、ハン・ソロ、チューバッカたちの活躍で銀河帝国が陥落してから5年。だれもが混とんとした世界で生き延びることに必死なとき。25年後のファースト・オーダーによる帝国軍の再興など知る由もないー
―惑星ネヴァロ
伝説の武闘派集団マンダロリアンは帝国軍に滅ぼされ、生き残った者たちは離散してアンダーグラウンドで細々と活動している。だがマンドー(ペドロ・パスカル)は例外だ。孤児となり、マンダロリアンに救われ、鍛え上げられたマンドーは、ベスカー鋼製のヘルメットと甲冑に身を固め、人前では決して顔を見せない。彼はギルドに所属する最強のバウンティハンター(賞金稼ぎ)なのだ。
※Star Wars Celebration in ChicagoにてJVTAスタッフ塩崎邦宏が撮影
マンドーはギルドの元締めグリーフ・カルガ(カール・ウェザース)から特別困難な仕事を受ける。“The Child”と呼ばれる50歳のターゲットを捕獲する任務だ。依頼人は帝国軍の残党で賞金は莫大、だが過去にこの仕事で生きて戻ったバウンティハンターはいない。
マンドーは現地の惑星に赴く。アグノート人の農夫クイールとドロイドのバウンティハンターIG-11の協力を得て、激しい銃撃戦の末、無法者集団を殲滅する。
驚くべきことに、確保した“The Child”は、あのヨーダと同じ種族の50歳の赤ん坊だった!
マンドーは依頼人とギルドを裏切り、“The Child”の守護者となる決意をする。マンダロリアンの行動規範を重んじ、「我らの道」を往くのだ。
“This is the way.”
鮮烈!“Breaking Bad”のジャンカルロ・エスポジート
タイトルロールを演じたペドロ・パスカルは“Game of Thrones”に出演後、“Narcos”(!)で準主役の麻薬取締局捜査官ハビエル・ペーニャを好演した。マンドー役にはうってつけの強面アクターだが、ほとんど顔が見えないのが残念だ。
※Star Wars Celebration in ChicagoにてJVTAスタッフ塩崎邦宏が撮影
わき役陣は強靭だ。
ギルドの元締めグリーフ・カルガ役のカール・ウェザースは、もちろん『ロッキー』シリーズのアポロ・クリード。ウェザースの存在は作品の格を一段階上げている。
※Star Wars Celebration in ChicagoにてJVTAスタッフ塩崎邦宏が撮影
マンドーと行動を共にする元反乱軍の戦士キャラ・デューン役がジーナ・カラーノ。美貌に騙されてはいけない、彼女はアクターに転ずる前はムエタイとMMA(総合格闘技)のトップランカーだった本物の格闘家だ。
※『ブレイキング・バッド』シーズン4より (C) Gregory Peters/AMC
そして圧巻なのが、シーズン後半に登場する元帝国軍将校モフ・ギデオンを鮮烈に演じたジャンカルロ・エスポジート。エスポジートは出世作となった“Breaking Bad”で、裏の顔を持つドラッグ王ガス・フリングを演じてファンを凍り付かせた。
さらにニック・ノルティが声の出演をした勇敢な農夫クイールと、超早撃ちドロイドIG-11のキャラは、どちらも忘れ難い。
『子連れ狼』がストーリー・エンジン、ベイビー・ヨーダがスイートスポット!
動画ストリーミング業界で遥か先を独走するのがNetflix、後に続くのがAmazon Primeだ。後塵を拝していたAppleとDisneyは、昨年競うようにApple TV+とDisney+を始動した。「成長企業」でフリーキャッシュが潤沢に使えるNetflixと違って、「安定企業」のDisneyは株主への配当や映画・テーマパークなど既存事業への投資に資金を回さねばならない。つまりDisney+のコンテンツに失敗は許されない。
総額100億円以上を投じた本作のメガヒットで、Disney+はロケットスタートを切った。
※Star Wars Celebration in ChicagoにてJVTAスタッフ塩崎邦宏が撮影
※左端がショーランナーのジョン・ファヴロー
ショーランナーは『アイアンマン』シリーズを手掛けたジョン・ファヴロー。昨年公開された『ライオン・キング』の監督でもある。(ファヴローはその昔、“Friends”でモニカの恋人だったさえない大富豪を演じていたっけ。)
オープニングでは、20世紀フォックスのファンファーレもジョン・ウィリアムズによるテーマ曲も聞こえない。“A long time ago in a galaxy far far away….”で始まるスクロール画面も流れない。だが、映像やSFXのクオリティ、語り口や場面転換から“Star Wars universe”のDNAを瞬時に感じる。
新たなミソロジーの中で、ストーム・トルーパー、ジャワ、ランドスピーダー、AT-STウォーカー、Xウィング、タイ・ファイターなど、お馴染みのキャラやガジェットがさりげなく使われる。こうして“Star Wars”であって“Star Wars”ではない絶妙の距離感が演出された。
構成は完全に宇宙西部劇だ(テーマソングもマイルドなマカロニ・ウェスタンっぽい)。タフでシニカル、無口だが意外と優しい声で話すマンドーのキャラは、‘60-’70年代のクリント・イーストウッドに近いか。賞金稼ぎ、酒場の喧嘩、荒野の決闘、早撃ち、駆けつける騎兵隊、農民を群盗から守る『荒野の七人』的シチュエーションも西部劇の定番。
ストーリー・エンジンは『子連れ狼』ばりの逃避行、疑似親子の絆、そして巨悪への挑戦だ。新鮮で健全で安心感があり、そのくせスリリングに展開する。しかもスイートスポット(ドラマの売り)がとびきりキュートなベイビー・ヨーダなのだから、その魅力には抵抗しがたい。
「ベイビー・ヨーダを抱くボバ・フェット」というジョン・ファヴローの基本アイディアは、単に意表を突くだけでなく、画面の小さい動画ストリーミングにもフィットするという点で天才的なのだ。
“THE MANDALORIAN”は、Disney製“Star Wars”の中では最高の作品。5時間一気観、ファンの熱い期待をも凌駕するスーパー・エンターテインメント・イベントだ!
邦題は『マンダロリアン』で、アメリカではシーズン2が本年10月に配信予定。日本ではDisney DELUXEがシーズン1(全8話:1エピソード31分~47分)を配信中だ。(早くDisney+に切り替えて欲しい。)
Disneyは他に2つの“Star Wars universe”ドラマを計画中、また本作からのスピンオフも検討中とのこと。
もはや人生100年でも足りない!
<今月のおまけ> 「My Favorite Movie Songs」㊸
Title: “This Side of Forever”
Artist: Roberta Flack
Movie: “Sudden Impact” (1983)
『ダーティハリー4』のテーマソング。
クリント・イーストウッドには、死ぬ前にハリー・キャラハン引退後の物語を撮って欲しい。
Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。
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