これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第66回 “Rick and Morty”
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今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系、ケーブル系各社に[…]
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi
第66回“Rick and Morty”
今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』から生まれた爆笑Sci-fiアニメ!
“Rick and Morty”の5ステップ・レシピ:
① 『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の基本設定を生かしてスラップスティック化する。
② ①を22分のエピソードにギュッと凝縮したのちアニメ化する。
③ あらゆるアイディア、映画・ドラマ・SF小説のパロディをぶち込む。
④ 表現上の制約を外して思い切り低俗化する。
⑤ 想像力の限りを尽くして③~④を繰り返し、エピソードを量産する。
本ブログで紹介する初のアニメは、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』から生まれた奇想天外な爆笑Sci-fiコメディ。
これ最高!
「時空を駆け巡り、世紀の大発見をするのだ!」と言って孫をだます性悪ジジイ
―無数に存在するパラレルワールドの中で、われわれが生きている現実世界は”Earth Dimension: C-137”と呼ばれる―
―ワシントン州シアトルの郊外
ジェリーとベスのスミス夫婦は、娘のサマー、息子のモーティ、それにベスの父親リックとの5人家族だ。
ジェリーは自尊心が強くて空気が読めないサラリーマンで、かなりウザい奴。同居する義父の存在に耐えられず、リックを老人ホームへ入れようと画策中だ。
ベスは脳外科医を目指していたが、挫折して馬専門の心臓外科医となった。夫のジェリーにも人生にも不満だらけだが、父親のリックを尊敬している。
17歳のサマーは典型的な反抗期のパーティガール。
14歳のモーティは気が優しくて頭も悪くないが、心配性ですぐパニックを起こす。学校では劣等生で友達もいない。両親はモーティに学習障害があると思っている。
モーティの祖父リック・サンチェスは、ジコチューで破壊的で無責任で人間嫌いでシニカルな性悪ジジイ。しかもアル中でいつもよだれを垂らしていて、ゲップをしながら話をする。だがおそらく宇宙一賢い天才マッド・サイエンティストでもあるのだ。
リックはガレージを実験室にしている。自慢の’ポータルガン’を使ってどこでも好きなところにポータル(ゲート)を作り、パラレルワールドや異次元空間を自由に行き来する。また小型宇宙船の操縦もお手のものだ。リックにはなぜか宇宙人や奇怪な生物の友人が大勢いる。
リックは嫌がるモーティをそそのかして冒険の旅に誘う。リックがモーティを連れ回すのは孫が可愛いからではなく、忠実な助手として利用するためだ。だから冒険の顛末は、ほとんどモーティの災難で終わる。
リックは今日もモーティに檄を飛ばす。
「学校に行くのは時間の無駄だ。時空を駆け巡り、世紀の大発見をするのだ!」
仰天のアイディア、仕掛け、悪ふざけ、そしてパロディ!
本作のショーランナーの一人で、リックとモーティ両方の声優をつとめるのが、奇才ジャスティン・ロイランド。ロイランドは若いころに、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の主人公ドクとマーティをモデルにした短編アニメを作った。ここから“Rick and Morty”が生まれ、アニメ専門チャンネル”Cartoon Network”の大人向け深夜プログラム[adult swim](「大人の時間」の意)で放映された。
(蛇足だが、[adult swim]のストップモーション・アニメ”Robot Chicken”シリーズの”Star Wars”編は必見。)
画面はカラフルで刺激的、キャラはチョイ役に至るまでユニークを超越する。各エピソードは底抜けに馬鹿々々しく予測不能で(時として理解不能)、首尾一貫した低俗感とハチャメチャ感が相乗効果を生み出している。
「進化した犬が支配する世界」 「病人の体内にあるテーマパークの崩壊」 「異星人が造った地球全体の多重シミュレーター」 「惚れ薬が蔓延する世界」など、アニメでしか描けない仰天のSF的アイディア、仕掛け、悪ふざけの数々が炸裂する。
さらに全編にわたって映画、ドラマ、SF小説のパロディが、これでもかというほど詰め込まれている。エピソードの原題もパロったものが多く、”Something Ricked This Way Comes”(『何かが道をやってくる』のもじり)、”Anatomy Park”、”Close Rick-counters of the Rick Kind”、”Ricksy Business”(『卒業白書』のもじり)、”Mortynight Run”、”Total Rickall”、”The Wedding Squanchers”、”The Rickshank Rickdemption”(『ショーシャンクの空に』のもじり)、”Rickmancing the Stone”、”The Rickchurian Mortydate”(『影なき狙撃者』のもじり)、”One Crew over the Crewcoo’s Morty”(『カッコーの巣の上で』のもじり)、”Claw and Hoarder: Special Ricktim’s Morty”、”Rattlestar Ricklactica”…ときりがない。ふう。
またシーズン1では『ジュラシック・パーク』+『ミクロの決死圏』、『タイタニック』、S2では『ザ・パージ』、S3では『マッドマックス』、『アベンジャーズ』+『ソウ』、S4では『オーシャンズ11』が、フルエピソードのパロディに仕上げられている凝りよう。とにかく愉快で楽しく、”bingeable”(イッキ観確実)なのだ。
最先端の技術を駆使するディズニー/ピクサー製のCG映画とは対照的に、アメリカのテレビアニメ(”animated television series”、”animated sitcom”などと呼ばれる)は昔ながらの平面的な手法で描かれる。キャラの多くはなぜかギョロ目でクセが強く、動きがぎこちない。本作も同様だ。
だが’支離滅裂なのに何となく筋の通った世界観’はカルト的魅力に満ち溢れ、お下劣でグロいシーンから鋭い社会風刺や哲学的考察が飛び出すことも。そして気がつくとリックとモーティを大好きになっていて、ワープしながら光速で突き進むストーリーに病みつきになる。
“Rick and Morty”は奇想天外なパラレルワールドを解き放ち、異次元の世界を異次元の面白さで活写する、笑いと狂気のSci-fiコメディなのだ!
各エピソードは約22分、Netflixでシーズン4のPart 1まで全36話を視聴できる(Part 2の5話も近々配信予定)。[adult swim]はさらに60エピソードを制作する予定なので、’お楽しみはこれからだ’。
パイロット(第1話)以外はクレジットの後にタグ(短いエピローグ)が付いているので観逃さないように!
<今月のおまけ> 「My Favorite Movie Songs」㊹
Title: “The Power of Love”
Artist: Huey Lewis and The News
Movie: “Back to the Future” (1985)
主演の2人はドラマ出身、当時マイケル・J・フォックスは”Family Ties”で、クリストファー・ロイドは”Taxi”でお茶の間の人気者だった。ヒューイ・ルイスもカメオで出演していたね。
Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。
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