これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第70回 “OZARK”
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今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系、ケーブル系各社に[…]
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi
第70回“OZARK”
今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
“BB”、“SoA”以降で最高のクライムドラマは?
クライムドラマの頂点を極めたのは、“Breaking Bad”(2008-2013)と“Sons of Anarchy”(2008-2014、本ブログ第5回参照)だろう。では、この2作以降で最高のクライムドラマは何か?
思い浮かぶのは、“Justified”、“Banshee”、“The Blacklist”(第11回参照)
、“Power”(第14回参照)、“Narcos”、“Yellowstone”、“The Sinner”、“Mayans M.C.”(第61回参照)。毛色は違うが“Billions”も入れたい。
アメリカン・ドラマ以外だと、“Peaky Blinders”(英)、“La Casa De Papel”(『ペーパー・ハウス』、スペイン)、“Line of Duty”(英)が御三家か。
ちょっと待った、“Ozark”があった!
5年で5億ドルを洗浄できるか?
―マーティは手錠をかけられ、倉庫の汚れた床に両ひざをついていた。目の前に、射殺されたばかりのブルースが横たわっている。マーティは、ポケットから落ちたオザークの観光パンフレットを横目に見ながら、デル・リオに向かってまくし立てた。
「・・・ここの湖岸線はカリフォルニアの海岸線より長い。夏は観光客で溢れかえる。キャッシュをふんだんに持った、あらゆる階層の観光客だ。シカゴはもう危険だ。FBI、ATF、CIA、あらゆる司法当局が目を光らせている。新たな拠点が必要だ。賄賂に充てる資金をすべて預けてくれ。家族と一緒にオザークへ行く。5年で5億ドルを洗浄する!」
苦し紛れの出まかせだった。
マーティ・バード(ジェイソン・ベイトマン)は、親友のブルースと共同経営する投資会社を通じて、10年前からマネーロンダリング(資金洗浄)をしている。顧客のナヴァロは、メキシコで2番目に大きな麻薬カルテルだ。マーティの手法は洗練されていて、すべてが上手くいっていた。ブルースがマーティに隠れて、資金の一部をくすねるまでは。それを、ナヴァロのシカゴ責任者デル・リオ(イーサイ・モラレス)に気づかれたのだ…。
―ミズーリ州オザーク
マーティと妻のウェンディ(ローラ・リニー)は、嫌がる長女のシャーロットと長男のジョナを説き伏せて、オザークへ引っ越してきた。
夫婦の関係は冷えていた。シャーロットは反抗期で、ジョナも両親に不信感を持っている。バード家は機能不全の家族だった
バード家の新居にはバディ(ハリス・ユーリン)という変人が同居している。その老人は膵臓ガンで余命1年、死ぬまで居候させるという条件で、マーティがバディの家を格安で買い取ったのだ。
オザークにも悪党はいる。ラングモア一家のようなレッドネック(田舎者の白人)のゴロツキ集団が幅を利かせ、ヘロイン事業を営む邪悪なスネル家も深く根を張っている。しかも、シカゴで密かにデル・リオを追っていたFBIのロイ・ペティ(ジェイソン・バトラー・ハーナー)が、おとり捜査官として住人に成りすましていた。
マーティとウェンディは家族の絆を取り戻し、カルテルから送られる巨額な資金を洗浄し続けねばならない。この先どんな危険や困難が待ち受けているのか、2人は知るすべもない!
ジュリア・ガーナー、“Game of Thrones”の4人を討ち取る!
ジェイソン・ベイトマンの出世作は、ゴールデングローブ賞主演男優賞に輝いたコメディ“Arrested Development”。今回は、一見頼りないが窮地に陥ってもどこか冷めていて、何とか突破口を探し出す切れ者マーティを演じて、同賞とエミー賞の主演男優賞でダブルノミネーションを受けた。またエミー賞の監督賞を受賞して、多才ぶりも披露した。
ウェンディを演じたローラ・リニーは、3回のオスカー・ノミネーションを受け、4回のエミー賞を受賞しているベテラン。『ユー・キャン・カウント・オン・ミー』(2000)の頃の、目じりを寄せて小さく笑うキュートな魅力は今も健在だが、修羅場を経験しながらタフになっていくウェンディには、凄味さえ感じられる。
ラングモア家の若きリーダー、ルース役のジュリア・ガーナーは本作のハイライトだ。ルースはタフで繊細、妖艶で頭脳明晰な娘。服役中の父親に愛されたいばかりに犯罪に走るルースの哀しさは、胸に迫るものがある。ガーナーは“Game of Thrones”の候補者4人を退け、エミー賞助演女優賞を勝ち取った。
さらに、バード家の意外な助っ人となる居候バディ、双極性障害を患うウェンディの弟ベン、変質的FBI捜査官ペティ、極悪人のルースの父親ケイド、カルテルのスリックな弁護士ヘレン、スネル家のモンスター妻ダーリーン、争いに巻き込まれ精神崩壊する神父ヤングなど、次々に登場する多彩なキャラたちに絶句する。
これは暴力を頭脳で抑え込む知的ゲームだ!
「気の遠くなるような大金を盗むのではなく、使わねばならない」という皮肉なシチュエーションが、全編にわたって効いている。
淡白で理路整然としたマーティと、知能犯としての才能が開花するウェンディは協力と対立を繰り返し、2人のティーンエイジャーは好き勝手に行動して両親をかく乱する。シーズン3で乱入するウェンディの弟ベンがワイルドカードになって、いよいよバード家は崩壊へ。彼らは谷底に向かって転がり落ちているが、止まれば殺されてしまうのだ。
役柄は脇役の隅々までキャラクター・アーク(人物の成長や変化の軌跡)が確立されている。そのうえで、彼らを賞味期限前に惜しげもなく抹殺し、新たに魅力的なキャラを投入していく。この大胆で贅沢な手法はリスキーだが成功した。
レストラン、ストリップクラブ、葬儀社の買収からヘロイン売買、教会の建設を経て、やがてカジノ開発へ。マーティが繰り出す鮮やかなマネーロンダリングの手口は、次第に大胆で大掛かりになっていく。利害が絡むナヴァロ・カルテル、ラングモア家、スネル家、FBIに加えて、カンサスシティ・マフィアまで参入して、事態はさらに複雑になる。
マネーロンダリングは暴力と切っても切れない関係にあるが、誰にも気づかれないよう静かに行う必要がある。つまり、暴力を頭脳で抑え込む知的ゲームだ。これに暴走するストーリーと、突き抜けた個性を持つキャラたちが加われば怖いものはない。
硬軟取り混ぜた“Ozark”は、“Breaking Bad”、“Sons of Anarchy”以降で最高のクライムドラマなのだ!
本作はNetflixのオリジナルで邦題は『オザークへようこそ』。シーズン1-3(1話約60分、各シーズン全10話)を配信中で、既にシーズン5まで継続が決まっている。
【朗報】 来月発表の本年度エミー賞でも、”Ozark”は主要6部門(作品、監督、脚本、主演男優、主演女優、助演女優)でノミネートを受けた!
<今月のおまけ> 「My Favorite Movie Songs」㊽
Title: “Life Is a Highway”
Artist: Rascal Flatts
Movie: “Cars” (2006)
“Ozark”にぴったりの曲!
Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。
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