これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第76回 “TED LASSO”
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今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系、ケーブル系各社に[…]
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi
第76回“TED LASSO”
今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
“Meet Ted Lasso: NBC Premier League CF”
テッド・ラッソって誰よ?
英国プロサッカーリーグの最高峰「プレミアリーグ」。米国では“NBC Sports”が放映するが、プロモーション用に創られた架空の人物がテッド・ラッソだ。コメディアンのジェイソン・サダイキスが演じるこのサッカーコーチは、サッカーの経験ゼロ。意味不明のコメントで、ファンとメディアを煙に巻く愛すべきキャラだ。
(本稿末尾の動画<今月のおまけ>でテッド・ラッソに会おう!)
Appleがドラマ化した“Ted Lasso”は、期待をはるかに超える面白さ。痛快でハートウォーミングな、スポーツ・コメディの決定打なのだ!
(念のため、“football”はアメリカではアメフトを、欧州ではサッカーを意味する。)
“We’re not in Kansas anymore”
テッド・ラッソ(ジェイソン・サダイキス)と親友のビアード(ブレンダン・ハント)は、米国カンザス州からはるばる英国リッチモンドへやって来た。プレミアリーグのAFCリッチモンド(“Association Football Club of Richmond”)のコーチ(監督)と、アシスタントコーチに就任するためだ。ラッソは大学アメリカンフットボールの2部リーグのチームを、全米王者に導いた実績を持つ。だがサッカーの知見はなく、オフサイドの意味すらわからない。
ラッソにとって、妻のミシェルと息子のヘンリーをカンザスに残してくることは苦渋の決断だった。夫婦関係が悪くなり、「しばらく距離を置きたい」というミシェルの意向を尊重したのだ。
レベッカ・ウェルトン(ハンナ・ワディンガム)は、AFCリッチモンドの新オーナー。若い女に乗り換えた大富豪の夫との醜い離婚劇の末、この弱小チームを手に入れた。怒りに燃えるレベッカの目的は、夫の愛したサッカーチームを徹底的に辱めること。ど素人のラッソを新コーチに起用したのもそのためだ。
開幕前からチームの状態はどん底だ。ピークを越えたキャプテンのロイ・ケントはいつも不機嫌で、もはやスーパースターの面影はない。エースストライカーのジェイミー・タートは自己中のナルシストで、パスを出さない。ナイジェリア出身の新鋭サム・オビサニヤはホームシックで精彩がなく、メキシコの新星ダニー・ラモスはケガで練習できない。
地元のファンとメディアは、はなからアメリカ人コーチを嫌って笑い者にした。ラッソに付いたあだ名は“Wanker”で、彼の行くところ“Wanker”チャントが沸き起こる。(“Wanker”は「オナニー野郎」のニュアンスに近い。欧州のサッカーファンは辛辣なのだ。)
案の定、AFCリッチモンドは開幕戦から負けが込む。
だがラッソは持ち前の人の良さと見当はずれの超楽天主義で、ひたすらわが道を進み続ける!
“We’re Richmond till we die”
ジェイソン・サダイキスは2003年から10年間、長寿コメディ番組SNL(“Saturday Night Live”)のレギュラーを務めた(得意芸はジョージ・ブッシュの物まね)。今回は、一見チャラ男だが実は寛容で心優しいラッソ役にピタリとはまり、みごとゴールデングローブ賞の主演男優賞候補となった!(本作は最優秀作品賞にもノミネート!)
レベッカ役のハンナ・ワディンガムはミュージカル・シアターのベテランで、怒りと罪悪感の間で揺れるレベッカを好演する。最近では“Game of Thrones”と、Netflixの“Sex Education”に出演していた。
ラッソの長年の友人ビアードを演じたブレンダン・ハントは、本作のクリエーターの一人。ビアードはラッソ同様サッカーを知らない、しかも超寡黙なアシスタントコーチだ。
とにかく笑っちゃうのが、ニック・モハメッド演じる用具係ネイト。サッカーおたくでスーパーシャイのネイトは実は優れた戦略家で、選手一人ひとりの体調や心理状態まで把握している。(スポーツ映画の名作『勝利への旅立ち』のデニス・ホッパーを思い出す!)
コメディながらドラマとして意外と厚みがあるのは、脇役の隅々まで血が通っているからだ。まず、チーム内で対立する苦虫ケントと性悪タートを演じた、ブレット・ゴールドスタインとフィル・ダンスター。さらにレベッカの腰巾着ヒギンズ役のジェレミー・スイフト、タートの恋人でモデルのキーリーを演じたジュノー・テンプル、辛口だが真摯な新聞記者クリム役のジェームズ・ランスと、脇を支える英国人アクターの実力はさすがなのである。
“Do you believe in miracles?”
ショーランナーのビル・ローレンスは、マイケル・J・フォックス主演の“Spin City”、10年続いた医療コメディ“Scrubs”などのシットコムを手掛けた名プロデューサーだ。ジェイソン・サダイキスは主演に加えて、製作総指揮、共同脚本も担当した。
本作のストーリー・エンジンは、弱小チームの再建プロセスと、ラッソの魅力的なキャラだ。
ラッソは頼りなさそうに見えるが、実は生まれながらの心理学者で、選手に欠けているものを直観的に知っている。彼の人柄や手腕は徐々にチームメンバーやスタッフに受け入れられ、やがてファンとメディアに認められる。ファンによる“Wanker”チャントが、あざけりから賞賛のトーンに代わるシーンは感動的だ。
本作には悪人が一人も登場しない。エグいギャグやスラップスティック的なドタバタ感も意外と少ない。ラッソの不可思議トーク、ビアード&ネイトのボケっぷり、これに英米の慣習の違いによるギャグが絡み、笑いの相乗効果を生む。
そして迎える王者AFCマンチェスター・シティとの最終戦。負ければ2部リーグへ降格の一戦で、ラッソは奇策を講じる。ファイナルエピソードは、スポーツドラマらしいハラハラドキドキの王道を往きながら、コメディらしい納得の結末にタッチダウン(これはサッカー用語じゃないか)する。
“Ted Lasso”はサッカーファンでなくても楽しめて、Appleの上品さを漂わせる、痛快でハートウォーミングなスポーツ・コメディなのだ!
邦題は『テッド・ラッソ:破天荒コーチがゆく』。Apple TV+でシーズン1(約30分 X 10話)が視聴可能、既にシーズン3までの制作が決定している。
元気と優しさの贈り物、これは究極の巣籠ドラマかも!
Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。
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