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これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第78回 “EVIL” 

これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第78回 “EVIL” 
    今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系、ケーブル系各社に[…]

    “Viewer Discretion Advised!”
    これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
    Written by Shuichiro Dobashi 

    第78回“EVIL”
    “Viewer Discretion Advised”は海外の映画・テレビ番組等の冒頭で見かける注意書き。「バイオレンスやセックス等のコンテンツが含まれているため、視聴の可否はご自身で判断して下さい」という意味。

    今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。

     

     

    <激変した米国のドラマ事情>
    米国のドラマ事情はここ数年で劇的に変化した。多くの視聴者が、高額なケーブルテレビ(および衛星放送)契約を、Netflixなどのストリーミング・サービスへ切り替えているのだ。

     
    Netflixはエミー賞を席巻し、有料会員数は世界で2億人を超え、今年のコンテンツ製作費予算は断トツの1.9兆円! Prime VideoはAmazonがプライム会員の維持拡大を図るための戦略で、みごとに功を奏している。Apple TV+はApple教信者のためのブランド強化策で、Netflixと争うつもりはなさそうだ。
    Disneyはコロナ禍でテーマパーク、劇場映画、ESPNが大幅減収となった。だが子供向けコンテンツに圧倒的に強いこと、さらに”The Mandalorian”の大ヒットによるDisney+への期待感から、株価は反騰し、本年3月に史上最高値を記録した。HuluもDisney傘下だ。

     
    現在、NetflixとAmazon Prime VideoをDisney+が猛追している。下位グループを形成するのはHBO Max(Warner)、Discovery+、Peacock(NBC)、Paramount+(旧CBS All Access)などで、これから下剋上状態になりそう。これらのメディア企業は戦わないと衰退するしかないからだ。

     
    割を食ったのが民放のTV番組だ。日本と違って、米国では地上波放送もケーブルか衛星を経由しないとまともに映らない。つまり、ストリーミング・サービスの台頭で、存在意義が急激に低下したのだ。視聴者数は右肩下がり、予算は限られ、表現上の規制は厳しく、野心的なテーマはスポンサーから拒否される。その結果、人気アクターや才能あるクリエーターは、ストリーミング企業にヘッドハンティングされて移っていく。負のスパイラルだ。

     
    ストリーミングの世界的なトレンドはコロナ収束後も変わらず、拍車がかかるだろう。各経営者の手腕が問われる局面で、下手なドラマを観るより面白い。
    民放の逆襲、CBS会心の一作!
    そんな状況下でイチ押しの一作が、日本未公開、民放大手の一角CBS制作の“Evil”。
    ドラマはアイディアと工夫次第で幾らでも面白くなることを証明して見せた、斬新で知的なホラー・ミステリーだ!

     
    “Do you think science can answer every question?”
    クリステン・ボシャード(カーチャ・ヘルダース)は元登山家の司法心理学博士だ。山岳ガイドの夫は出張が多く、クリステンはNYの自宅で4人の娘と過ごすことが多い。彼女は検察の依頼で重犯罪者の精神鑑定を行い、裁判で証言する。無神論者で、すべての謎は科学的に説明できると信じている。

     
    デヴィッド・アコスタ(マイク・コルター)は元ジャーナリスト。世界中で奇跡と言われる超常現象を目撃した結果、神や悪魔の存在を信じている。現在は神学生で、科学が説明できるのは再現性がある事象だけだと主張する。デヴィッドはカトリック教会の依頼で、信者から報告された超常現象の真偽を調査することで生計を立てている。

     
    心理学博士のリーランド・タウンゼント(マイケル・エマーソン)は心底邪悪な精神科医だ。専門家として法廷に立ち、虚偽の証言をして犯人を釈放させ無実の人間を投獄する。人を操る天才で、オタクの少年にテロ行為を行わせ、人気ユーチューバーを使って若者に自傷行為をさせる。しかもクリステンの母親シェリルと密かに付き合っている。

     
    ある日クリステンはレイプ殺人犯の精神鑑定をめぐって検察と衝突し、仕事を失ってしまう。以前からクリステンに注目していたデヴィッドは、彼女へ仕事のオファーをした。科学者の立場で自分の仕事を手伝って欲しいのだ。クリステンにとって超常現象を実際に目撃することは強烈な体験で、その原因を科学的に解き明かすことはこの上ない喜びとなる。クリステンとデヴィッドはビジネスパートナーになった。

     
    クリステン、デヴィッド、それに気のいい助手ベンの3人は、数々の難事件に挑む。だが、彼らの前にはことごとくタウンゼントが立ちはだかる!

     
    K・ヘルダースの魅力はチャーミングで普通っぽいこと!
    クリステン役のカーチャ・ヘルダースはオランダ生まれで、“The Americans”、“Westworld”の端役を経て本作で主役を得た。明るく知的、芯が強くてチャーミング、でも普通っぽいクリステンのキャラに、ヘルダースはジャストフィットした。

     
    デヴィッドを演じるマイク・コルターは、マーベルのスーパーヒーロー、ルーク・ケージが当たり役だ。“The Good Wife”で演じた強面の麻薬王ビショップも迫力満点だった。ルーク・ケージとは大きなギャップのあるデヴィッドを、コルターは生き生きと演じている。

     
    稀代の悪党タウンゼントを怪演するマイケル・エマーソンは、“The Practice”のシリアルキラー役で注目され、“Lost”でブレークし、“Person of Interest”で人気を決定づけた。悪役を演らせると天下一品で、今回のタウンゼント役では水を得た魚のようだ。

     
    加えてコメディアンのアーシフ・マンドヴィが、コミックリリーフとしてデヴィッドの助手ベンを演じる。クリスティーン・ラーティは、クリステンの問題ある母親シェリル役でリアリティとユーモアを限りなく増幅させる。

     
    科学を信じる探偵 X 神を信じる探偵!
    ショーランナーのロバート&ミシェルのキング夫婦は、大ヒットした“The Good Wife”とそのスピンオフ“The Good Fight”のクリエーター。巧みなキャラクター・アーク(人物の成長や変化の軌跡)の造形は本作でも健在だ。

     
    “Evil”のテイストに近いのは、‘90年代に社会現象となった“The X-Files”だろう。主役の2人、FBI捜査官のモルダーとスカリーにはなかった資質が、クリステンの持つ’知的な明るさ’だ。
    クリステンとデヴィッドにはケミストリーが働き、微妙な距離感が絶妙。また、クリステンの悪夢に登場する夢魔を’ジョージ’と名付けるなど、軽いユーモアが全編を通して効いている。

     
    そして本作最大の見どころが、魅力的な謎と、オセロのように次々と反転するその解釈だ。
    「死後3時間後に生き返った女性」 「性格が激変して血の汗をかく映画プロデューサー」 「突如赤ん坊や両親を殺そうとする少年」 「予言が次々と現実になる保母」 「同じ曲を延々とハミングする少女たち」 ―これらの超常現象を“possession”(憑依)だと考えるデヴィッドに、クリステンは科学的仮説で対抗する。すると次の瞬間、また説明できない不可思議な現象が起こる。クリステンはそれを再度論理的に解明しようと試みるが…。

     
    科学と超常現象が表裏一体のグレーゾーンの中で、クリステンとデヴィッドは謎が謎を呼ぶ事件に翻弄される。タウンゼントは何者なのか? 現実世界のダークサイドで、悪魔とサイコパスが手を組んでいるのか?
    そしてシーズンフィナーレでは、さらにショッキングなツイストが炸裂する!

     
    “Evil”は、使い古されたテーマでもアイディアと工夫次第で幾らでも面白くなることを証明して見せた、斬新で知的なホラー・ミステリーなのだ!

     
    本作は各約40分の全13エピソード(当然13だ)、シーズン2の制作が決定している。
    日本での放映を神に祈るばかりだ。

     
    <今月のおまけ> 「My Favorite Movie Songs」#55
    Title: “Kiss from a Rose”
    Artist: Seal
    Movie: “Batman Forever” (1995)

    ヴァル・キルマー、ニコール・キッドマン、トミー・リー・ジョーンズ、ジム・キャリー、クリス・オドネルと、シリーズ最強のキャスト。曲も映画の雰囲気にぴったりだった。

     
    写真Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。
     
     

     
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