これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第79回 “HANNA”
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今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系、ケーブル系各社に[…]
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi
第79回“HANNA”
今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
殺人兵器となった少女
本作の邦題は、『ハンナ ~殺人兵器となった少女~』。身も蓋もないタイトルでストーリーは一目瞭然、チープな印象は拭えない。でも、「またこの手の話か」とか言ってスルーしないこと。これが滅法面白いんだから。
“Hanna”はAmazon Originalの隠し玉、爽快なアクションが随所に炸裂するピュアなエンターテインメントなのだ!
森を出る少女
―ルーマニア、2003年
最北端の町ダラバニにある謎の研究施設ウトラックス。そこには何十人もの乳児が、チューブに繋がれ保育されている。今、男がウトラックスに潜入し、赤ん坊の一人を連れ出した。高度な技量で見張り数人を倒し、銃撃をかいくぐる。男は、車で待っていた赤ん坊の母親らしき女性とともに逃走した。
ウトラックスの責任者マリッサ・ウィーグラー(ミレイユ・イーノス)は、部下と共に逃走車を追う。やがて逃走車は追い詰められ、目前に迫る原生林へ逃げ込もうとする。だがヘリからの銃撃を浴びて車は大破。
ウィーグラーが到着したとき、車内には女性の死体だけが残されていた。
逃走した男エリック・ヘラー(ヨエル・キナマン)は、殺人容疑で指名手配された。
―15年後
エリックは、赤ん坊をポーランド北部の森林地帯で育てた。15歳になったハンナ(エスメ・クリード=マイルズ)は、粗野だが聡明で美しい少女だ。彼女はエリックから、アウトドアでのサバイバル技術、格闘技、銃、弓、ナイフなど、あらゆる戦闘方法を徹底的に叩き込まれた。さらに英才教育は、英語、ドイツ語、フランス語の習得から各国の文化や歴史にまで及ぶ。
すべては将来エリックに万が一のことがあった時に、ハンナが生き残るためだ。しかもハンナには、危険を察する動物的知覚能力がある。
この広大な森林地帯にいる限り、2人は安全だった。
だがハンナは反抗期に入り、エリックとの約束を破って外部の人間と接触してしまう。その情報は、直ちにCIAの欧州副長官まで昇りつめていたウィーグラーの耳に入った。ハンナとエリックの身に危険が迫る。
―狩られる前に狩る。2人は、ウィーグラーとウトラックスに反撃する決意を固める。
遂に森を出る時が来たのだ!
“The Killing”のペア、再度輝く!
タイトルロールのハンナを演じたエスメ・クリード=マイルズは英国出身の21歳、子役を除けば初めての大役だ。クリード=マイルズは、タフだが孤独な少女が自らのアイデンティティを求めながら、知的で寛容な女性に変貌していく姿をみごとに体現した。また格闘技の猛特訓の成果は、迫力のアクションシーンで十二分に証明されている。
エリック役のヨエル・キナマンはスウェーデン出身のイケメン俳優。犯罪ドラマの傑作“The Killing”(米国バージョン)でブレークし、“House of Cards”(本ブログ第2回参照)、“Altered Carbon”、“For All Mankind”(これもApple+のお勧め)と、アメリカン・ドラマに立て続けに出演している。決死の逃避行を通して描かれる、エリックとハンナの強い絆は心に残る。
マリッサ役のミレイユ・イーノスは、“The Killing”でエミー賞&ゴールデングラブ賞主演女優賞のダブルノミネーションを受けた実力派。ヨエル・キナマンとは同作で全4シーズン共演した。今回は使命感と罪悪感との間で微妙に揺れ動くマリッサの心情を、心憎いばかりの演技で表現する。
ヨーロッパを駆ける少女
ショーランナー/共同監督/共同脚本のデヴィッド・ファーは、英国スパイドラマの傑作“Spooks”(邦題『MI-5 英国機密情報部』)、“The Night Manager”(本ブログ第26回を参照)の脚本家として知られる。本作のベースとなった映画版(2011)では共同脚本を務めたが、不自然にオフビートでB級作品の域を出なかった。だがこのドラマ版は、舞台設定の巧みさ、主要キャラの深み、アクションの切れなど、あらゆる面で映画版を凌駕する。
また映画版では、エリックをエリック・バナが、ウィーグラーをケイト・ブランシェットが演じた。知名度では負けるが、キナマンとイーノスの方が遥かに適役で説得力がある。
「人間の軍事兵器化」というアイディアは、アクションSFの世界では使い古されたテーマだ。だが『アベンジャーズ』や“Stranger Things”の例を待たず、レシピ次第で幾らでも面白くなる。
ルーマニアから始まり、モロッコ、フランス、ドイツ、ベルギー、イギリス、スペインを駆け抜ける、ハンナの雄姿を見よ。ウトラックスとの決戦まで二転三転し、加速度的に面白くなる息もつかせぬストーリーに目が釘付けになる。脚本はいささか乱暴だが、“24”のように、ただストーリーのうねりに身を任せれば些細な欠点など忘れてしまう。
“Hanna”は、爽快なアクションが随所に炸裂するピュアなエンターテインメント。革新的なドラマ、感動的なドラマ、社会的意義のあるドラマもいいが、ここは改めて、単純明快なアクションドラマに刮目すべし!
本作はAmazon Primeでシーズン2(各シーズン全8話)まで視聴できる。シーズン3の制作も決定している。
殺人兵器となった少女よ、次シーズンも暴れまわるがいい!
<今月のおまけ> 「My Favorite Movie Songs」#56
Title: “Skyfall”
Artist: Adele
Movie: “Skyfall” (2012)
近年の007ソングでは、これが断然いい。
Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。
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