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これがイチ押し、アメリカン・ドラマ  第84回 “HEELS”

これがイチ押し、アメリカン・ドラマ  第84回 “HEELS”
    今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系、ケーブル系各社に[…]

    “Viewer Discretion Advised!”
    これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
    Written by Shuichiro Dobashi 

    第84回“HEELS”
    “Viewer Discretion Advised”は海外の映画・テレビ番組等の冒頭で見かける注意書き。「バイオレンスやセックス等のコンテンツが含まれているため、視聴の可否はご自身で判断して下さい」という意味。

    今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。

     

     

    “In the world of professional wrestling, the heroes are known as faces.
    The villains are heels”

     

    本年度のベストドラマを見逃すな!
    プロレスとはショー形式のドラマだ。試合は台本に沿って進行し、ときに「八百長」、「やらせ」とさげすまれる。レスラーたちは創られたキャラを演じ、成功するためには、観客から愛されるか、憎まれるか、二つに一つしかない。
    この世界では、ヒーロー役は“Face”、悪役は“Heel”と呼ばれる。
     

    “Heels”は、プロレスラーという生き方を選んだ兄弟と、その家族、仲間の夢と葛藤を謳いあげる、怒涛のヒューマンドラマ。少し早いが、本年度のベストドラマだと断言する!
     

    スペードのジャック対スペードのエース!
    ―アメリカ南部ジョージア州の小さな町ダフィ
    ジャック・スペード(スティーヴン・アメル)は朝のトレーニングを終えて、パソコンで今夜の試合の台本を書いている。ジャックは、1年前に自殺した父親の後を継いで、独立系プロレスリーグDWL(“Duffy Wrestling League”)の共同オーナーとなった。レスラーとしては悪役専門で、地域の子供たちから恐れられている。
    ジャックには妻のステイシー(アリソン・ラフ)と、8歳の息子トーマスがいる。スペード家の生活は苦しく、ジャックはパートタイムで芝刈り機のセールスマンをしている。
     

    エース・スペード(アレクサンダー・ルドウィグ)はジャックの弟だ。長いブロンドがトレードマークのイケメンマッチョで、次期王座を狙うDWLの若きヒーローとして絶大な人気を誇る。エースは悪い人間ではないが、短気で浅はかで女たらしで、ジャックの頭痛の種だ。ジャックの息子トーマスは、父親よりエースを慕う。
     

    ジャックの夢は、DWLを全国区のプロリーグに育てること。DWLは地元では人気があり、レスラーたちは友情と強い信頼関係で結ばれている。だがダフィは小さな町で、会場は雨漏りがするし、撮影機器は古く、DWLは常に資金難だ。
    さらに、派手な流血ショーを売り物にする隣州のライバルFWD(“Florida Wrestling Dystopia”)が、豊富な資金力でDWLを潰しにかかる。
     

    そこへ、かつて全米チャンピオンだったワイルド・ビル・ハンコック(クリス・バウアー)が現れる。ハンコックは元DWLのメンバーで、人気の出てきたエースを引き抜きに来たのだった。
    今エースが去れば、DWLは破産する。
     

    チャンピオンベルトを持つ悪役ジャックは、今夜の試合でエースと闘う。観衆はエースの勝利を期待し、チケットは完売だ。
    この因縁の兄弟対決の行方は?
     

    愛憎入り混じる兄弟レスラーを体現する2人
    ジャック役のスティーヴン・アメルはカナダ出身で、DCコミックスの人気ドラマ“Arrow”ではタイトルロールを8年間演じた。本作では、悪役に徹する善良な兄を厚みのある演技で体現した。アメルはWWE(“World Wrestling Entertainment, Inc.”、世界最大のプロレス団体)などのプロレス経験者でもある。
     

    強面だがメンタルは弱いエースを演じるアレクサンダー・ルドウィグも、カナダ出身だ。代表作は人気ドラマ“Vikings”と、大ヒットシリーズ『ハンガー・ゲーム』。ルドウィグは大のプロレス好きで、今回はハードな特訓を経て、かなりの部分で自ら格闘シーンを演じている。
     

    本作の隠し玉は、エースの付き人クリスタルを演じたケリー・バーグランドだ。一見可愛いだけのグルーピーに見えるクリスタルは、実は愛情深く才能豊かでしたたか、しかも優れたレスラーでもある。バーグランドは汗臭い男だらけのドラマでひときわ輝いた。
     

    ワイルド・ビル・ハンコックを演じたクリス・バウアーは、“True Blood”、“The Deuce”、“For All Mankind”などで記憶に残るベテラン・バイプレーヤーだ。本作では狂言回しとして圧倒的な存在感を見せる。
     

    さらに、ジャックを支える2人の女性、―しっかり者の妻ステイシー役のアリソン・ラフ、DWLのタフな共同経営者ウィリー・デイを演じたメアリー・マコーマックが、堅実な演技でドラマを下支えする。
    配役は脇役のレスラーたちを含めて、隅々まで行き届いている。
     

    「俺たちには汗の絆がある!」
    プロレスをテーマにした作品には意外と傑作・佳作が多い。Netflixオリジナルの女子プロレス・コメディ“Glow”がイチ押し。ピーター・フォークが主演した『カリフォルニア・ドールズ』(1981、古いね、わかってる)、ミッキー・ロークがオスカー候補となった『ザ・レスラー』(2008)、実話ベースの感動作『ファイティング・ファミリー』(2019)もお勧めだ。
    “Heels”はこのジャンルの決定打となった。
     

    ショーランナー(兼共同脚本)のマイケル・ウォルドロンは、“Rick and Morty”でエミー賞アニメ作品賞を受賞、Disney+の“Loki”のクリエーターでもある。今回はまったくテイストの違うヒューマンドラマを大成功させ、とてつもない才能と実力を証明した。(ウォルドンは『スター・ウォーズ』第10作の脚本を担当する予定!)
     

    ストーリーは、単にジャックとエースの愛憎劇では終わらない。
    普通の生活では飽き足らず、プロレスラーとなった者たち。常に危険と隣り合わせで、長年の酷使により体はボロボロだ。リングで観客と一体化した瞬間、彼らは生きていることを実感する。
    何となくいかがわしく、過酷で、経済的にも報われないローカルのプロレスラーという生き方が、胸に迫ってくる。
     

    そして“Heel”=悪役こそがヒーローを光らせる存在、プロレスの神髄だ。負けに徹するのが悪役の美学で、真のプロフェッショナリズムが問われる。ジャックはリング外でも悪役のイメージを維持しながら、良い人間であり続けようとする。一方エースは、自分を善人だと信じてヒーローを演じるが、平気で他人を傷つけてしまう自分自身に困惑し、怒りを発散させる。
    このドラマは、プロレスラーという生き方を深堀りするのだ。
     

    完成度の高いパイロット(第1話)は、導入部から視聴者を引き付ける。その後のエピソードでは、プロレスの真の魅力と舞台裏の苦労、そして各登場人物の人生が驚くほど真摯に、正直に、ヴィヴィッドに描かれる。そして細部まで考え抜かれた最終話の展開とツイストの鮮やかさときたら…。これほど優しくて、楽しくて、感動的で、満足度の高いシーズン・フィナーレにはお目にかかったことがない!
     

    “Heels”はプロレスの派手なパフォーマンスを前面に出しながら、レスラーという生き方を選んだ兄弟と、その家族、仲間の夢と葛藤を謳いあげる、怒涛のヒューマンドラマなのだ!
     

    邦題は『ヒール:レスラーズ』。制作は“Power”、“Outlander”、“P-Valley”などを手掛けたSTARZで、シーズン1(約60分X 全8話)をAmazon PrimeかApple+経由で視聴できる。
     

    本作は、筆者のようにプロレスファンでなくても存分に楽しめる。<今月のおまけ>で雰囲気に触れてみよう!
     

    <今月のおまけ> 「心に残るテレビドラマのテーマ」⑯
    Title: “Love in War”
    Artist: Ben Bridwell
    Drama: “Heels” (2021)


     
    写真Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。
     
     

     
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    同コラム執筆の土橋秀一郎さんがJVTAのYouTubeチャンネルに登壇しました!
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