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これがイチ押し、アメリカン・ドラマ  第85回 “resident alien”

これがイチ押し、アメリカン・ドラマ  第85回  “resident alien”
    今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系、ケーブル系各社に[…]

    “Viewer Discretion Advised!”
    これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
    Written by Shuichiro Dobashi 

    第85回“resident alien”
    “Viewer Discretion Advised”は海外の映画・テレビ番組等の冒頭で見かける注意書き。「バイオレンスやセックス等のコンテンツが含まれているため、視聴の可否はご自身で判断して下さい」という意味。

    今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。

     

     

    日本未公開のSci-Fi murder mystery dramedy!
    「これ、面白いよ」
    と、ドラマ好きの人にちょっと自慢気に勧めたくなるのが本作だ。あいにく日本未公開なので、U-NEXTあたりが拾って配信してくれないものか。
    “resident alien”は、Dark Horse Comics原作、Syfy(旧Sci-Fi Channel)オリジナルの”Sci-Fi murder mystery dramedy”なのだ!
     

    “Welcome to Patience, Colorado!”
    ―コロラド州、冬
    そのエイリアンは、46光年の彼方から小さな宇宙船でやってきた。―人類を抹殺するために。
    任務は単純で、小型の装置を地表に撃ち込んで帰るだけ。だが、宇宙船は雷に打たれて雪山に墜落する。
     

    事故を生き延びたエイリアンは、身長2メートル以上、全身グリーンで腕は4本、指も4本で、大きな目は左右に瞬きする。強靭で、しかも姿を自在に変えることができるシェイプシフターだ。
     

    病理学者のハリー・バンダースピーグル(アラン・テュディック)は、不運にも墜落現場近くのキャビンで休暇を過ごしていた。エイリアンはハリーを殺し、彼にすり替わった。任務を遂行するには、とりあえずハリーとして生きるしかない。
     

    エイリアンは科学者で人類より遥かに高い知能を持ち、感情は一切ない。主食はミルク。人間として生活するのはかなり大変で、歩き方、話し方、食べ方、歯の磨き方など地道に覚えなければならない。英語は“Law & Order”の再放送を観て学んだ。だが笑うタイミングが分からないし、ジョークはことごとくスベる。
     

    ―小さな町ペイシェンス
    町の検視官の死体が、事務所で発見された。’エイリアンハリー’が急遽呼ばれて、不器用に検視を代行する。自殺のようにも見えたが、エイリアンハリーは検視官が毒殺されたことを突き止める。
     

    運が悪かった。百万人に一人が、人間に化けたエイリアンの素顔を見る能力を持つ。よりによって人口千人のペイシェンスの町で、マックスという9歳児がエイリアンハリーの正体を見破った。生かしておくわけにはいかないが、マックスは市長の息子だ。
     

    エイリアンハリーは助手のアスタ(サラ・トムコ)の助けを借りて、何とか町医者と検視官の仕事をこなすようになる。検視官殺しの犯人は見つかっていない。マックスはまだ生きている。雪山で失った人類抹殺装置も探さねばならない。
     

    さらに厄介なことに、生まれて初めて感情が芽生えてしまった。エイリアンハリーは人間の「ふれあい」を理解し始め、孤独を感じ、ホームシックにかかっていた!
     

    地味で多才な役者テュディックの魅力全開!
    タイトルロールのアラン・テュディックは、Sci-Fiドラマの佳作“Firefly”のパイロット、ウォッシュ役が代表作。また、アニメシリーズの“Harley Quinn”(日本未公開、本ブログ第83回参照https://www.jvta.net/blog/viewer-discretion-advised-83/)ではジョーカーを含む5役の声を提供し、『ローグ・ワン/ スター・ウォーズ・ストーリー』(2016)では元帝国軍のドロイドK-2SOを演じた。
    地味でさえない顔立ちだが多才なテュディックは、エイリアンハリー役で魅力を全開した。
     

    サラ・トムコが演じた助手のアスタは、単なる主人公のカウンターパートではない。若いころに貧しさから赤ん坊を手放し、夫のDVに苦しんで離婚したばかりのネイティブ・アメリカンなのだ。トムコとテュディックの間にはケミストリーが働き、アスタとエイリアンハリーの微妙な関係はストーリーの核になっている。
     

    本作の隠し味は、エイリアンハリーに関わるペイシェンスの面々だ。生意気だが性根の座った少年マックス、マックスを助けるクラスメートの才女サハー、優柔不断な青年市長ベン、オフビートな保安官マイク、シャイだが優秀な副保安官リヴ、バーの経営者で元スキーのオリンピック選手ダーシーなど、皆個性的で笑わせてくれる。各キャラは意外にディープで、演じる役者も知名度は低いが絶妙のキャスティングだ。
     

    地球で孤立するエイリアンの天敵と言えば「軍隊」がお約束。エイリアンハリーを追うマカリスター将軍役を、『ターミネーター』のリンダ・ハミルトンが怪演している。
     

    ハートウォーミングな傑作エンターテインメント!
    「地球に取り残されたエイリアン」という設定は珍しくはない。ドラマでは“3rd Rock from the Sun”(1996-2001)、映画ではもちろん『E.T.』(1982)、さらに『スターマン/ 愛・宇宙はるかに』(1984)、『宇宙人ポール』(2011)、小説だとロバート・R・マキャモンの『スティンガー』(1988)を思い出す。
     

    ショーランナー/共同脚本のクリス・シェリダンは、長寿アニメ“Family Guy”の製作総指揮/共同脚本/声優でキャリアを築いた。
     
    本作は低予算ながらB級Sci-Fiドラマに終わらず、完成度の高いコメディに仕上がった。ギャグがマシンガンのように飛び交う30分のシットコムではなく、スナイパーライフルのようにクリーンヒットする1時間ドラマだ。検視官殺しを描くサイドストーリーは真犯人を巧妙に隠していて、立派なミステリー仕立てにもなっている。
    エイリアンハリーとネイティブ・アメリカンのアスタの間には、疎外感を共有するアウトサイダーとしてある種の絆が生まれる。さらにペイシェンスの人々の人生が、短編小説のようにさり気なく散りばめられている。つまりシェリダンが欲張って目指したのは“Sci-Fi murder mystery dramedy”で、見事に成功しているのだ。
     

    前半ではエイリアンハリーが孤軍奮闘する生活ぶりが面白おかしく描かれ、後半は宇宙船の発見を中心にダイナミックに転調する。「正体がいつバレるのか」という興味が常に背景にあるので、飽きることなく見続けてしまう。シーズン2に繋がるエンディングの「オチ」は爆笑ものだ。
    “resident alien”はじっくりと馬鹿々々しく笑わせてくれる、ハートウォーミングな傑作エンターテインメントなのだ!
     

    シーズン1は1話約45分で全10話、シーズン2の制作も決まっている。
    “Alien-Harry! Come back!”
     

    <今月のおまけ> 「My Favorite Movie Songs」#60
    Title: “It Might Be You”
    Artist: Stephen Bishop
    Movie: “Tootsie” (1982)

    映画も曲も大ヒット。『キングコング』(1976)でデビューしたジェシカ・ラングの絶頂期でした。
     
    写真Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。
     
     

     
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    ※※特報
    同コラム執筆の土橋秀一郎さんがJVTAのYouTubeチャンネルに登壇しました!
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