これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第90回 “IN FROM THE COLD”
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今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系、ケーブル系各社に[…]
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi
第90回“IN FROM THE COLD”
今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
スーパー・Sci-fi・ノンストップ・スパイ・アクションドラマ!!
主役は美貌のロシア人スパイ、わき役はアメリカのCIA、舞台はスペイン!
“In from the Cold”はNetflixオリジナルの大穴。異国情緒が漂う中で凄絶なアクションがさく裂する、スーパー・Sci-fi・ノンストップ・スパイ・アクションドラマなのだ!
“The Whisper”の復活
―スペイン、マドリード
ジェニー・フランクリン(マルガリータ・レヴィエヴァ)は、ニュージャージー出身のシングルマザー。娘のベッカ(リディア・フレミング)がフィギュアスケートの世界選手権へ出場することになり、開催地のマドリードまで同行してきた。ジェニーは過保護な母親で、反抗期のベッカと口げんかが絶えない。
それは突然のことだった。ホテルから外出しようとしたジェニーは、エレベーターで何者かに襲われる。彼女は眠らされ、拉致されたーー。
ジェニーが意識を取り戻すと、ダークスーツに黒いサングラスの男(キリアン・オサリヴァン)が待っていた。男はCIAのチョウンシー・ルーだと名乗る。そして、彼女が伝説のロシア人スパイ、“The Whisper”だと糾弾した。
“The Whisper”ことアーニャ・ペトロワは、‘90年代にアメリカで5人の要人を暗殺した。美人で頭脳明晰、諜報技術・格闘技・銃器の扱いに長けている。しかもアーニャは、KGB(旧ソビエト連邦国家保安委員会)による遺伝子操作実験の唯一の成功例だった。彼女はある特殊能力をもつミュータントなのだ。
ところがソ連崩壊時の混乱に乗じて、アーニャはこつ然と姿を消した。
彼女は密かにアメリカに渡った。一般市民となり、結婚し、娘を生んだ。CIAは、アーニャ・ペトロワがジェニー・フランクリンであることを突き止めた。
ジェニーに残された道は2つ。無期懲役に服して、ベッカにスパイの娘という汚名を一生背負わせるか。あるいはCIAに寝返って、今の生活を維持するか。ジェニーに選択の余地はなかった。
その頃マドリードでは、3人の市民が突然狂気に駆られ、他人を殺傷する事件が起きていた。チョウンシーは背後にロシアの陰謀があると考え、ジェニーに手掛かりを追わせる。
“The Whisper”は復活した!
魅惑のマルガリータ・レヴィエヴァ!
マルガリータ・レヴィエヴァはロシア系のアメリカ人。“The Blacklist”の悪党ジーナ・ザネタコス役、“The Deuce”で演じたバーテンダーのアビー役が印象に残る。本作では、スッピンにメガネのシングルマザー、したたかな社交界の華、ハニートラップを仕掛けるセクシースパイ、冷酷な殺人マシン、異能のミュータントを演じ分けて魅了する。
チョウンシー役のキリアン・オサリヴァンはアイルランド出身。ジェニーへの気持ちが敵視から信頼へ、そして愛情へと変わっていくCIAエージェントを好演した。
ジェニーを助ける凄腕ハッカーのクリスを演じたチャールズ・ブライスは、初の準主役級の配役。ドライなユーモアを提供する。
若き日のアーニャを演じたスターシャ・ミロスラフスカヤ、アーニャのKGBハンドラーとなるスベトラーナ役のアリョーナ・フメリニツカヤを筆頭に、多くのロシア人俳優が臨場感を高めている。
文句なく“bingeable” 面白さがあらゆる欠点を正当化する!
推理・スパイ小説のファンなら、本作のタイトルにピンとくるはず。ジョン・ル・カレによるスパイ小説の金字塔『寒い国から帰ってきたスパイ』(“The Spy Who Came in from the Cold”、1963)だ。この秀逸な邦題は、確信犯的誤訳と言われている。
“in from the cold”は、「寒い国(ソ連/ロシア)から」ではなく、「(スパイが)休眠状態から復帰すること」を意味するイディオムだ。
ショーランナー(兼共同脚本)のアダム・グラスは、“Cold Case”、“Supernatural”などのメガヒットドラマを手掛けた。マーベルやDC向けにコミックブックも書く、娯楽の王道を往く才人だ。
メインプロットは、ジェニファー・ガーナーがブレークした“Alias”や、マギー・Q主演の“Nikita”を思い出させる。だが、主人公がミュータントとは!
コミックブック的な味付けが、ドラマの世界観を180度変えているのだ。
ストーリーは無茶振りの連続でツッコミどころ満載(気にしない)。鮮やかな嘘のレパートリーと高い戦闘能力で危機を突破していくジェニーに、目が釘付けになる。
また現在進行中の特殊工作と並行して、ジェニー/アーニャのモスクワ時代の訓練や、ニューヨークでの初任務がフラッシュバックで描かれる。このダブルフィーチャーは最後につながる。そして、エンディングに投下される大胆な(というか無理筋の)ツイストに絶句する!
本作の評価は低い(IMDbのスコアはたったの6.2!)。ではなぜ勧めるのか?
なぜなら、Disneyによって(美しく洗練されるも)飼い慣らされたマーベル・ドラマとは違うから。アメコミ作家のドラマらしい強引で荒々しい魅力があるから。文句なく“bingeable”で、面白さがあらゆる欠点を正当化しているからだ。
“In from the Cold”は娯楽度100%、ケレン味たっぷりのスーパー・Sci-fi・ノンストップ・スパイ・アクションドラマなのだ!
邦題は『イン・フロム・ザ・コールド』で、約50分×全8話。ぜひシーズン2も作って欲しい。
Netflixオリジナルでは、“Inventing Anna”(『令嬢アンナの真実』)が期待外れだった。“Grey’s Anatomy”のションダ・ライムズが、鳴り物入りでショーランナーをつとめたドラマなのに。
だから本作は嬉しいサプライズだ。
<今月のおまけ> 「My Favorite Movie Songs」 #65
Title: “Tema Di Arizona”
Artist: Raoul
Movie: “Arizona Colt” (1966)
発表、マカロニ・ウェスタン(英語では“spaghetti western”)のテーマ(ボーカル編)トップ3!
第3位はジュリアーノ・ジェンマ主演の『南から来た用心棒』!(以下次号へ)
Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。
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https://www.jvta.net/blog/5724/
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