これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第93回 “THE TERMINAL LIST”
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今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系、ケーブル系各社に[…]
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi
第93回“THE TERMINAL LIST”
今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
みんなクリス・プラットが大好きなのさ!
本作に対する“Rotten Tomatoes”(評論家等による映画・ドラマ評価サイト)の支持率はわずか40%だが、一般ユーザーの評価は95%だ(本稿執筆時点)。この数字を翻訳すると、「評論家は放っておけ。この作品は滅法面白い。それに、みんなクリス・プラットが大好きなのさ!」という意味になる。
“The Terminal List”は、同名のスーパー・ベストセラーが原作のAmazonオリジナル。クリス・プラットが復讐の鬼と化す、必見の勧善懲悪アクションドラマなのだ!
“The Terminal List”はこうして生まれた!
―シリア、2週間前
ジェームズ・リース(クリス・プラット)は、経験豊富なSEALs(Navy SEALs:米海軍特殊部隊)の少佐だ。今、彼は13名の部下からなるアルファ部隊を率いて、密かに地中海沖からシリアに上陸した。目的は化学兵器を使ったイラン絡みのテロリスト、カハニの暗殺だ。
だが、カハニのアジトにはブービートラップ(仕掛爆弾)が張り巡らされていた。撤退する時間もなく、アルファ部隊は敵からの奇襲攻撃を受ける。作戦は事前に察知されていたのだ。
銃撃戦の末精鋭12人が殺され、生き残ったのはリースと腹心の部下ブーザーだけだった。
―カリフォルニア州サンディエゴ、現在
リースが帰国すると、先に戻っていたブーザーは自殺していた。追い打ちをかけるように、酷い頭痛、記憶障害、幻覚がリースを襲う。精密検査の結果、脳腫瘍が発見された。
さらに、リースは病院で何者かに命を狙われる。返り討ちにしたものの、既にその時点で、妻のローレン(ライリー・キーオ)と一人娘のルーシーは、自宅で惨殺されていた。
もはやシリアでの罠が、カハニやイランの工作とは無関係なことは明らかだった。リースとアルファ部隊を抹殺しようとする、何か不穏な陰謀がここ米国で渦巻いているのだ。
リースは死んだ妻子と部下たちへ復讐を誓った。そして、新聞記者のケイティ(コンスタンス・ウー)、CIAの親友ベン(テイラー・キッチュ)、リースに命の借りがあるパイロットのリズ(タイナー・ラッシング)の協力を受け、事件の真相を探り始める。
リースは自宅にこもり、娘のルーシーが描いた家族3人のクレヨン画を見つめる。それを裏返すと、これから抹殺する者の名前を書いた。―リストは長くなる。
こうして、“The Terminal List”は生まれた。
行け行けプラット!
超売れっ子のクリス・プラットは、大ヒットコメディ“Parks and Recreation”(2009-2015)でブレーク。その後2つのフランチャイズ、『ジュラシック・ワールド』と『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』で、何度も世界を救ってきた。今回は、復讐によって正気を保つSEALsのリーダーを熱演する。
行け行け、プラット!(本人はクリスではなくプラットと呼ばれるのを好むらしい。)
リースを助ける3人のバイプレイヤーが輝く。
気鋭のジャーナリスト、ケイティを演じたコンスタンス・ウーは、スリーパーヒットとなったロマコメ『クレイジー・リッチ!』(2018)で、ゴールデングローブ賞の主演女優賞にノミネートされている。
CIA工作員ベン役のテイラー・キッチュは、スポーツドラマの傑作“Friday Night Lights”でブレークしたイケメンアクター。
パイロットのリズを演じたタイナー・ラッシングは、現在シーズン4が話題の“Stranger Things”(本ブログ第32回参照)に出演中だ。
エルヴィス・プレスリーの孫娘ライリー・キーオが、リースの妻ローレンを好演。
気骨あるFBI捜査官レイウンに扮するのは、“Mayans M.C.”(本ブログ第61回参照)で強面の主役イージーを演じるJ・D・パルド。
圧倒的に面白い、この事実がすべてだ!
製作総指揮には、クリス・プラットに加えて『トレーニンングデイ』 『イコライザー』の監督アントワーン・フークア(兼共同監督)、原作者のジャック・カーが名を連ねる。
ジャック・カーは指揮官まで務めた筋金入りの元SEALs隊員で、華麗に作家への転身を遂げた。原作(シリーズ第1作、2018)は、スティーヴン・ハンター(“Shooter”の原作者、本ブログ第35回参照)、リー・チャイルド(Amazonの超お勧めドラマ“Reacher”の原作者)、マーク・グリーニー(R・ゴズリング主演のNetflix製映画『グレイマン』の原作者、今月配信開始)など、このジャンルの大御所たちから絶賛された(筆者も一気読み!)。
「ジェームズ・リース・シリーズ」は既に5冊出版され、いずれも全米でベストセラーになっている。
ドラマ化にあたっては、リアリティを追求しながらも派手なアクションシークエンスが追加された。ディテールもかなり変更され、原作で気になった不自然な箇所も修正されている。白熱の銃撃戦、リアルな暗殺シーン、凄絶な脱出行、驚愕の陰謀など、各エピソードは見どころ満載。みごとな脚色だ。
(余談だが、ドラマでは人気のNCIS(米海軍犯罪捜査局)が悪役で登場するのが笑える。)
評論家による本作の評価が不当に低いことには理由がある。まず主演のクリス・プラットが典型的なエンタメ俳優で、玄人受けしないこと。また彼の共和党派っぽいイメージは、ハリウッド主流のクルーニーやディカプリオとは正反対。要するに、リベラルな評論家から嫌われているのだ。
リースが妻子と部下全員を失い、脳腫瘍まで患うという初期設定も「やり過ぎ感」がある。だが復讐を正当化し、視聴者にカタルシスを与える効果は絶大だ。
本作のようなエンタメ大作に評論家は不要。何より作品を観て圧倒的に面白い、この事実がすべてではないか。
“The Terminal List”は、すべてを失った男の哀しさが画面にあふれ、SEALsの凄さが画面から飛び出す、必見の勧善懲悪アクションドラマなのだ!
原題:The Terminal List
配信:Amazon
配信日:2022年7月1日
話数:8(1話約60分)
©Amazon Studios
<今月のおまけ> 「My Favorite Movie Songs」 #68
Title: “We Have All the Time in the World”
Artist: Louis Armstrong
Movie: “On Her Majestic Secret Service” (1963)
映画の邦題は『女王陛下の007』、地味だけれど隠れた佳作。
この曲は最新作『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』でも使われていたね。
Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。
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