これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第94回 “The Offer”(『ジ・オファー ゴッドファーザーに賭けた男』)
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今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系、ケーブル系各社に[…]
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi
第94回“The Offer”(『ジ・オファー ゴッドファーザーに賭けた男』)
今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
“I’m gonna make him an offer he can’t refuse”
(Don Vito Corleone from “The Godfather”)
あなたがただ、映画ファンであればいい!
いやあ、面白かった! 今のところ、本年度のベストドラマだよ、これは。
本作を楽しむのに、『ゴッドファーザー』(1972)のファンである必要は全くない。あなたがただ、映画ファンであればいい。
“The Offer”はParamount+オリジナル/U-NEXT独占配信による、実話ベースのリミテッドシリーズ。
映画の魔法に魅せられた者たちの生きざまが、圧倒的な量のトリヴィアと共に活写される、目のくらむようなエンターテインメントなのだ!
“I’m going to make an ice-blue, terrifying film about people you love” (Al Ruddy)
(1969-1972年頃のお話)
―ニューヨーク
マリオ・プーゾ(パトリック・ギャロ)は売れない作家で、ギャンブルの借金を抱えていた。彼は妻から叱咤激励され、起死回生の一作『ゴッドファーザー』を書き上げる。それはマフィア、殺人、イタリア移民、家族、人生の物語だった。
その頃、狡猾な策士ジョー・コロンボ(ジョヴァンニ・リビシ)が率いるコロンボ・ファミリーは、NY5大ファミリーへと昇格した。
―ロサンゼルス
CBSの脚本家アル・ラディ(マイルズ・テラー)は、映画製作が長年の夢だった。彼は親会社であるパラマウントの辣腕プロデューサー、ロバート・エヴァンス(マシュー・グード)を口説き落とし、同社へ移籍した。
ベティ・マッカート(ジュノー・テンプル)は情報通で機転が利く、ラディの新しい秘書。ともに母子家庭に育った映画狂の二人は、すぐに意気投合する。
パラマウントは深刻な経営難だった。『ローズマリーの赤ちゃん』以後ヒット作がなく、リー・マーヴィンがクリント・イーストウッドと共演したミュージカル『ペンチャー・ワゴン』は大コケした。残るは公開が近い『ある愛の詩』と、企画段階の『チャイナタウン』だけ。キャッシュを稼ぐ低予算のヒット作が今すぐ必要だった。
プーゾの新作『ゴッドファーザー』は大ベストセラーとなった。幸いパラマウントは、出版前にこの小説の映画化権を買い叩いていた。エヴァンスは映画化にゴーサインを出し、ラディをプロデューサーに指名する。ただし、予算はたったの4百万ドルだ。
ラディはフランシス・フォード・コッポラ(ダン・フォグラー)に、プーゾとの共同脚本と監督を依頼した。コッポラは破産寸前で安く雇えたのだ。
だが、ラディはコッポラの完璧主義を甘く見ていた。
そして、『ゴッドファーザー』に否定的なNYマフィアの上層部は、ジョー・コロンボに映画化潰しを命じた。
MVPはジュノー・テンプル!
アル・ラディ役のマイルズ・テラーは、『セッション』(2014)の主演で広く認知された。メガヒット中の『トップガン マーヴェリック』では’ルースター’を演じて、日本でも顔なじみだ。本作では35歳とは思えない円熟した演技で、頭の切れる腹の据わった新米プロデューサーを好演した。
ラディの上司エヴァンスを演じたマシュー・グードは、エイミー・アダムスと共演したラブコメ『リープ・イヤー うるう年のプロポーズ』(2010)が記憶に残る。エヴァンスと妻アリ・マッグローとの破局シーンは忘れ難い。
ジュノー・テンプルは、スポーツコメディ”Ted Lasso”(第76回参照)で2度エミー賞にノミネートされている。本作では、男尊女卑の映画業界で、上司を献身的にサポートしながら自分の夢も実現していくベティを力強く演じた。本作のMVPはテンプルだ。
フランシス・フォード・コッポラ役のダン・フォグラーは、『ファンタスティック・ビースト』シリーズのジェイコブ・コワルスキー役で名高い。コッポラにしては小柄なのだが、入魂の演技でエピソードの進行とともに違和感は霧消する。
ジョー・コロンボ役のジョヴァンニ・リビシは、痛快なコンゲーム・ドラマ”Sneaky Pete”(第31回参照)でタイトルロールを演じた。本作では、ラディとの不可思議な友情を育てていくマフィアの顔役を、得意の’泣き虫顔’で渋く演じる。
さらにマリオ・プーゾ役のパトリック・ギャロを加え、計6人が鮮やかなアンサンブルキャストを織りなす。
ハリウッドが元気だった’70年代の鼓動が聞こえる!
今年製作50周年を迎えた『ゴッドファーザー』は、『市民ケーン』 『カサブランカ』などと並んで、アメリカ映画史上最も評価の高い作品だ。この世紀の傑作を’おかず’にしたせいか、本作に対する”Rotten Tomatoes”の支持率はわずか57%(またかよ!)。今年のエミー賞からも完全に無視された。
だが、アメリカの映画・ドラマファンはよく分かっていて、一般ユーザーの評価は何と97%だ! (データは本稿執筆時点。)
ストーリーや登場人物の言動はアル・ラディの’個人的体験’がベースで、多少うさん臭さい(面白いので許す)。
ショーランナー(兼共同脚本)のマイケル・トルキンは、本作を重すぎず軽すぎない絶妙なトーンに統一した。その躍動感は『蒲田行進曲』(1982)を彷彿させ、ハリウッドが元気だった‘70年代の鼓動が聞こえてくるようだ。
本作の大きな魅力は、人気アクターたちの逸話やトリヴィアの数々だ。若々しく生意気なロバート・レッドフォード、可憐でしたたかなアリ・マッグロー、傲慢なフランク・シナトラ、気難しいマーロン・ブランド、無名のころの神経質なアル・パチーノらが登場する(パチーノ以外はあまり似ていないが大目に見て欲しい)。
さらに、『明日に向かって撃て!』のメキシコ・ロケ、パチーノとデ・ニーロの仰天トレード話など、映画ファン垂涎のシーンが頻出する。事務所に飾られている映画ポスターの一枚一枚までが気になってしまう。
不退転の決意で映画製作に邁進する’チーム・ラディ’の雄姿は、観る者の胸を打つ。同時に、歴史的傑作が世に出るまでの「ハリウッドのお仕事」が、疑似体験できる。
映画の魔法に魅せられ、ショービジネスの世界で生きることを選んだ者たち—。“The Offer”は、彼らの生きざまを圧倒的な量のトリヴィアと共に活写する、目のくらむようなエンターテインメントなのだ!
原題:The Offer
配信:U-NEXT
配信日:2022年7月15日
話数:10(46-64分)
© 2022 Paramount Pictures. All Rights Reserved.
<今月のおまけ> <今月のおまけ> 「My Favorite Movie Songs」 #69
Title: “It Must Have Been Love”
Artist: Roxette
Movie: “Pretty Woman” (1990)
ホテルの優しい支配人を演じたヘクター・エリゾンドが絶品だった。
この曲は、『ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋』(2019)でも効果的に使われていた。
Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。
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https://www.jvta.net/blog/5724/
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