これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第97回 “THE BEAR”(『一流シェフのファミリーレストラン』)
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今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系、ケーブル系各社に[…]
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi
第97回 “THE BEAR”(『一流シェフのファミリーレストラン』)
今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
グルメ・ドラメディ第2弾は衝撃的な面白さ!
このドラマの配信を待ち望んでいたのだが、邦題が地味過ぎて危うく見逃すところだった。アドレナリン全開の本作は、もっと力強く煽情的なタイトルじゃないと。『ザ・ベア:俺の炎上キッチン!』みたいな。
“The Bear”はDisney傘下のFXが制作、日本ではDisney+のSTAR内にひっそりと眠る宝石のような作品。前回紹介した“Julia”とは趣が異なりスピーディでスリリング、衝撃的に面白いグルメ・ドラメディ(コメディ・ドラマ)なのだ!
キッチンは戦場、シェフは戦闘モード!
—イリノイ州シカゴ、リヴァーノース
“The Original Beef of Chicagoland”(通称“The Beef”)は、イタリアンビーフ・サンドイッチをメインに売るイートイン・デリ。カブスファンよりホワイトソックスファンが多い廃れた地域にある。客層は低所得者で、店の近くではヤクの売人がたむろしている。
“The Beef”のキッチンは毎日が戦場だ。早朝から仕込みを始め、午後3時から10時までの営業時間に備える。開店と同時に客は引きも切らずに詰めかける。とにかく忙しい。だが、7人の従業員を抱えた薄利多売のビジネスは自転車操業で、ちっとも儲からない。
カーミー(ジェレミー・アレン・ホワイト)は、かつてはNYの超一流フレンチレストランで働く、全米屈指の若手シェフだった。だが、シェフ長からのハラスメントと過酷な競争から生じるストレスは凄まじい。長くは続かず、彼は無一文で、身も心もボロボロになって生まれ故郷に戻ってきた。
今は4か月前に自殺した兄マイケルの後を継いで、“The Beef”でサンドイッチを作っている。
リッチー(エボン・モス=バクラック)は“The Beef”の共同経営者で、マイケルの親友だった。きつくて頑固な性格は客商売向きではなく、カーミーともそりが合わない。
シドニー(アイオウ・エディバリー)は新入りだが、有名料理大学出身の才媛。“The Beef”は父親のお気に入りだった。彼女の夢は、この店を一流レストランに変貌させることだ。
レストラン業はシビアで、“The Beef”には問題が山積みだ。カーミーは料理を作るだけでなく、資金繰り、非効率な作業システム、クセの強い従業員たち、事故、それに不運と毎日格闘する羽目になる。
キッチンは一瞬も落ち着くことがない。
カーミーは常に戦闘モードだ!
ジェレミー・アレン・ホワイト、一世一代のハマリ役!
カーミー役のジェレミー・アレン・ホワイトの代表作は、やはりシカゴを舞台にしたSHOWTIME最長の大爆笑ドラマ“Shameless”(2011-2021)。完全機能不全のギャラガー家の長男、秀才でクールなリップを全シーズン演じた。本作では精神的に壊れた天才シェフをエネルギッシュに体現し、その魅力と演技力を存分に発揮する。カーミーは、ホワイト一世一代のハマリ役だ。
リッチー役のエボン・モス=バクラックの顔を見ると、怒涛の海洋アクションドラマ“The Last Ship”(2014-2018)で演じた、精神がねじ曲がった科学者ニルスを思い出す。最近では、“Andor”( 『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』のスピンオフドラマ)にも出演している。
頭脳明晰なシドニー役のアイオウ・エディバリーは、コメディアン&コメディ・ライター。本役では、ジョークを抑えてカーミーのサポート役に徹する。
さらに、パン焼き係からデザートの研究家へ転身するマーカス役のライオネル・ボイス、“The Beef”のお局様ティナを演じるライザ・コロン・ザヤスを加えて、5人のアンサンブルキャストには強烈なケミストリーが働く。
激写されるキッチンの狂気!
ショーランナー(兼共同監督兼共同脚本)のクリストファー・ストーラーは、コメディ畑一筋。特にコメディ・スペシャル(スタンダップ・コメディアンのショー)でキャリアを築いてきた。
ストーラーはロングショットとクローズショットを駆使したカメラワークで、絶望的なカオスと化すキッチンの狂気を激写する。圧巻なのは第7話だ。わずか21分のエピソードだが、冒頭数分の後はクレイジーなキッチンバトルがワンショットで撮られている。
カーミーにとって“The Beef”は唯一の拠り所だ。負のスパイラルから抜け出し、自分の人生を立て直さねばならない。原題の“The Bear”はカーミーが子供のころのニックネームだが、シーズンフィナーレでより大きな意味を持つ。“The Beef”のメンバーは、自分が少しずつスキルアップしながら役立っていることを実感する。自信はお互いのリスペクトを育む。彼らはカーミーをリーダーとして認め、やがて疑似家族となる。
このチームビルディングのプロセスが素直に心にしみてくるのは、キャラクターアーク(人物の成長や変化の軌跡)を抜かりなく描いているからだ。本作はドラメディと言っても、コメディよりドラマ性が強い。
カーミーの激しい感情的起伏はドラマのテンションを爆発的に増幅させ、視聴者はその疾走感にハマる。強い中毒性があり、第1話からアドレナリン全開、休みなしでイッキ観させる。
制作が決まったシーズン2が待ちきれない。
“The Bear”は、乱立する日本の動画配信サービスの中に埋もれた宝石だ。下手なアクションドラマやクライムドラマよりスピーディでスリリング、衝撃的に面白いグルメ・ドラメディなのだ!
原題:The Bear
配信:Disney+
配信日:2022年8月31日
話数:8(1話 21-48分)
<今月のおまけ> 「My Favorite Movie Songs」 #72
Title: “Born Free”
Artist: Matt Monro
Movie: “Born Free” (1966)
『野生のエルザ』、懐かしい。マット・モンローは『ロシアより愛をこめて』だけではないよ。
Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。
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