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これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第98回 “Lost Ollie”(『オリー』)

これがイチ押し、アメリカン・ドラマ  第98回 “Lost Ollie”(『オリー』)
    今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系、ケーブル系各社に[…]

    “Viewer Discretion Advised!”
    これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
    Written by Shuichiro Dobashi 

    第98回 “Lost Ollie”(『オリー』)
    “Viewer Discretion Advised”は海外の映画・テレビ番組等の冒頭で見かける注意書き。「バイオレンスやセックス等のコンテンツが含まれているため、視聴の可否はご自身で判断して下さい」という意味。

    今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
     


     

    あなたのハートを貫く、パッチワークのウサギの物語!
    本年最後にとっておきの隠し玉を紹介する。
    それはパッチワークのウサギが主人公の実写/CGアニメーション。Netflixオリジナルのリミテッドシリーズで、わずか4話の小品だ。
     

    “Lost Ollie”は、美しくも哀しい愛と友情と勇気の物語。あなたのハートを貫き、深い感情を呼び起こす、最高のクリスマス・プレゼントなのだ!
     

    “How long we been friends?”
    —ケンタッキー州近郊
    リサイクルショップにある段ボールの箱の中で、オリーは目覚めた。オリーは長いたれ耳を持つ、体長約15センチのパッチワークのウサギだ。
    「ここはどこ?」
    「僕はどのくらい眠っていたのだろう?」
    「ビリーはどこ?」
     

    オリーは、ビリーのかすかな記憶以外は何も思い出せなかった。
    「ビリーの元へ帰らなきゃ」
     

    4歳のビリー(ウィリアム・カーソン)はワイルズ家の養子だ。彼はシャイで、唯一の友人オリーといつも海賊ごっこをしている。母親(ジーナ・ロドリゲス)はガンの末期だが、貧しくて治療が受けられない。それでも、ビリーにはいつも明るく優しく接している。父親(ジェイク・ジョンソン)は善良な人間だが、プレッシャーに押しつぶされそうだ。息子にもどう接していいか分からない。
     

    ある日、ビリーはオリーを失った。何が起きたんだ?
    ビリーはオリーを探すために家を抜け出した。
     

    オリーは、リサイクルショップに住むピエロの人形ゾゾと出会う。ゾゾにはニーナという操り人形の恋人がいたが、離れ離れになって久しい。オリーは、協力してビリーとニーナを探し出そうとゾゾに持ちかける。
    オリーとゾゾがショップから脱出すると、狂暴な飼い犬が襲いかかってきた。彼らを危機から救ったのは、テディベアの海賊剣士ロージーだった。どうやらロージーは、ゾゾの昔からの知り合いらしい。
     

    ロージーも旅に加わった。彼らはオリーの記憶の断片を頼りに、オハイオ川を南下する船に乗った。
    オリー、ゾゾ、ロージーの波乱万丈の旅が始まった!
     

    オリーに魂を吹き込んだジョナサン・グロフ!
    オリーの声を担当したのは、ブロードウェイ出身のジョナサン・グロフ。『アナと雪の女王』 『ハミルトン』 ”Glee”など、ミュージック系作品が代表作だ。また迫真のサイコスリラー”Mindhunter”で演じた、主役のFBI捜査官フォードも忘れ難い。
    子役ではなく37歳のグロフが、オリーに魂を吹き込んだのだ。
     

    ジーナ・ロドリゲスは、大ヒットコメディ”Jane the Virgin”(2014-2019)でタイトルロールを演じ、ゴールデングローブ賞の主演女優賞を受賞している。女性版ルパン三世”Carmen Sandiego”(本ブログ第83回参照)では、カルメンの声を担当。本作では、優しさあふれるビリーの母親を好演した。
     

    ビリーの父親を演じたジェイク・ジョンソンは、”New Girl”(2011-2018)のルームメイト、”Stumptown”(本ブログ第89回参照 )のバーテンダーなど、主役女性の親友役でいい味を出す。
     

    また、ロージーの声を”The Umbrella Academy”(本ブログ第80回参照)の殺し屋チャチャことメアリ-・J・ブライジが、ゾゾの声を“Watchmen”のティム・ブレイク・ネルソンが担当している。
     

    「とても哀しいハッピーエンド」って何だ?
    原作は、ウィリアム・ジョイスの子供向け小説”Ollie’s Odyssey”。ショーランナーのシャノン・ティンドルは、ストーリーとキャラクターの奥深さを徹底的に追求した。その結果、本作は老若男女を問わず、圧倒的な感動を与えるアニメドラマに仕上がった。
    全エピソードを監督したピーター・ラムジーは、傑作アニメ『スパイダーマン:スパイダーバース』(2018)で、アカデミー賞&ゴールデングローブ賞アニメ部門の最優秀作品賞を受賞している。
     

    本作最大の魅力は、オリー、ゾゾ、ロージーのキャラクターの深さだ。ILM(”Industrial Light and Magic”)による特撮は、彼らを完全に実写に溶け込ませ、アクターとの境界線をなくしてしまった。
    サイドストーリーも魅力に富んでいて、オリーの出生秘話、ゾゾとニーナのラブストーリー、ゾゾとロージーの出会いには胸が熱くなる。
     

    「迷子のオモチャが持ち主の少年の元に帰る旅」—出だしは『トイ・ストーリー』の亜流かと思うが、そんなヤワな話ではない。(誤解のないように言っておくと、筆者は『トイ・ストーリー』のファンだ。)
    物語はシリーズ半ばで突如ダークサイドへと向かい、予測不能となる。このころには、観る者はオリーたちオモチャを実体のあるキャラとして捉えていて、いつのまにか感情移入させられている。やがて残酷な事実が明かされ、希望が打ち砕かれていく。いったいどんな結末が待っているのか、心配で居ても立っても居られなくなる。
     

    愛と友情と勇気の物語だが、苦い真実が胸に突き刺さる。「ほろ苦い」のではなく「苦い」のだ。喪失感は大きいが、全編心地よい優しさに包まれている。「冷酷さ」と「寛容さ」を兼ね揃えたストーリーは、高い満足感を与えてくれる。そして結末は、「とても哀しいハッピーエンド」だ。
    “Lost Ollie”はあなたのハートを貫き、深い感情を呼び起こす、最高のクリスマス・プレゼントなのだ!
     

    Netflix会員のあなた、騙されたと思って本作を覗いて欲しい。「とても哀しいハッピーエンド」に心を打たれるから。
     

    原題:Lost Ollie
    配信:Netflix
    配信日:2022年8月24日
    話数:4(1話 41-51分)
     

    尚、CGアニメと言えば、”Star Wars: Tales of the Jedi”(Disney+)はファン必見。タイトル通り、『スター・ウォーズ:エピソード1~3』に登場するジェダイたちが勢ぞろいする。全6話をイッキ観しても正味1.5時間以下のショートシリーズだが、今年配信された”The Book of Boba Fett”、”Obi-Wan Kenobi”、”Andor”より面白い。
     

    <今月のおまけ> 「My Favorite Movie Songs」 #73
    Title: “It Had to be You”
    Artist: Frank Sinatra
    Movie: “When Harry Met Sally” (1989)

    『恋人たちの予感』も今やクリスマス・クラシック。年は取りたくない。

    写真Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。
     
     

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    同コラム執筆の土橋秀一郎さんがJVTAのYouTubeチャンネルに登壇しました!
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