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これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第99回 “MOTHERLAND: FORT SALEM”

これがイチ押し、アメリカン・ドラマ  第99回 “MOTHERLAND: FORT SALEM”

今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系、ケーブル系各社に[…]

“Viewer Discretion Advised!”
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi 

第99回 “MOTHERLAND: FORT SALEM”
“Viewer Discretion Advised”は海外の映画・テレビ番組等の冒頭で見かける注意書き。「バイオレンスやセックス等のコンテンツが含まれているため、視聴の可否はご自身で判断して下さい」という意味。

今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
 


 

軍服を着た魔女たちが大活躍する壮大なホラ話!
新春第一弾はDisney傘下のFreeformが制作、Disney+が配信する壮大なホラ話。これが悶絶するほど面白い。
“Motherland: Fort Salem”は、軍服を着た魔女たちの終わりなき怒涛の戦いを描く、必見のSci-fiファンタジー・ミリタリーアクション・メロドラマなのだ!(これだけ形容詞のつくドラマは滅多にないぞ!)
 

“Rise of the Spree”
—アメリカ合衆国マサチューセッツ州フォート・セーラム、2019年
女性が支配し、一般人と魔女が共存共栄するパラレルワールド。
魔女によるテロリスト・グループ「スプリー」(“The Spree”)が、各地で暗躍している。変身能力を持つスプリーのメンバーは、一般人に化けて大量殺人を繰り返す。陸軍省所属の魔女軍団は守勢一方で、戦力の立て直しが急務だった。
 

戦いの発端は今から327年前。サラ・アルダー将軍(リン・レネー)率いる魔女軍団は、一般人を代表する植民地軍と「セーラム協定」(“Salem Accord”)を結んだ。植民地軍は、魔女裁判(“Salem witch trials”)を止める。その見返りに、魔女軍団は協定に反対する魔女グループと戦うという内容だった。
その戦争が、未だに続いている。スプリーは、レジスタンスの末裔なのだ。
 

今日は「徴兵日」。
全米各地の若い魔女たちが、陸軍基礎訓練学校に入隊した。この施設は、今も現役のアルダー将軍が統括している。新兵たちは一等兵(“private”)として士官学校(“War College”)入学を目指す。競争は過酷で、脱落すると消耗品として戦争の最前線へ送られる。
 

ラエル・コラー(テイラー・ヒックソン)は、ミシシッピ川沿いのチペワ割譲地出身。軍人の母親が戦死し、投げやりになって徴兵に応じた。ラエルは病人や怪我人を癒す不思議な力を持つ。
 

アビゲイル・ベルウェザー(アシュリー・ニコール・ウィリアムズ)は、NYのエリート軍人一家の出身だ。母親が現役の将軍であることから、親の七光りを何より嫌がる。彼女は高い戦闘能力を持ち、自分にも他人にも厳しい。
 

タリー・クレイブン(ジェシカ・サットン)は、カリフォルニア州サクラメントの母子居留地出身。タリーは母親の猛反対を押し切って入隊した志願兵だ。敵を察知する特殊な視覚能力を持つ。
 

ラエル、アビゲイル、タリーはルームメイトになるが、相性の悪いラエルとアビゲイルは激しく対立する。
 

厳しい基礎訓練が始まった。
魔女たちの主要な武器は、「シード」(“Seed”)と呼ばれる異なる音域の「声」だ。ボイストレーニングによって威力を高め、これに高度な武術を絡める。
 

3人組は心身ともに未熟なまま、スプリーとの凄絶な戦いに巻き込まれていく!
 

世界観にマッチした国際色豊かなアクターたち!
本作のメインキャラクターを演じたのは、アビゲイル役のアシュリー・ニコール・ウィリアムズを除き、ほとんどが非アメリカ人アクターだ。
 

テイラー・ヒックソンはカナダ出身。屈折していて影があるが、芯が強くて凛とした魅力のあるラエル役にピタリとはまった。
ラエルと恋に落ちる謎の先輩兵士シラ役のアマリア・ホルムは、ノルウェー出身。タリー役のジェシカ・サットンは南アフリカ、アルダー将軍役のリン・レネーはベルギー出身だ。
豊かな国際色は、ドラマの世界観に見事にマッチしている。
 

聞き慣れないアクターばかりだが、演技力は一級品でアクションも達者にこなす。3人組にはエピソードが進むに連れて強いケミストリーが働く。
 

世界を変えていく3人の魔女たち!
ショーランナー兼共同脚本のエリオット・ローレンスは、出版には至らなかったものの長大な原作を執筆した。おかげで本作は、確固たる世界観を持ち(これ、Sci-fiドラマで最も重要)、荒唐無稽半歩手前でストーリーが破綻せず、脚本は意外と緻密だ。
この手のホラ話はディテールで手を抜くと、単なるB級作品に成り下がる。ローレンスがパラレルワールドの小さなつくり話を丹念に積み重ねたことによって、臨場感や質感が生まれた。
 

蛇足だが、「スプリー」(“spree”)は犯罪ドラマの頻出単語。短期間での無差別殺人者が”spree killer”で、一定の期間をおく連続殺人者を意味する”serial killer”と区別される。(“Criminal Minds”のファンは知っているよね。)
 

本作の魅力は、まず主人公3人のカッコよさだ。ラエル、アビゲイル、タリーの軍人としての成長を通して、堅固なキャラクターアーク(人物の成長や変化の軌跡)が形成される。3人は数々の苦難と悲惨な戦闘を乗り越え、友情と絆を育みながら、人としても成熟していく。
次が、魔女と軍隊ドラマのマッチングの妙だ。魔術と軍隊式アクションを組み合わせた戦闘シーンは迫力満点。魔女であっても一般人同様に負傷するし戦死もする。恐怖を感じるし、PTSD(心的外傷後ストレス障害)も患うのだ。
3つ目がラエルとシラの苦く切ないラブストーリー。戦時下の閉塞感、常に死と向き合う不安感が、2人のロマンスを燃え上がらせる。これだけでメロドラマがひとつ作れるくらい感動的だ。
 

ストーリーは意外と奥が深い。
軍人の「尊厳」(“dignity”)「奉仕」(“service”)「義務」(“duty”)「名誉」(“honor”)「勇気」(“bravely”)の意味を問いながら、高揚感を盛り上げる。その一方で戦争の残酷さや虚しさまで踏み込み、反戦ドラマ的な要素も織り込む。例えば、重要な役割を担う平和主義者のタリム族は、途方もない力を生む「歌」の武器化を拒否し、それゆえに全滅寸前という設定だ。
さらに、国民が魔女と一般人とに分断される現象は、現実社会を投影している。
 

シーズン2では、3人組が晴れて士官候補生(“cadet”)に昇格。スプリーに加えて魔女の仇敵「カマリア」が登場し、三つ巴のストーリーが縦横無尽に展開する。シーズン3はSci-fiファンタジーらしく、3人の魔女が「死と憎悪の世界」を変えようと奮闘する。
 

“Motherland: Fort Salem”はサービス満点見どころ満載、悶絶する面白さのスーパーエンターテインメント。軍服を着た魔女たちの成長、友情、恋愛、そして終わりなき怒涛の戦いを描く、必見のSci-fiファンタジー・ミリタリーアクション・メロドラマなのだ!
 

本作は、昨年10月に配信が始まったシーズン3をもって完結した。
尚、本作によく似た作風のNetflixオリジナル“Warrior Nun”(邦題『シスター戦士』)もお勧めだ。
 

原題:Motherland: Fort Salem
配信:Disney+
配信日:2022年3月16日(S1-2)、2022年10月5日(S3)
話数:30(1話 41-52分)
 

<今月のおまけ> 「My Favorite Movie Songs」 #74
Title: “Because You Loved Me”
Artist: Celine Dion
Movie: “Up Close & Personal” (1996)


映画の邦題は『アンカーウーマン』。
セリーヌ・ディオンの映画主題歌ベストは、『タイタニック』のテーマではなくこの曲だ。
 

写真Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。
 
 


 

※※特報
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