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狡猾で饒舌なユダヤ・ハンター クリストフ・ヴァルツin『イングロリアス・バスターズ』

狡猾で饒舌なユダヤ・ハンター クリストフ・ヴァルツin『イングロリアス・バスターズ』

【最近の私】夏に公開されている大作映画以外では、『ナイトクローラー』が気になります。主演がジェイク・ギレンホールなので、観てみたい。
 

今年は戦後70年とあって、終戦直前の真実を描いた映画『日本のいちばん長い日』が公開され、CSでも戦争映画が特集されている。今回はクエンティン・タランティーノ監督が第二次世界大戦中のナチス占領下のフランスを描いた『イングロリアス・バスターズ』で悪役を演じたクリストフ・ヴァルツを紹介したい。
 
 

1941年のナチス占領下のフランス。ランダ大佐(クリストフ・ヴァルツ)が率いるドイツ軍が、逃亡しているユダヤ人を追って、小さな村にやってくる。ランダ大佐はユダヤ・ハンターという異名を持ち、ユダヤ人たちに恐れられていた。ランダはある家に目を付け、その家の主人と話をする。ちなみに、大佐はドイツ人だが、主人とはフランス語で話す。そして、ある時点でランダは「私のフランス語では、これが限界だ。あなたは英語を話せるね。だから英語で話をしよう」と持ちかけるのだ。
 
 

過去のアメリカの戦争映画では、アメリカ人はもちろん、フランス人やドイツ人まで英語を話している作品が多い。『ワルキューレ』でもトム・クルーズが最初はドイツ語を話していたが、ある時点から英語に変わったし…。本当はフランス語やドイツ語での会話の方がリアリティがあるが、(アメリカの観客には英語の方が)分かりやすいから英語にしようというわけだ。
 
 

自分が初めて『イングロリアス・バスターズ』を観た時、「やっぱり、ここから英語になるのか」と思い、がっかりしたのだが、実はもっと深い意味があった。ランダ大佐は何気ない会話から言葉巧みに主人を尋問し、この家の床下にユダヤ人一家が隠れていることを聞き出す。一家は英語が分からないから、大佐と主人の会話を理解できない。だから英語で話そうと持ちかけたのだ。何とも頭の切れる、恐ろしい大佐である。その後、隠れていたユダヤ人一家はドイツ兵によって射殺されるが、1人生き残った娘ショシャナ(メラニー・ロラン)が床下から走って逃げようとする。大佐は走っているショシャナに拳銃を向けて撃とうとするが、「ま、いいか」と見逃す。
 
 

一方、アルド・レイン中尉(ブラッド・ピット)率いるアメリカ軍の秘密部隊“イングロリアス・バスターズ”は捕えたナチス兵を次々と虐殺し、ドイツ軍にとって脅威となっていた。フランスのある映画館でナチスのプロパガンダ映画を上映するイベントが開催され、ヒトラーやナチス幹部が集まることが決まる。実はこの映画館を経営するのが、ランダから逃れて生き延びたショシャナなのだ。
 
 

ヒトラー暗殺のためにバスターズはイタリア人に扮して(片言しかイタリア語が話せないのに!)この映画館に潜入するが、イベント前のパーティでランダ大佐に出会う。ランダ大佐にイタリア語で話しかけられても、満足に答えられないバスターズ。それが発端かランダ大佐に怪しまれ、バスターズは捕まってしまう。暗殺計画を知ったランダは、アルド中尉の上官に掛け合い、ヒトラー暗殺作戦に自分も参加したことにして、戦争を終わらせた英雄になり、アメリカに亡命しようとする。しかもランダは、アメリカ軍に対してアメリカに永住できる市民権、さらにお金だけではなく将来の年金、不動産まで要求するという、抜け目のない男なのである。大勢のユダヤ人を殺し、自分が生き残るためにはドイツも見捨てる。ずる賢く立ち回って自分だけ生き延びようとするなんて、許せないですね。
 
 

ランダが果たしてどんな結末を迎えるのかは、映画をぜひ観ていただきたい。ランダを演じたクリストフは、この役でアカデミー助演男優賞、カンヌ国際映画祭で男優賞、他にも数多くの賞を獲得した。狡猾で饒舌だが、相手の心を巧みに読んで、観る者に言葉や表情で圧力と恐怖心を感じさせる演技は、納得の受賞である。
 
 

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Written by 鈴木 純一(すずき・じゅんいち)

映画を心の糧にして生きている男。『バタリアン』や『ターミネーター』などホラーやアクションが好きだが、『ローマの休日』も好き。
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戦え!シネマッハ!!!!
ある時は予告編を一刀両断。またある時は悪役を熱く語る。大胆な切り口に注目せよ!