明けの明星が輝く空に 第103回 特撮俳優列伝11西田健
【最近の私】『ジュラシックワールド/炎の王国』は、メイジーという少女の存在がなければ、作品としてどうだったか…。彼女が最後にとった行動は、漫画版『風の谷のナウシカ』のナウシカを思い出させた。次作での活躍を期待する!
ドラマにせよ映画にせよ、記憶に残る登場人物、名キャラクターは、それを演じた俳優の存在抜きには語れない。昭和のウルトラシリーズにおける特殊防衛組織のメンバーには、個性的なキャラクターが多かったが、中でもMATの岸田隊員(『帰ってきたウルトラマン』1971年~1972年)は忘れがたい存在だ。その岸田隊員を演じたのが、今回紹介する西田健氏である。
キャスティング当時、西田さんはまだ劇団の研究員だったそうだ。だから岸田隊員は、西田さんの役者としての出発点とも言えるわけで、ご本人も後年「岸田は僕のキャラクターの原点」とまで語っている。
その岸田隊員という人物像を表す、いくつかの言葉を挙げておこう。それは「エリート」、「冷徹」、「頑固」、そして「プライドが高い」。そんな男が、MATの一員として未熟な主人公、郷秀樹と、ことあるごとに対立するのだ。一種の敵役である。子どもたちから見れば、なんとも“嫌なヤツ”だった。
ただし、どんな役でも、演じる役者が大根だったら、らしく見えない。岸田隊員が“嫌なヤツ”に見えたのは、とりもなおさず西田さんの演技力があったからだろう。そこは強調しておきたい点だ。
岸田隊員らしさが存分に発揮されたエピソードとして、第5話「二大怪獣東京を襲撃」を紹介しよう。ある建設現場で発見された不審な物体の調査に出かけた岸田は、少し調べただけでただの岩だと判断する。同行した郷がもっと調べるべきだと言うと、岸田は自分の処理の仕方が不満なのかと詰問。主張を曲げない郷に対し、「そんなに俺が信用できなければ、自分で行って調べろ!」とムキになり仲間に止められる。しかし後日、それは怪獣の卵だったことが明らかになる。それとは別に、とある採石場に怪獣が出現。現場へ向かった岸田は、MAT専用攻撃機アロー号に同乗する郷に攻撃命令を出すが、郷は地上に少女の姿を発見し、命令に従わない。しかし岸田が確認すると、少女などどこにもいなかった。その隙に、怪獣は地中に潜って姿をくらましてしまう。作戦は失敗だ。基地に戻った岸田は、「建設現場での一件で、郷は俺に反感を持っていて、命令に従わなかった」と主張。MATの隊長に対し、郷の処分を願い出る。その結果、郷は三日間の自宅謹慎を命じられてしまった。
このエピソードで、岸田隊員の“悪役”イメージは決定的になった。ところが、番組スタッフは彼をそれだけの人間として扱わず、好感を持てるようなエピソードも、比較的早い段階で用意していた。それが第11話「毒ガス怪獣出現」で、この回は岸田隊員のドラマを核に物語が進行する。
ある日、毒ガスによる死亡事故が発生。怪獣が吐いたそのガスは、旧日本軍が開発したものであることが判明する。それを聞いた岸田の表情が曇った。思い当たることがあった彼は、自宅で亡き父の遺品を調べ、軍人だった父親がガス兵器の開発担当者であったことを知る。父の犯した罪を自らの手で償おうと、決意を秘めた目で出動する岸田。他の隊員に先駆け、何かにとりつかれたように怪獣を攻撃する。制止しようとする郷に対して、「この怪獣だけは俺の手で倒したいんだ! 倒さなきゃならないんだ!」と言いながら特攻まがいの攻撃を仕掛け、アロー号ごと怪獣に叩き落とされてしまった。そのときの恐怖におののいた表情。岸田が、初めて弱みを見せた瞬間だ。彼は一命を取り止めたものの入院。ベッドで眠る岸田を見舞った郷は、「僕が代わりに怪獣を倒します」と心の中で語りかける。そして怪獣は倒され、全てが終わった。MATの仲間たちに迎えられ退院する岸田の顔には、穏やかな笑みが浮かんだ。そして彼は郷の肩に手を置き、お互い黙ってうなずき合うのだった。
当時、西田さんは、自分が演じる人物が物語の中心だけに、「気負って演じないと」と感じていたという。それだけに、この11話のことは非常によく覚えているそうだ。主人公ではない登場人物に、これだけドラマ性の高いストーリーが用意されたのは、それだけ俳優としての力量が評価されていたからだろう。西田さんは11話で見事に、岸田隊員の揺れる心情を演じてみせてくれた。そして岸田隊員は、ただ僕らの記憶に残るというだけでなく、シリーズ屈指の名キャラクターとなったのである。
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Written by 田近裕志(たぢか・ひろし)
子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
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明けの明星が輝く空に
改めて知る特撮もの・ヒーローものの奥深さ。子供番組に隠された、作り手の思いを探る
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