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明けの明星が輝く空に 第104回:特撮俳優列伝12若林映子

明けの明星が輝く空に 第104回:特撮俳優列伝12若林映子

【最近の私】『カメラを止めるな!』で最高に幸せな気分になった。映画のラスト、登場人物たちがみんな笑顔だったのを観て、実際の撮影現場もあんな雰囲気だったんだろうと思った。久々に、学生劇団をやってた頃を思い出させてもらえました。

 
映画好きであれば、「若林映子(あきこ)」という名前をご存じの方は多いだろう。そう、浜美枝と共にボンドガールを演じた、最初で最後の日本人女優である。

 
007シリーズ5作目、『007は二度死ぬ』(1967年)で、若林さんは「アキ」という公安エージェントを演じた。アキは物語の序盤、敵か味方かハッキリせず、謎めいた雰囲気を漂わせていたが、エキゾチックな顔立ちの若林さんはそんな役にピッタリだった。

 
しかし、より彼女の魅力を堪能したいのであれば、2本の東宝特撮映画をお薦めする。それは『007は二度死ぬ』をさかのぼること3年。1964年に公開された『宇宙大怪獣ドゴラ』と『三大怪獣 地球最大の決戦』である。

 
『宇宙大怪獣ドゴラ』で若林さんが演じたのは、いかにも悪女といった空気を漂わせる宝石強盗団の一員、「浜子」という役だった。浜子のキャラクターがよく分かるのが、その初登場シーンだ。深夜の街角、オープンカーを停めてタバコをくゆらせていると、警官が職務質問をしにやって来る。すると、彼女は落ち着き払った態度で、「何か御用?」「これ以上(の詮索)は、プライバシーの侵害よ」と、体よく追い払ってしまう。現実には、こんなことはあり得ないだろうが、シーンとして妙に説得力があるのは、風格すら感じさせる若林さんの演技のおかげだろう。

 
若林さん演じる浜子は、風格だけでなく、香り立つような色気も兼ね備えていた。特撮界で色気がある女優と言えば、水野久美(当ブログ第98回『特撮俳優列伝9 水野久美』参照)さんが有名だ。若林さんは、水野さんほどの派手さはないが、観ているうちに絡め捕られてしまうような、そんな魅力があった。お二人を花にたとえれば、水野さんは鮮やかな大輪のバラで、若林さんは深みのある美しさを秘めたクロユリ、といったところか。そういえば『宇宙大怪獣ドゴラ』では、最後に登場する黒いドレス姿が一番似合っていたように思う。

 
もう1本のお薦めの映画『三大怪獣 地球最大の決戦』において、若林さんは浜子とは対照的な役を演じている。架空の国、セルジナ公国から来たサルノ王女だ。落ち着いた物腰は浜子と共通しているが、こちらは王女だけにしっとりとした品位がある。もちろんメイクも衣装・髪型も違うけれど、同じ女優さんとは思えないほどの演じ分けだ。

 
この映画での若林さんの見せどころは、何といってもラストシーンだろう。三回も危機から救ってくれた日本の進藤刑事(夏木陽介!)に、別れを告げる場面だ。進藤にほのかな恋心を抱いていた王女だったが、身分の違いから別れの時が訪れる。一語一語、気持ちを込めて、感謝を伝える王女。その大きな瞳には涙が光っていたが、気丈に振る舞い、最後まで王女としての品格は崩さなかった。若林さんは、王女の秘めた想いを目だけで表現し、あとは抑え気味に演じていたが、悲しみや恋慕の想いは、抑えた演技の方が観る者の心に触れることがある。若林さんの名演技によって、このラストシーンは特撮史に残る名場面となったと言えるのではないだろうか。

 
進藤刑事との別れの場面を演じるにあたって、本多猪四朗監督からは、名作『ローマの休日』(1953年)を意識してやるようアドバイスがあったそうだ。若林さんはオードリー・ヘプバーンに憧れていたそうだから、この一言で演技へのモチベーションがより高まったことは想像に難くない。印象的な熱演も、なるほどと納得がいくというものだ。

 
サルノ王女は映画の中盤、ずっと金星人にとりつかれた状態で、人格を支配されていた。このときは無表情で感情がほとんどなく、どこを見ているともつかないような目をしており、人間とは違う別の何かのようだ。若林さんはこちらでも、「いかにも」な雰囲気を醸し出していたが、これはもう演技のテクニック云々ではないような気がする。キャラクターと役者がシンクロすると、自然と全身から「濃密な空気」のようなものが立ち上る。そんなことがあるんじゃないだろうか。人格の異なる二人のサルノ王女に、強盗団の浜子。どの役においても、若林さんは強い存在感を持ち、その個性的な顔立ちと相まって、とても印象的だ。本当に「雰囲気のある」女優さんだなと思う。

 
ちなみに「若林映子」は芸名ではなく、本名だそうだ。夕映えの増す頃に生まれたので、そう名付けられたという。登場するだけで場面の空気を変え、スクリーンを自分の色に染めてしまう。そんな若林さんの魅力は、生まれたときに授かったものなのかもしれない。

 
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Written by 田近裕志(たぢか・ひろし)
子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
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明けの明星が輝く空に
改めて知る特撮もの・ヒーローものの奥深さ。子供番組に隠された、作り手の思いを探る

 

 
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