第106回:特撮俳優列伝14 二宮秀樹
【最近の私】MLBの進化が止まらない。昨シーズン「フライボール革命」が起き、今シーズンは「オープナー」が一つの潮流となった。大谷翔平の二刀流も、今後のトレンドにならないとも限らない。僕らは今、貴重な時代の目撃者となろうとしているのだろうか。
NHK連続テレビ小説『半分、青い。』の主人公、鈴愛は、笛を吹いて幼なじみの律を呼ぶ。元ネタは、特撮テレビドラマ初のカラー作品、『マグマ大使』(1966年)だ。主人公のマモルが笛を吹けば、正義の味方マグマ大使が助けに来てくれるわけだが、呼び出せるのはマグマ大使だけではない。妻のモルと息子のガムも、必要とあらば現れる。そのガムを演じたのが、今回紹介する二宮秀樹さんである。
二宮さんは小学校5年生のとき、父の転勤先である名古屋で芸能関係者にスカウトされた。このエピソードからも分かるように、二宮さんは眉目秀麗な美少年だった。東海テレビのドラマでデビューしたあと大映専属となり、勝新太郎主演の『座頭市関所破り』(1964年)や市川雷蔵主演の『新・鞍馬天狗』(1965年)などに出演。『マグマ大使』を製作したピー・プロダクションの鷺巣富雄代表(当時)は、「その頃の大映の子役では一番」だったと賛辞を贈っている。
その後、大魔神シリーズの3作目『大魔神逆襲』(1966年)では、主役に抜擢された。二宮さんが演じたのは、山村の少年・鶴吉だ。強制労働に連れ去られた村人たちを助けようと、仲間たちと“魔神の山”を越える旅に出る。しかし、雪深い道中で、弟・杉松と友人が動けなくなってしまった。このとき鶴吉が取った行動には、誰もが胸を打たれるだろう。彼は二人を救うため、自分の命を魔神にささげようと決意するのだ。「どうか二人を助けてください」という言葉を最後に、鶴吉は崖から身を投じた。(その後、雪の中から現れた大魔神によって、鶴吉は命を救われる)
二宮さんのまっすぐな瞳と語り掛けるような祈りが、鶴吉の純真な心を見事に表現している。その演技は、穢れのなさを想起させる真っ白な雪景色と、バックに流れる哀しげなメロディと共鳴し、至高の名場面を生み出すこととなった。特撮史全体を俯瞰しても、これを超えるシーンはなかなか無いだろう。僕自身、大魔神シリーズの登場人物や場面はほとんど忘れてしまっていたが、このときの鶴吉だけは例外だった。
『マグマ大使』でのガム(=二宮さん)は、とにかく無邪気で天真爛漫、明るく活発な印象だった。彼は、ときおり自分のことを「ガム様」と呼び、「ガム様が助けに来たからには、もう安心だぜ」などと生意気なことを言ったが、かえって微笑ましく感じるような少年だ。あるときなど、“人間モドキ”と呼ばれる敵に囲まれてしまった際、「我々は人間モドキだ」と名乗るのを聞き間違えて、「え? ガンモドキ!?」と珍しくボケたりもしたが、それもかわいらしい。当時、二宮さんがもらったファンレターはほとんど女の子からで、年上の子が多かったというのも、うなずける話だ。
そんな二宮さんだが、『マグマ大使』全52話のうち4話だけ、撮影に参加していない。『大魔神逆襲』の撮影と重なったためだ。その間、代役が立てられたのだが、はっきり言って二宮さんより演技が上手な子役だった。セリフ回しはなめらかだし、表情を作るのもうまい。ただ、その分、ガムが妙に大人びて見えてしまい、二宮さん演じるガムが持っていた子供らしさに欠けていた。少々舌足らずだった二宮さんは、長いセリフを一生懸命しゃべろうとしているのが感じ取れたが、それが子供らしさにつながり、結果的にガムの魅力にもなっていたのだ。“演技の巧みさ”イコール“登場人物の魅力”ではない、ということなのだろう。演技論の観点から見ても、興味深いことだ。
ちなみに、主人公のマモルを演じたのは、のちにフォーリーブスのメンバーとなる江木俊夫さんである。二宮さんにとって二人の仲は、「実の兄弟みたいだった」そうだ。一方、江木さんは『マグマ大使』撮影当時を振り返り、3歳年下の二宮さんに激しいライバル心を燃やしていたことを明かしている。年齢もキャリアも上で、自分は番組の主人公だという自尊心がそうさせたようだ。このエピソードは、二宮さんが演じたガムの存在がいかに大きかったか、ということを物語っている。ライバル心とは、圧倒的な差がある相手に対して芽生えることはないからだ。実際、マモルは優等生タイプで、ガムと比べると、キャラクターとしての面白みに欠けるところがあった。
やがて二宮さんは、『マグマ大使』出演を最後に、芸能界から引退した。それから30年ほどたって受けたインタビューの中で、「ガムという役を演じたことを誇りに思う」と語っている。ファンにとっては、そんな言葉が何よりうれしい。足掛け4年という短い時間の中で、特撮史に残るキャラクターを演じた二宮さん。ガムのあどけなさと鶴吉のまっすぐな瞳は、いつまでも僕の心の中で生き続けることだろう。
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Written by 田近裕志(たぢか・ひろし)
子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
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明けの明星が輝く空に
改めて知る特撮もの・ヒーローものの奥深さ。子供番組に隠された、作り手の思いを探る
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