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明けの明星が輝く空に 第109回 特撮俳優列伝16 平田昭彦

明けの明星が輝く空に 第109回 特撮俳優列伝16 平田昭彦

【最近の私】JVTA新年会で新楽代表が発表した「いきなりソング」トップ5。もし途中で「田近さん、番外編として特撮では何かない?」と振られたら、「『モスラ』ですね」と答えようと思っていたら、1位がなんとその『モスラ』! 正直「やられた」と思いました。さらに会場でお話しした参加者の中に「私、モスラの歌詞覚えてます」という方がいて、またビックリ。ちなみに僕は覚えてません・・・。

 
多くの特撮作品で博士役を演じた平田昭彦は、『ゴジラ』で知られる本多猪四郎監督にとって、極めて重要な俳優だったのではないだろうか。前回の記事『干支と特撮:イノシシ』(https://www.jvta.net/co/akenomyojo108/)で紹介したように、本多監督は「科学の暴走」に対する警鐘を数々の作品に盛り込んだ。その「科学」を象徴する立場にあるのが、「博士」という登場人物だ。

 
1953年、25歳で映画デビューを果たした平田さんは、翌54年に公開された『ゴジラ』で、苦悩する青年科学者、芹沢博士を演じた。後年に開催されたトークショーでは、「僕のデビュー作は『ゴジラ』だと思っている」と発言しているが、それだけ思い入れのある作品ということだろう。あるインタビューでは、「怪獣が出る映画にはロマンがある」とも語っていて、そのあたりもファンにとっては理屈抜きにうれしいところだ。

 
芹沢博士は、自分が発明したオキシジェン・デストロイヤーを使って、ゴジラと“心中”する。その装置が将来、兵器として利用される危険性を恐れ、自身もろともこの世から消し去るためだった。『ゴジラ』における最も劇的なシーンであり、芹沢は誰よりもドラマを背負った登場人物だった。そんな重要な役を任されたのだから、平田さんは俳優として高く評価されていたに違いない。

 
その後、平田さんは『空の大怪獣ラドン』(1956年)で柏木博士、『キングコング対ゴジラ』(1962年)で重沢博士を演じている。科学的見地から怪獣出現などに関する分析・解説を行い、物語にリアリティーを与える重要な役柄だ。『ゴジラ』で同様の役割を担っていたのは芹沢の師、山根博士だった。演じたのは名優・志村喬。口調や物腰からにじみ出る山根の人間的な深み・奥行きが、その発言に説得力を持たせていた。一方、平田さん演じる二人の博士は、知性を全面に押し出したタイプだった。実は平田さんは東京大学法学部出身なのだが、その経歴に「ああ、なるほど」と思わず納得してしまった。

 
本多監督の作品ではないが、1966年に放送が始まった『ウルトラマン』でも、平田さんは博士役として出演している。このとき演じた岩本博士は、さらに強い知性のオーラをまとったような人物で、いかにも紳士然とした立ち居振る舞いが印象的だ。どこか泥臭いイメージのあったそれまでの怪獣映画と比べ、“光の国”から来たヒーローの活躍を描く『ウルトラマン』は、未来的でキラキラ光り輝く作品だったが、高級そうなスーツが似合う岩本博士も、作品のイメージ同様スマートでスタイリッシュだった。また、そこにいるだけで周囲に安心感が広がるような、そんな頼りがいのある人物でもあった。僕にとっての平田さんといえば、この岩本博士役の平田さんだ。個人的には、これが平田さんにとって一番の“ハマリ役”ではないかとも思っている。

 
『ゴジラ』から約20年後の1975年には、本多作品の『メカゴジラの逆襲』に出演。演じたのは、狂気をはらんだマッドサイエンティスト、真船博士だ。学会から異端視され、研究所を追われることになった彼は、社会への憎しみと復讐心に突き動かされていた。このときの平田さんは、少し背中を丸め、顔を前に突き出すような姿勢でカメラの前に立ち、岩本博士のスタイリッシュな印象は微塵もない。「私を社会から抹殺した馬鹿者どもに、必ず復讐してやるのだ」と言い放ち、うれしそうに下卑た笑い声を挙げる場面では、「これが平田昭彦?」と疑ってしまうほど、それまでの芝居とは趣が異なっている。その一方、そんな演技が妙に様になっているので、「こんな演技もできるとは!」と、あらためて平田さんの引き出しの多さにうならされた。

 
平田さんは、『ゴジラ』の芹沢博士の延長線上に、真船博士がいると思って演じていたそうだ。キャラクターも取り巻く状況も全く異なる二人だが、ともに科学に翻弄され、さらに社会とは相容れない立場にいるという点で一致している。彼らは、「暴走する科学への警鐘」と、「はぐれ者の孤独」をテーマに掲げる本多猪四郎監督作品において、最も重要な登場人物だと言える。そのどちらの場合も、平田さんがキャスティングされたのは、単なる偶然ではなかっただろう。

 
平田さんは、1984年公開の『ゴジラ』(橋本幸治監督)に、生物物理学者の役での出演が決まっていたが、体調を崩して降板を余儀なくされる。「せめてワンカットだけでも」と、ほかの役での出演を熱望していたが、映画公開を待たずに、まだ56歳で帰らぬ人となってしまった。元気であれば、一体どんな博士像を見せてくれていたのだろうか。平田さんが演じた博士役の変遷を振り返るとき、そんな思いがふつふつと湧いてくる。

 
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Written by 田近裕志(たぢか・ひろし)
子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
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明けの明星が輝く空に
改めて知る特撮もの・ヒーローものの奥深さ。子供番組に隠された、作り手の思いを探る

 
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